海の仙人

海の仙人

海の仙人

「ファンタジーがやって来たのは春の終わりだった。」
お話は、こんな風に始まります。社会から隔絶して、海辺の町で仙人のように暮らす河野とファンタジーの、奇妙な共同生活の物語。

ちょうど海辺でこの本を読んだので、砂の感じとか、潮の匂いを感じながら、とても気持ちよく読めました。なんだか、登場人物の誰もが「ファンタジー」をすんなり受け入れているのが、読んでいてとてもうらやましく…。ファンタジーは誰なのか、何なのか、そういうことはどうでもよくて、当然のようにそこにいて、それでよいのです。なんか、いい…。

ただ、私はこの本を図書館で借りたので、帯がついていない状態でした。というわけで全く先入観なしで読んだのですが、あとで本の画像を見たら、帯には「孤独」という文字が。そうか、孤独を描いたお話だったのか…。読んでいる間、その文字は一度も浮かびませんでした。すいません。伝わってなくて。でも、登場人物みんなの「こういうふうにしか生きていけないんだ」というあの感じは、そうか、孤独というのかな…と後から思いました。

片桐さんのこんなセリフに、心がふっと軽くなる気持ちがしました。

「あのさ、偽善と同情は違うんだよ」片桐が言った。
「同情が嫌なのは、てめえの立っている場から一歩も動かないですることだからだろ。でも、偽善はさあ、動いた結果として偽善になっちゃんたんなら、いいんじゃないの?しょうがないよ。そのとばっちりは自分に来るわけだし」

「俺に救われるんじゃない、自らが自らを救うのだ。」というファンタジーの言葉もしかり、こんなふうに思って、私も生きていきたいなと思いました。

芥川賞候補作だったわりには、結構好きでした。(ちょっとうれしい。)