柴崎友香 / フルタイムライフ

 この小説を読んで、柴崎友香の作品をこれまで読んでこなかったことの不明を恥じた。彼女はなかなかの才能の持ち主だと思う。丁寧に紡ぎあげられた文章は読みやすくも安易に内容を伝達するだけではなく、文章を読むことそのものの方に誘いかけてくる。
 タイトルはパートタイムではなく、フルタイムの社員として働いている生活という意味。主人公は食品の包装をする機械を製造する会社に勤めるOL。その新入社員の1年間のうち5月から2月までの生活が描かれていくなかで、主人公はほんの少しだけ成長することになる。
 仕事に満足しているわけでもないが嫌という訳でもない主人公の、漠然とした気分のうつろいが文章の持続を支える柱になっているのだが、その気分の変化をもたらす出来事の描写が何と言ってもすばらしい。具体的に挙げていくと長くなるので詳しくは書かない。実際、取り上げられる個々のエピソードもおもしろいのだ。これも長くなりそうなので書かない。
 ところで、冒頭のほうに出てくる夏のロックフェス好きの社員の話は非常に微笑ましい(笑)。「フジロックは絶対行って、あとひとつは行くつもり」などと、二ヶ月以上先のことなのに気合が入っているのだが、そう、こういう人はいるのだ。会社のなかでもほとんど見かけないがいるのだ(笑)。
 

フルタイムライフ

フルタイムライフ

 

佐藤優・福田和也 / 瀬戸際の日本外交 (月刊『現代』2005年6月号収録)

 2005年5月5日のエントリで取り上げた佐藤優の対談。やはり彼の分析は抜群に面白い。中国の情勢分析、対中外交のあり方、潰された外務省国際情報部の必要性、あるべき外務官僚の姿、外務省動向の読み方(外務省が国内向けのポーズとして強行発言をしているかのような振る舞いをし始めているときがいかに危ないか)など、短い対談ながらも読みどころ満載だ。しかも、こうした佐藤の発言は基本的にすべて外交官たちに向けた言葉になっているのだ。
 ひとつだけ具体例を。派閥ごとに異なる永田町の言語体系を理解していない外務官僚が増え、政治家に届く言葉が使えなくなっているという指摘における事例だが、野中広務自民党総裁選に「200%出ない」と言っているのに鈴木宗男は一生懸命、野中の選挙活動をしていたらしい。なぜか。200%というのは普通の百分率ではない。本当に「絶対にない」ときは、「0だ」と言うんだとか。なんじゃそりゃ。こんな永田町の言語体系を理解しないといけない霞ヶ関はたいへんだ…。国民もたいへんだが。

ノミ・ソング

 もうすぐ我らがクラウス・ノミドキュメンタリー映画が公開される。もちろん必見! クラウス・ノミについては2005年1月8日のエントリも参照。
 
ノミ・ソング
http://www.elephant-picture.jp/nomi/