"ストイックに闘え"『ザ・レイド』


 シラット映画!


 ジャカルタのスラム街に立つ高層ビル。その中にいる麻薬王を捕らえるべく、20人からなる特殊部隊が突入する。だが、その急襲は事前に察知されていた……。ビル内に溢れ返る犯罪者の猛攻撃に次々と倒れて行く隊員たち。新人隊員のラマは、傷を負った仲間のために孤軍奮闘を強いられる。彼には、麻薬王逮捕の他に、もう一つ目的があった……。


 インドネシア映画であり、ご当地格闘技シラットで格闘シーンを構成している、ということで、これは観ないわけにはいかんではないか。しかも関西はほぼ難波のみという公開状況。


 さて、導入部分が全然なくていきなり舞台となるビルに突入する特殊部隊! 速い! 一応、主人公の妻が出産を控えておるところや、朝からトレーニングを欠かさず何やら強そう、という描写もあるんだが、あっさり風味を通り越しておる!
 ターゲットである犯罪者のボスとその腹心二人のことも、いきなり台詞でざっと説明。で、ボスが並んでる人間を容赦なく殺すシーンに続き、残虐性をアピール……。いや〜、観ていて何か、ほんとに話の筋とかに興味がないんだな〜、と感じた。この殺されてる人らが何をした何者なのかも全然わからないし、とりあえずボスは非情です、ということを見せるためだけの記号ですわな。反面、血の飛び散り具合の特殊効果の景気よさには気合を感じた。


 早くビルに入ってドンパチボカスカをやりたくってしようがないのかな、というのは観ていてもすぐに伝わるところで、あっさりと侵入に成功。子供に見つかってあっという間に銃撃戦に! この侵入シーンの静かな緊張感と、特殊部隊ならではの距離の稼ぎ方の描写は、一見の価値あり。
 ここから怒濤の銃撃戦にシフトし、襲いかかるビルの住人(犯罪者)たちの猛攻撃で、部隊の仲間は次々と倒されて行く! 主人公は新入りという設定なので、チーム感がない上にみんな同じような格好をしてるので、びっくりするぐらい影が薄く、どこにいるのかもわからないぐらいになってしまっている。とりあえず人数を減らさないと主人公他メインキャラの孤立を描けないから、どんどん減らしていこう! という景気のいい間引き方である。


 実を言うと、ここらへんまではかなり眠くてつまらなかった。絵自体は作り込まれているものの、お仕事で来ているだけの主人公が、何をやってるのかもよくわからない犯罪者を捕まえるだけの話で何の引っかかりどころもなし。もうええから、噂の超絶アクションを早く見せてくれよ、という気持ちでいっぱいになりましたよ。


 ビル内部で、負傷した仲間を抱えて脱出不能。独力で何とかするしかない! というシチュエーションに主人公を追い込むまで、結構時間がかかったなあ……。基本的に話の順序通りに撮ってるからか、物凄くもたついて感じられた。キャラ紹介や導入は綺麗にすっ飛ばしたのに、状況描写だけは丁寧にやり過ぎてるから置いてけぼり感が半端ない。そこらへんは本来なら「臨場感」でカバーするはずなのだろうが、絵がリアルなだけでは痛みを感じるとは限らない、という典型のような展開であった。


 ……が、お待たせしました! いよいよここからが本番です! 孤立した主人公が、負傷した同輩を救うため、唯一堅気の入居者に助けられて単身立ち向かう! ここから映画が始まっても良かったのに。


 序盤は基本武装のナイフとトンファーを使って、廊下での多数を相手の死闘が繰り広げられる。トンファーと体捌きでディフェンスし、ナイフによる数度の刺突で仕留める、というのが基本戦法。戦ってる内にどんどん武器も消耗していって最後は素手になってしまうのだが、刺されてダウンしてもなお攻撃して来る相手を関節技で仕留める! 先日の『エージェント・マロリー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20121010/1349858686)のような、一対一の状況で綺麗にセッティングして決めるようなスタイリッシュさではなく、他の相手に邪魔されるかもしれない状況で泥臭く首を取って極めるような(実際、極まり切らないシーンもあり)、実戦感に溢れたもの。
 さらにボスの腹心の内一人と主人公の因縁が飛び出し、部隊のリーダーがもう一人の腹心マッドドッグに素手で惨殺されたりと、やっとキャラも立ってストーリーも展開して来る。もうちょっと導入ででも匂わしてれば良かったのに。


 シラットって、やっぱりポイント制の格闘競技にもなってるからか、間合いが決まったところで蹴り合うようなシーンも散見された。それに加えて実戦の中でつちかわれてきた古流があり、映画の中でのアクションはそれを折衷したようなものになっているのであろう。トニー・ジャーの『マッハ!』でも、ムエタイ独特の肘や膝だけでなく、カンフー映画っぽいムーブが多用されているし、良い意味で色々と取り入れている印象。
 その中でもリアルに最短で敵を倒す、という動作に力点が置かれているので、一見しただけでは地味な攻防もある。シラットという武術を見せつつリアリティを維持し、なおかつ魅せる、というギリギリのバランスを追求した結果だろう。クライマックスは2対1の素手対決! 素手で戦わなくては気が済まないマッドドッグのキャラクターは、まあ御都合主義ではあるけれど、こういう映画には必須ですわな。


 撮りたいアクションシーンに全てを結集し、かなりストイックに作った感のある映画。アクションだけ撮りたい映画だと、自然とキャラクターや背景がおざなりに、いい加減な取ってつけたような描写が加わって嘘くさくなったりするものだが、今作はそのあたりまでストイックにばっさり削ぎ落とし、ほとんどないに等しいところまでシェイプアップしている。観ていて『REC』を思い出したな〜。閉鎖されたビル内部で延々敵が襲って来るという構成がそっくり。今作もちょっと構成いじればPOVになるんじゃないか。あちこち監視カメラだらけ、という設定もあることだし。まあ手持ちと固定だけではアクションシーンが画面を通り過ぎて行くだけになるのは間違いないが……(笑)。

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