"突き出るアゴ、ほとばしるエゴ"『アンナ・カレーニナ』


 名作の映画化!


 帝政末期のサンクト・ペテルブルグ。社交界の華と言われるアンナは、政府高官のカレーニンの妻であった。だが、兄の離婚危機を嗜めるために向かったモスクワで、美貌の騎兵将校ヴロンスキーと出会った彼女は、瞬く間に恋に落ちてしまう。一度は自制するも、ペテルブルグにやってきたヴロンスキーを前にして、情熱を抑えられなくなり……。


 無学なもので、この古典も全然読んでいなかったわけだが、そんな僕の強い味方がハリウッド映画! これを観ておけば、


「『アンナ・カレーニナ』? ああ、知ってるよ、あの話はね……」


と知ったかぶり出来るであろう、という不純な動機で見に行きました。いやいや、僕はキーラ・ナイトレイも結構好きですけどね!


 キーラ・ナイトレイ演ずるアンナ・カレーニナが、兄貴の不倫に関しては手厳しかったのが、自分が義妹の恋愛相手の若き将校アーロン・ジョンソン相手に燃え上がってしまう、というお話。まあアーロン・ジョンソンが超イケメン過ぎて引くレベルで、もうタイツ野郎の役のことはほぼ忘れました……(また『キック・アス2』来たら思い出しますよ!)。縦に半分尻も見せ、ピチピチすぎてビビるね。
 対するジュード・ロウは、自ら頭を剃って、妻を寝取られるうらぶれた大臣役を演じてる……はずなんだけど、これ、ほんとに剃ったのかな? もうナチュラルにこれぐらいまで上がってるんじゃないですか? ストーリー上は清廉潔白で、まあ仕事こそ忙しいものの良き夫、ということになってるはずなんだが、やっぱこの人も元祖イケメンなので、全然枯れて見えないのだよね。普通に二、三人、愛人いるように見えるんですが……。案の定、巷間では「アーロン・ジョンソンなんかよりジュード・ロウの方がいいじゃん!」という意見も見かけ、ほらほら、それが役にはまってない証拠ですよ! まあ実際のところは、キーラさんのフリーダムっぷりの煽りを食らい、不倫を許すところまでしなければならなかった気の毒な境遇に同情票が集まったせいかもしれませんがね……。


 その二大俳優を相手に回し、己の心のままに自由に生きるアンナ・カレーニナことキーラ・ナイトレイのアゴ、違った、エゴがすげえぜ! 当時の倫理的には褒められたものじゃない行動を取るキャラクターを、「私を映せ!」と言わんばかりの自己主張そのままに演じておる。何だ、もう大女優扱いなのか、この人は!?
 監督はジョー・ライトということで、舞台劇のようなセットを使い、『レ・ミゼラブル』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130101/1357020142)ともまた違うアプローチ。舞台裏や天井上までカメラが上がって行ったり、メインの役者以外が動かなくなったり、色々と小細工をしている。まあどの程度効果が上がってるかというと疑問だが……。


 対になる非モテ、非イケメンのドーナル・グリーソンの地味な幸福についてのお話が、上記の殺伐たる三角関係に対してインパクトが弱く、本来の眼目であるべきアンナ・カレーニナとの対比にちゃんとなってないのではないか……と言うか、こっちのパート、やる気なくねえ!? 原作さえなければ全部カットを要求したいぐらい、キーラ・ナイトレイのエゴ爆裂ばかりが印象深く、どうにも関係ない話がねじ込まれているように見えてしまったのであった。
 ところで、途中の汽車のシーンでは、不意打ちで内臓を見せられてドキッとしたが、これだったらラストもやって欲しかったよなあ。首が吹っ飛ぶとかさあ……。その方がキーラも満足したんではなかろうか、と思ってしまうぐらい、『危険なメソッド』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20121123/1353622891)に続いて最近の役へののめり込みっぷりが素晴らしい彼女でした。


 終わってみると、うん、やっぱり原作をちゃんと読まないと知ったかぶりもまずいなあ、自分の理解度が怪しい、という気分。まあいつかそのうち読むかもしれませんね、はい。

危険なメソッド [DVD]

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シルク [DVD]

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アンナ・カレーニナ(上)

アンナ・カレーニナ(上)

アンナ・カレーニナ(中)

アンナ・カレーニナ(中)

アンナ・カレーニナ(下)

アンナ・カレーニナ(下)