ウィキッド

今日は夏至だそうです。
約ひと月前に観た舞台は劇団四季ミュージカル。何年か前に東京で上演されていて気になっていたものでした。
会場は、以前「四季」の専用劇場だったところ(旧・福岡シティ劇場、現・キャナルシティ劇場)
今は他のお芝居の公演にも開放されているので、今回は「四季」の里帰り公演みたいなかんじもします。



ウィキッド


  劇団四季
  作詞・作曲=スティーヴン・シュワルツ
  脚本=ウィニー・ホルツマン
  演出=ジョー・マンテロ
  ミュージカル・ステージング=ウェイン・ジレント
  日時:2011年5月20日(金) 18時〜 場所:キャナルシティ劇場


ミュージカル「ウィキッド」劇団四季版



 〜二人の魔女が女子大生だった頃〜



開演前の劇場。舞台に下りている幕にはどこかの島の地図。宝探しに出かけたくなるような。
オズの国の地図か。

その上の方に目を移すと恐竜の首がにょきっと突き出ていて、いかつい羽が左右に伸びている。
あ、恐竜じゃなくて、ドラゴンだ。

ここは薄暗い魔法の国。


幕が開くと一転、豪華絢爛。


観覧車の箱のような、きらびやかな丸い乗り物が上から降りてくる。中から出てきたのは、白いドレスに身をつつんだ金髪のきれいな女の人。
“善い魔女”と人々から崇められている。
西の悪い魔女は本当に死んだのか、西の魔女と昔知り合いだったのか、と、この善い魔女・グリンダに人々は尋ねる(歌と台詞で)
「ええ、そうなの」と言って、彼女は昔話を始める。
そして、ここから二人の女子大生の話になった。


“もう一つのオズの物語”‥このキャッチコピーの通り、「オズの魔法使い」の番外編なのだが、「オズ〜」の話が始まる前の世界が、善い魔女・グリンダと西の悪い魔女・エルファバの物語を中心に描かれている。
シニカルでひねりの効いた、子ども向けではないミュージカルだった。



女子大生クラスメート物語


証言1
「私の大学時代の親友は、私と違い人気者だった。きれいでおしゃれで、いつも人の輪の中心。もちろん男子にもモテモテ。私といえばダンスパーティにも誘われたことがない。それどころか、人は私をみたら、あっと言って一歩遠ざかる。私の肌は、顔も手も足も全身、緑色なのだ。」


証言2
「私の大学時代の親友は、ちょっと変わった子だった。どういうきっかけで仲良くなったんだろう。風貌は冴えないんだけど、私にないものを持っている。先生たちにもすごく気に入られているし。
私の自慢の彼も、最近彼女に会ってから、ちょっと様子が変で。上の空っていうか‥」


これは舞台上のセリフそのものではない。けれども、それぞれのそんな独白が聞こえてくる気がしたのだ。魔女になる前の二人の魔女が、“魔法の大学”に通っていた頃の話。


女子二人組。派手なタイプ地味なタイプの組み合わせ。派手子と地味子。
そうだ。たとえタイプが同じだったとしても、女子が二人ペアになると、どちらかが陽に、どちらかが陰になる。そして、簡単に陰陽がひっくり返ったりもする。それは、きっと万国共通なのでは。


だから、大人の女子はこの舞台を見つつ、昔のことを思い出し、なつかしくなったりする。
または、スタバあたりのカフェで、隣のテーブルから聞こえてきそうな話‥と思ったりもする。
緑色の肌とか、ヤギの大学教授とか、登場人物の外国人名などを、身の回りの世界のものに変換していけば。(ヤギの教授:ディラモンド(前田貞一郎))


派手子の方は、グリンダ(山本貴永)。後に善い魔女と呼ばれる。明るい笑顔、快活な性格のブロンド美人。自分の思い通りにコトが運ぶように、要領よくちょっとずるく振る舞ったり、周りを“上から目線”でみたりするところもあり、こういう子は絶対どこにでもいると思わせるタイプ。

証言2のつぶやき(セリフそのものではない:再度念のため)のように、イケメン彼氏=ウィンキー王国の王子・フィエロの心がつかめなくなりそうな時も、その気配をかき消すようにちゃきちゃき行動する。魔法の力も持てず焦りも感じている。しかし、この俳優の演技ゆえか個性ゆえかはわからないが、痛々しいかんじではなく、美人でも大変なのね、と思った。
高音の伸びやかな歌声がいい。セリフもやはり高めの声で可愛らしくけなげに思えた。


対する地味子は、エルファバ(江畑晶慧)。後の西の悪い魔女。生まれつき肌が緑色で、そのためどこででも疎んじられている。ただ不思議な力を持っていて、魔法の大学では先生たちの関心を集める。また、その飾らない人柄にグリンダの彼氏も惹かれはじめて‥
こちらの彼女は低めの声で、やはり魅力的な素晴らしい歌声だった。逆境でも自分に正直でまっすぐ。観客はエルファバの方に感情移入しやすいのではないだろうか。1幕目の終わりあたりに一人で歌い上げるシーンは圧巻だった。


観劇した劇場には、オーケストラピットがなく演奏は録音で、中盤くらいになるとやはり淋しいかんじがしてしまう(出だしはきらびやかな世界に圧倒され気にならない)。また、時々お芝居に変な間が感じられることもあった。しかし主役二人の抜群の歌唱力で帳消しにしてしまっていた。


魔法大学の先生・曲者のミセス・モリブル(森以鶴美)、罪作りな彼氏・フィエロ(北澤裕輔)の歌も印象に残った。



魔法の世界の裏側で


後半は、世の中を手に入れたいオズの魔法使い(松下武史)の謀に二人が巻き込まれる展開。
魔法の力を持つエルファバを悪者に仕立て上げ、人心を惑わせテッペン目指す腹黒いオズ。
真実なんてないさ。人が信じたいと思うものが真実だ。」とうそぶく。


本編「オズの魔法使い」でお馴染みの登場人物(または動物)も出てきて、ライオンが臆病になったわけ、ブリキ男が生まれたわけなどが隠し味のように披露される。


舞台装置はさすがに大掛かりで、次から次にめくるめくように場面が変わっていった。歯車を模した背景が特徴的だった。
なかでも私が一番心惹かれたのは、オズが住むエメラルドの都。一面が美しい緑色。アンサンブルの人たちも一人一人デザインが違う豪華な緑の衣裳。目を奪われた。


客席には、修学旅行らしき中学生たちの姿もみられた。思春期の若者たちは、こういう一筋縄ではいかない話をどう受け止めただろう。感想を聞きたい気がした。
「どうやった?面白かった?」
すれ違った制服の子にそんなふうに話しかけられたらと思ったが、そこまでオバサンになりきれていない自分。
魔女と女子大生とオバサンの境界線に思いを馳せたりもしたのだった。