"時の切れ目は命の切れ目"『TIME』
アンドリュー・ニコル監督作!
全ての人類の成長が25歳で止まり、通貨のかわりにその寿命がやり取りされる世界……。わずかな余命のみしか与えられない貧困層出身のウィルは、ある日、人生に飽いた富豪の男に100年という時間を譲られる。直後、母を失い、復讐のために富裕層の暮らすゾーンへと侵入するウィル。そこで彼は、大富豪の娘シルビアと出会う……。
ご多分に漏れず『ガタカ』は大好きなので、かなり楽しみにしていたのだが、少々期待はずれであった……。
いや、好きなタイプの話ではあるのだが、あまりに設定が甘く展開にピントがいちいち合っていないために全然乗れないのである。通貨にもなっている「時間」を、持たざる者である主人公が持てる者から奪い取りのし上がっていく、というストーリーは定番だが、ある時はポーカーだったり、ある時は手首を引っくり返す力なのかテクニックなのかよくわからんゲームだったり、またある時は強盗だったり……。
富裕層のゾーンに踏み込んでいった主人公が、いきなり本名名乗って行動バレバレだったりするあたりも、「大胆さ」に見えず単に思慮が足りないようにしか思えない。で、見つかって逃げ出して、走って逃げ切ってしまったりするわけで、一向に彼のキャラクターの強さや格好よさが見えて来ず、対する追手……キリアン・マーフィの有能さも現れてこないのである。
貧乏人の大逆襲? 能ある鷹が本気を出す? あるいは金が手に入れば女にモテ出す、みたいな話でもいいんだが、描写を絞ってキャラが立ってくればそれに連れてストーリーも転がり出すのに、一向にそうならない。主人公が地味目なら、キリアンがもっと強烈なキャラで容赦なく追いつめてきてくれてもいいし、アマンダがもっと破天荒な女に変貌してもいいし。
監督のロマンチシズム溢れた作風は好きなんだけど、ちょっと今回はその部分が機能しなかった感じだな。後半は『俺たちに明日はない』で、非常に美味しいシチュエーション、燃えるお話の数々が展開される……はずなのに、設定が緩いために主人公たちが逆襲する流れ、世界が崩壊していく展開がどうもお手軽に見えてしまうのがもったいない。富裕層の悪辣さとそれに腕一本、頭脳で立ち向かう主人公の格好よさを描いてほしかった。これでは文明批判にもならんよ。格差社会と言えば、アメリカでも日本でも重大なテーマなのに。
昔の『フリージャック』みたいな映画をちょっと期待していたのだが、キリアンも美味しい役になりそこねたかな〜。顔にフリーのハンター的な不穏さがあるので、ミック・ジャガーみたいなキャラになるんでは、と思ったのだが、意外に実直なキャラであった。
海水浴のシーンが『ガタカ』だったな〜。監督は海で泳ぐ事になんかこだわりがあるのか? もう少し詰めた内容での捲土重来を期待したい。
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