”今日は降る天気ではない”『楊家将 烈士七兄弟の伝説』(ネタバレ)


 中国の人気古典を映画化。


 度重なる遼の進行において、宋は名将楊業の活躍によって苦しみつつもそれを退けていた。だが、息子の不始末によって総大将を外され先鋒となった楊業は、戦地に孤立する。宗に残る母は七人の息子たちを救出のために送り出すが、出陣前に下された予言は「七子行き、六子戻る」という不吉な物であった……。
 

 敵の策と味方の裏切りで戦地に孤立したお父さんを、七人の息子が助けに行くというお話。これ、実にシンプルなお話で、予告編もわかりやすくていいんですが、実はこれが曲者なんですね。


「七子行き、六子戻る」


 これは母親が、息子たちを戦地に赴かせるにあたって、占いの偉い先生にお伺いを立てた結果。「ええ〜、どうせろくなことにならないのわかってるっしょ!?」と占うことを渋った先生だが、後からこの予言をメモってくれるのである。
 いやいや、まあ冷酷な人間ならずとも、「あっ、一人で済むのか……」と思っちゃうところだね。母親もちょっとほっとしたっぽいし、長男役のイーキン・チェンもすっかり真に受けて、「いざとなれば俺が弟たちのために!」と決意を固める。見てるこちらも、オチを割られたような気分で、「ああ……六人も助かるのか……」と若干釈然としない気分になるのである。まあしかし古典にそんなこといっても始まらんしね。なんか教訓的なお話になってるのかもしらんし……。


 が、楊家に恨みを持つ敵は用意周到かつ執拗で、何重もの包囲網を敷いてきて、絶対不利な状況が示される中盤、何やら雲行きが怪しくなってくる。果たして、別行動を取った七男が、まだピンチも序盤というところでハリネズミになって惨死したところで、えっ、もう一人死んだの? こっから無傷で生き残れるの?とどんどん心配に。その七男が夢枕に立ったお父さん、元から毒矢ぶち込まれて瀕死だったのもあって、敢えなく旅立つ。このあたり、原典では石碑に頭をぶつけて死ぬ、という展開になってるそうで、確かにその瞬間こそ映さなかったけど、石碑にもたれかかって死んでたわ〜。


 最大の目的がこれで失われてしまったわけだが、一応まだ六人とも生きてるし、ここは亡骸だけでも連れ帰ろうということに。
 敵の将軍は楊家に父を殺されて恨みを持っており、侵攻自体よりも復讐に重きを置いている感があり。逃走する兄弟を自ら追撃するのだが、「精鋭百騎で追う!」とか言っちゃう。いやいやいや、ちょっと少なくないか? ここを五百にしとけば勝っていたのでは……まあ進軍のスピードの問題なんかもあるかもしれませんが。


 追撃を受け、長男のイーキン・チェンが次男にだけ予言を見せ、「ここは俺が引き受ける。おまえたちは先に行け」という役回りを買って出る。自分だけが犠牲になれば……ということなのだが、いやいや七男はもう死んでますが……ということは助かるのか? 全然展開が読めない! が、奮闘虚しく、イーキン壮絶に散る! さらに行けと言われたのに戻ってきた次男が、そして四男五男も立て続けに散って行く。このあたり、ちょっと兄弟それぞれのバックボーンが描かれてないのでもったいなかったかな。
 三男も敵将との壮絶な弓対決を制するものの、直後に将軍に討たれる。残りは六男ウー・ズンただ一人……。


 いやいやいやいや、予言外れすぎっしょ! 落語で男が占い師に、「これから雨は降るか?」と聞き「今日は降る天気ではない」と言われるという話がある。ああ晴れなのか、と思って出かけると大雨になり、切れて問いただしたら「今日は降る。天気ではない」と言ったんだと強弁される。
 さて、今作ではどんな言い訳がされるのか……と思ったら、誰も突っ込まないまま終わっちゃったよ! もやもやするなあ。ちなみに俺が考えた言い訳は、「七人行き、六男が帰ると言ったのだ」というこじつけと、「武器は帰って来た、魂と共に……」という物に託した説ですね。まったく、こういうこじつけを野放しにして突っ込まずにいるから、ノストラダムスみたいなのがはびこるわけだよ……。


 見ている間はこの占いによるミスディレクションが響き、その結果ばかりが気になってしまったね。映画自体は悪くはないですが、盛り上がりどころに関しては川井憲次効果が大きいような気がする。音楽の盛り上げが凄いが、映像がそう桁違いに迫力あるかというとそうでもないか。最後の、兄弟全員の武器を使って戦うあたりは面白かったですね。

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