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阿部和重 『グランド・フィナーレ』

グランド・フィナーレ

映像とは、それ自体としてはただの風景と大差なく、映し出される出来事の意味は見るものの記憶に依存する。映画の面白さが人によって異なるのは、こうした事情のせいだ。その事情は、映像のみならず、視覚的刺激全般に当て嵌まるとさえ言えるかもしれない。

引用は同時収録「20世紀」より。
表題作は芥川賞受賞作。純粋に面白かった。一章と二章の相関なんてもうたまらない。ただ、なぜそこまで「神町」に拘るのか解らない。その執着だけが見苦しくて惜しい。他の収録作は「神町」に加えて更に阿部ちゃんの幼稚さが前面に出ていて思わず顔をしかめてしまいそうな勢い。「新宿ヨドバシカメラ」だけは神町関連ではないがあまりに安直で、よりによってこれがワーストな出来具合に思える。とはいえこれらの収録作も自分は好きである。表題作は落ち着いて狙いを定めて書いているが、他の作品はある程度好き勝手に書いているような気がするからかもしれない。