島本理生 『大きな熊が来る前に、おやすみ。』 新潮社

大きな熊が来る前に、おやすみ。

大きな熊が来る前に、おやすみ。

『大きな熊が来る前に、おやすみ。』

 怖かった……とにかく怖かった……。男の人が暴力を振るう話だとは事前に知っていて、それは怖そうだし読むのやめておこう……と思っていたのでした。でも本屋さんで見かけて、酒井駒子さん絵の表紙の質感に惹かれて手元に置きたくなって買ってしまい、手元にあるとやっぱり気になって読んでしまったのですけれど。やっぱり暴力を振るう人が生々しく描かれているのは、怖い……。

『クロコダイルの午睡』

ほかの女の子が混ざることで、途端に霞む自分を思った。(P.100)

 これも怖かったなあ……。

 私は、この子のことが嫌いだ。それも彼女だけが嫌いなんじゃなく、彼女に代表されるような、苦労もせずに与えられた平和の中で平気で文句を言える、そういう育ちの子たち、すべてが憎いのだ。(P.110)

 主人公が、自分とはまったく違う境遇で育った都築新との交流の中で起こる小さな出来事に一喜一憂したり傷ついたりした末、最後にとんでもないことをしてしまうそのようすが、痛々しかったです。自分がしている種類の苦労をしていない人が、それに感謝もせず当たり前のこととして受け止めているように見えたら、苛立ちを覚えるのはわかるけれど。とんでもないことをした後に、彼が「自分が恵まれているのは、与えられたものを享受しているだけなんだ」という考えを持っていたことを知って、「(それを)どうしてもっと早く教えてくれなかったのか」と心の中で呟くのは、身勝手すぎるなあ、と思った。彼女の一人称で彼女の内面が語られるのだから、その思考が身勝手に見えるのは当たり前かもしれないけれど。

『猫と君のとなり』

 そんなことを思っただけで胸が温かくなってきて、私は自分がこの人をすごく好きになりかけていることに気付いた。(P.181)

 ほのぼのとしたお話でした。