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宮部みゆき 『理由』

理由 (新潮文庫)
第120回直木賞受賞作。
荒川区超高層マンションで発生した殺人事件の顛末を、ノンフィクション風味のドキュメンタリータッチで描いている。事件の全貌は序盤では明らかでなく、様々な関係者へのインタビュー形式にて事件を紐解いていくという珍しい構成をとる。
その過程で幾人もの登場人物が登場するのだが、異様なほどの人物描写の巧みさに舌を巻く。特に本作のテーマの一つと考えられる「家族」の掘り下げ方については、なおざりにするつもりはないと言わんばかり。


(以下、ネタバレじゃないかもしれないけど作品の内容に触れますよ)








こうした構成・形式の面で異色さをみせる本作だが、更にもう一点異色というか、捉え方によっては欠点ともとれる部分が存在するように思った。それは、とある登場人物の書き様である。
既読の方はすぐ分かると思うが、一名だけ、作中人物の発言を通して「あの人のことがいちばん判らない」という位置付けにされ、敢えて深堀りされなかった人物が存在する。描写が皆無なわけではないが、あくまで外部的な周囲の環境・状況による人物描写にとどまっており、心理描写が圧倒的に欠如している。そのため、その人物の行動の「理由」がどうしても朧気に感じられるのである。
こうした手法は著者の意図したところであろうし、タイトルの深みを感じさせるには決して欠かせない要素だと思うので、自分としては著者の選択を支持したい。だが、どうも消化不良な点が残っているように感じるのも確か。
池上冬樹の解説によると、どうも当該事項についての著者の解答は『模倣犯』にあるようだ。こりゃもう読むしかないか……。