”おまえの影はどこに”『嗤う分身』


 ドストエフスキー原作!


 7年も働きながら、上司に名前さえ覚えてもらっていないサイモン・ジェームズ。影が薄く、同僚や母親からも疎まれている。密かに恋するコピー係のハナともなかなか話せない。そんなある日、向かいのビルからの男の飛び降り自殺を目撃したことをきっかけに、彼の人生は狂い始めた。会社に現れたジェームズ・サイモンという男、その顔は……。


 この映画がきっかけで付き合いだした、というジェシー・アイゼンバーグミア・ワシコウスカの共演作。果たして、原作は古典であり、このネタでは元祖中の元祖とも言える。それだけに近年の作品では『複製された男』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140730/1406721846)などよりずっとシンプルで分かりやすい。


 押しが弱く影が薄くて、会社でも目立たず仕事でもアピールできず、女ともうまくしゃべれない男の前に、もう一人の自分が現れる。見た目はまったく同じなのに、上司にもすぐに取り入って会社でも人気者になって重用される。自分が欲しかったものをすいすいと手に入れていくもう一人……。
 今作も、このもう一人の自分の正体は、とか、そういうことをミステリ的に気にする必要はほぼなく、コンプレックスと願望の現出と捉えて良かろう。ひねりはなく、ストレートにこのもう一人の自分に取って代わられる恐怖が描かれる。
最初の内は、羨望とある種の痛快さを、このもう一人の行動に感じ、アドバイスを送ってくれる彼を良き友人のように思ってしまうのだが、行動がエスカレートするに連れて彼の利己性に気づくことになる。それらは全て自分の願望でもあり、仮に自分自身がもう一人のように変わったのだとしても、それは今の自分を踏みにじることでもある。
 密かに愛していたミアちゃんも、もう一人の方と付き合ってしまうのだが、実は彼は浮気し放題。その時、主人公は、歪んだ願望の化身にではなく、また違う自分へと変わることが求められる。


 原作は社会主義国であるソ連が舞台なのだが、今作はどこともわからない国になっていて、閉塞感のある街並みや社内にその共産主義、管理社会のムードを色濃く残している。そしてそこに流れる昭和歌謡……。いや、予告を見た時は何かの冗談かと思ったのだが、観てみると映画に意外に合っている。それともこれは、日本人である自分の心にストレートに響いているということなのか? でも「スキヤキ」はやっぱり『ヒーロー・ネバー・ダイ』が最高だから。


 ジェシー・アイゼンバーグは、あのとんでもない早口を、自己防衛のためのようにも見せられるし、自信の現れのようにも見せられるあたりがすごいですね。
 変なアートを作っている社内の不思議ちゃんであるミア・ワシコウスカは、相変わらず良かったですね。しかし、今作では初めて腕毛が気になったよ。そこらへんにも昭和の空気を感じたなあ(違うか?)。

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