#306 米原万里さん三周忌、プーチン政権への評価

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* "かくも長き不在" プーチンのロシアと米原万里3周忌
* 緊急特別講演会のご案内 いまウイグルはどうなっているのか!

* イベント情報

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■"かくも長き不在"プーチンのロシアと米原万里3周忌

 〈記事について〉

 安東つとむさんという人が季刊で発行している、『nudei』(ヌーディー)という雑誌がある。美容の業界誌として、今年初めに創刊された。業界のかかえる問題点や疑問を、消費者視点や社会的視点からとらえて提言するというもので、名前から想像するより、ずっと硬派な雑誌だ。

 業界誌・・・という括りは無理かもしれない。ウイグルチベットなどの、マスメディアがあまり報道しない問題も、積極的に掲載しているくらいだから。ミニコミがインターネット上のものになり、マスメディアが衰退していく中、こういう形で船出する人がいるのだ。

 そのヌーディーに、米原万里さんと、プーチン政権についての記事が載ったので、許可を得て転載する。メディアの転換に果敢に取り組む人にしか書けない、触れば切れるような鋭い一文。(大富亮)
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"かくも長き不在" プーチンのロシアと米原万里三周忌

                    (安東つとむ/nudei編集長)

 米原万里さんが、わずか56歳でガンに倒れ、惜しまれながら逝ってからもう3年過ぎた。

 小・中学時代の5年間をプラハのロシア学校で過ごしたときの友情や思い出をいきいきと描き、政治に翻弄されたこどもの悲劇の真実を浮かび上がらせた『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』。かつてのダンス教師の謎を追いながら、いまもなお本質的には変わらぬロシアの権力者たちの醜さおかしさを描いた『オリガ・モリソヴナの反語法』。もうこんな傑作に、わたしたちは会うことができない。

 3年目の5月、米原万里が生涯を終えた鎌倉市鎌倉芸術館で「米原万里 そしてロシア展」が開催された。連休中には特別講演会もあり、井上ひさしさんの講演と「米原万里、そしてロシア」のシンポジウムが開かれた。

 会場の小ホールの定員は600人だが、開会前から周辺は黒山の人だかり。キャンセル待ちの列まで長く伸びているのには驚いた。東京ならともかく、鎌倉にもこんなに万里さんのファンはいたんだ。そんな感想は、実はとても不遜だったとあとから気がつかされるのだが。

 井上ひさしさんの講演は、米原万里の反語法の意味を、戯作者らしく愉快に素敵に語る魅力的な講演だったが、今回のテーマではないので、それはまた別の機会に。

 この日の白眉はシンポジウムだった。万里さんの恩師でもあるロシア文学者の川端香里男さん、元NHKロシア支局長・小林和男さん、それに万里さんに励まされ続けたロシア文学者・沼野恭子さん。

 シンポ全体が白眉だったとはいわない。そのある瞬間から、それは劇的に変わったのだ。

 小林氏は元NHK支局長の人脈を活かして最近プーチンに会ったそうだ。そこで「びっくり仰天の体験」をしたという。

 「プーチン元大統領・現首相のことを皆さんは嫌いでわたしもそうだったが、ロシアの若い女の子はプーチンが大好きだ。プーチンは官邸に柔道場をもっていて、そこには加納治五郎の等身大のブロンズ像や写真があり、彼は毎日拝んでいる。プーチンは柔道は単なるスポーツではなく、日本の文化や伝統、精神から生まれたもので、柔道を知らなかったら、自分はここにいなかったと言う。日本人はそういうプーチンのことを知らない。もっと理解すべきだ」

 わたしは体が震えるほど怒っていた。では、万里さんがあんなにも憤り、死ぬまで「わたしはチェチェン病だ」と言っていたほど同情していたチェチェン人の民族的悲劇を起こし武力制圧と民族浄化さえ推し進めているのはいった誰なんだ! ロシアではプーチンに批判的で反体制的なジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤさんやリトビネンコが次々に殺されているのを、どう考えているのだ!

 すると、可憐にさえ見える沼野恭子さんがこう反論した。

「ロシアの文学者たちは、ずっと権力と闘ってきた。ロシア人の反骨精神、反権力、そしてロシアの中の良いものや文化を守っていこうとす気持ちを、万里さんも認めていた。アンナ・ポリトフスカヤさんのような優れたジャーナリストが頑張ってきたのに、わたしにはプーチンがどうしてロシア人に圧倒的に支持されているのか、知りたい。こんな大変な歴史をもっていて、こんなに悲惨な思いをしてきたのに、また同じ道を歩むのかと、悔しい気持がします」

 シンポジウムをただ黙って聞いていた会場の人たちの中から、大きな拍手がわいた。それは明らかに、プーチンに手もなくあしらわれて趣旨替えをして権力におもねる元ジャーナリストへの強い非難を含んだものだった。

 シンポから2ヶ月後、かつてアンナ・ポリトフスカヤさんの仕事を手伝っていたジャーナリストのナターリア・エステミローワさんが、チェチェンの自宅前で誘拐され銃殺死体となって発見された。ロシアと同じく、プーチンの傀儡カディロフ政権の下では、反体制ジャーナリストを殺した犯人は発見されないし、罰せられもしない。そのことを、メディアは大きくは伝えない。継続的なニュースすらない。体制側に乗っ取られたロシアの「国営」テレビはもちろん冷淡な扱いだ。そして日本のジャーナリストはこのざまだ。

 米原万里逝って3年、"かくも長き不在" を感じさせるシンポジウムだったが、しかし、あの600人の拍手の意味を考えるとき、希望がないわけではない。ロシアの文学者・ジャーナリストにもそうであってほしい。
 
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 「ヌーディ」は一般の読者にも販売している。定価840円。

 連絡先 〒167−0054
 東京都杉並区松庵3−21−10クレッセント西荻窪102
 株式会社街風通信 「ヌーディー」編集部
 電話 090ー4914−4597
 FAX 03−6772−5560
 e-mail machikaze@jcom.home.ne.jp



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 もうひとつお知らせを。

 この安東さんが幹事をしている、「フォーラム色川」が、ウイグルについての講演会を開くので、関心のある方はぜひご参加を。


 | フォーラム色川 緊急特別講演会のご案内 
 | 日本ウイグル協会会長が激白する!
 | いまウイグルはどうなっているのか!
 | 中国はウイグル
 | どんなことをしているのか!


 日 時 2009年9月6日(日)午後1時半〜
 会 場 中野サンプラザ 7F研修室10 (開場午後1時)
(JR中野駅北口下車 徒歩1分)
 講 師 イリハム・マハムティ氏 (世界ウイグル会議日本全権代表 
                       ・日本ウイグル協会会長)
 主 催 フォーラム色川
     お問い合せは TEL 090ー4914−4597 安東まで
      (定員100名   資料代 1,000円)

  ★「暴動」のきっかけは ウイグル人虐殺事件から★

  今年7月5日、突如中国ウイグル地域のウルムチの大学生たちが、中国政
  府に対する抗議デモを行った。多くのウイグル人もそれに賛同したが、中国
  政府はその平和的デモを武力鎮圧した。

  しかし、日本ではその抗議デモがなぜ起きたのか、何が問題なのか、ほと
  んど報道されないままである。その後7月5日の抗議デモは、6月26日
  に、ほぼ半強制的に中国山東省の玩具工場で働かされていたウイグル人労働
  者たち200人が、6000人といわれる中国人(漢人)に襲撃され、相当
  数のウイグル人が虐殺されたことに対する抗議だったことが明らかになって
  きた。しかも、インターネットでは、「ウイグル人を殺してやった」と自慢
  する中国人もいるそうである。

  ★チベットへの弾圧とまったく同じ口実★

  しかも中国政府は今回の事態を「ウイグル人による襲撃」と発表し、ウイ
  グルでの報道を規制しつつ、襲撃は、国際的なウイグル人指導者でノーベル
  平和賞の受賞候補にも選ばれたラビア・カーディルさん(世界ウイグル会議
  総裁)が「扇動した」と非難している。

  これはまるで、昨年のチベットでの事態とまったく同じパターンではない
  か。中国という国は、少数民族弾圧については、まったく同じことを繰り返
  す国家なのか。

  いったい、いまウイグルで何が起きているのか。ウイグル人たちは何を考
  え、何をめざしているのか。ウイグルに未来はあるのか。それを、世界ウイ
  グル会議の日本全権代表で、日本ウイグル協会会長でもあるイリハム・マハ
  ムティさんに語っていただきます。

  ★わたしたちができることは何か「反中国」では支援運動は広がらない★

  わたしたちが考えなければならない課題はもう一つあります。中国政府の
  少数民族政策の歪みを問題とするとき、日本ではともすれば「反中国」勢力
  が中心となることが多い。チベット文化研究所所長のペマ・ギャルポ氏が言
  うように、「そのような偏った運動では、ウイグルチベット問題に対する
  日本の支援運動が広がらない」

  そのような問題意識をもちながら、日本人であるわたしたちにできること
  は何なのか。それをともに考えていきたいと思います。

  ■「フォーラム色川」とは■

  「フォーラム色川」とは、歴史家・色川大吉先生から学んだものたちを中
  心に、広く市民によびかけてつくった市民歴史研究グループです。自由民権
  運動から戦後史、あるいは今わたしたちの目の前で起きつつある現代史の問
  題まで、自由でしなやかな視点で取り上げて、毎月講座や講演会、あるいは
  フィールドワークを開催しています。興味のある方は、ぜひご参加くださ
  い。詳しくは下記にご連絡ください。

  メールアドレス  f.irokawa@jcom.home.ne,jp
  「フォーラム色川 THEブログ」 http://firokawa1996.seesaa.net/



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■イベント情報

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11/20 文京:アンナ・ポリトコフスカヤ暗殺3周年・追悼特別上映会
      「アンナへの手紙」

http://d.hatena.ne.jp/chechen/20090821


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9/6 中野:日本ウイグル協会会長が激白する!
いまウイグルはどうなっているのか!

http://d.hatena.ne.jp/chechen/20090826/1251243462


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9/11 水道橋:9・11『沖縄「自立」への道を求めて』出版記念シンポジウム
    【いま、沖縄から日本を問う】

基地に依存しなければ、沖縄の経済は本当に成り立たないのか? 
沖縄に絡みついた「常識=既成観念」を覆すことで見えてくる沖縄、
日本の今後を探りたい。

http://d.hatena.ne.jp/chechen/20090826/1251291617


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9/17 広尾:バングラデシュチッタゴン丘陵地帯の平和を求めて
                  〜先住民族リーダーから学ぶこと〜

  世界から注目されることのない、日の当たらない紛争地。
  この秋、バングラデシュチッタゴン丘陵地帯の平和を求めて
  闘っている先住民族リーダーが来日する。

http://tinyurl.com/kpomgw


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9/26 文京:沖縄・宮森小学校ジェット機墜落事件から50年
       ◆平良校長・豊浜元教師と「フクギの雫」を観る会◆

50年前、嘉手納基地を飛び立った米軍ジェット戦闘機が、
うるま市の宮森小学校一帯に墜落炎上し、死者17名(児童11名)、
負傷者212名という大惨事を起こした・・・

http://d.hatena.ne.jp/chechen/20090826/1251329369


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9/26 大崎:シンポジウム「日本の中央アジア戦略」

中央アジア戦略を主導してきた専門家による講演を中心に、
日本−中央アジア関係を展望する上で貴重な論点を提供する。
田中哲二さん、廣瀬徹也さんほか。

http://d.hatena.ne.jp/chechen/20090826/1251338625


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10/3 水道橋:広瀬隆講演会「二酸化炭素温暖化説はなぜ崩壊したか」

http://d.hatena.ne.jp/chechen/20090820


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10/3 明治公園:NO NUKES FESTA 2009 -放射能を出さないエネルギーへ-

エネルギー政策の転換に向けて、全国から集まろう!

http://www.nonukesfesta2009.com/


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10/4 大井町:★Bee's Cafe - Vol.1 六ヶ所から見つめる未来-★

  六ヶ所村核燃料再処理工場、アクティブ試験開始から3年。
  わたしたちに見えたものは何なのか? わたしたちにできることは何なのか?
  ミツバチたちのように集まろう!語ろう!「ワールド・カフェ」的交流会

http://bees-cafe.jugem.jp/


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10/8 茗荷谷:オスロ・プロセスは「成功」なのか?
     再考・クラスター弾禁止条約〜徹底討論!林明仁VS.福田毅〜

http://aacs.blog44.fc2.com/blog-entry-31.html



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■映画・連続講座

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『鶴彬 ーこころの軌跡ー』

  万歳とあげて行った手を大陸へおいて来た──
  数多くの鋭い反戦川柳を詠んで戦争反対を貫き、
  獄中に果てた鶴彬の生涯。

http://tsuruakira.jp/


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『沈黙を破る』

考えるのをやめたとき、僕は怪物になったーー
2002年、イスラエル軍ヨルダン川西岸に侵攻。
その頃、「祖国への裏切り」と非難されながらも、
みずからの加害行為を告白する、若いイスラエル兵士たちがいた。
土井敏邦氏が13年間にわたって撮りつづけたシリーズ第四作。

http://www.cine.co.jp/chinmoku/


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チェチェンへ アレクサンドラの旅』

孫へのまなざし 平和への祈り ロシアの見たチェチェン

http://www.chechen.jp/


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 『ビリン・闘いの村』

パレスチナ暫定自治区ヨルダン川西岸のビリン村。
若者たちは非暴力の闘いに立ち上がった。

http://www.hamsafilms.com/bilin/


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