智の木協会活動報告

2015-07-17

第9回 智の木協会ワークショップ レポート(共催:大阪国際サイエンスクラブ)

| 11:46

第9回 智の木協会ワークショップ レポート(共催:大阪国際サイエンスクラブ)

 ・日時:平成27年2月28日(土)

 ・会場:大阪富国生命ビル4階 〔社団〕テラプロジェクトAゾーン

司会:智の木協会 事務局長 小菅喜昭氏



開会のご挨拶:智の木協会 代表幹事 小林昭雄氏

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 大阪芸術大学計画学科教授 池田光惠先生のご経歴、活動についてご紹介をしていただきました。続いて、初めて参加の方々のために智の木協会設立の経緯を説明されました。2008年5月4日(みどりの日)に発足、会社や個人が自社あるいは自身の樹や花を決めて智の木協会に登録していただくと、それを認定しHPに掲載という流れになっていること、富国生命様、コクヨ様、月桂冠様、清水建設様など大手の企業が会員で、樹花をHPで見ることができることを話されました。そして、自身の樹は「杜仲」であり、「これは杜仲ゴムを造る研究を日本の企業と中国とで進めていることによるもので、思い入れの強い植物です」と述べられ、参加者にご自分の樹花を決めて登録し、その想いを植樹に繋げていきみどり化を進めていくことを要望されました。

 「本日は、池田組の方々に伝統の錦影絵を精一杯ご披露いただきたい」と期待を表されました。


講演 大阪芸術大学 芸術計画学科 教授 池田光惠 氏

タイトル:「錦影絵」−デジタルを超える江戸アニメーション体験

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 会場作りとして、中心に手漉き和紙のワイドスクリーンが張られ、その周囲は黒の幕で覆われていました。午前中から池田先生はじめ、映像担当の近藤先生、10名の学生の方々が準備に取り掛かり、近代的な富国生命ビル室内が不思議な空間に変身しました。黒のユニフォームも、幻燈機芸能を鑑賞させていただく雰囲気を盛り上げていました。

 「影絵」と聞くと、光源の前で狐や蝶を手で作り、壁に映して遊んだ記憶が甦ってきます。その時の「影絵」は白黒の世界でした。小学生の頃、幻燈を楽しんだ記憶がありますが、その幻燈機は金属で熱がこもっていたように思います。

池田先生は色彩があり夢のある「錦影絵」について、先ず最初に、歌川国芳「当世水滸伝」で骸骨が戦っている、当時の幻燈機芸能浮世絵で表現されたものを示しながら、歴史的なところから説明されました。カラーの動く映像として物語が演出され、「映画と全く異なる方法で動画映像が発展したことが分かります。アニメ大国日本と言われていますが、そのルーツは江戸時代の木製幻燈機の芸能にあるのではないかと考えられます」と述べられました。

 1779年に刊行された日本最古の手品本に幻燈機に関する最古の記述があるそうです。西洋の金属幻燈機が蘭学と共に日本に伝わり、その模造品として、和製木製幻燈機が「影絵眼鑑」としてめがね屋で売られていたこと、また、その見世物が「ごくさいしきの長崎かげゑ」として大評判だったとの記述があることをお話になりました。大坂大阪)では浄瑠璃歌舞伎も盛んで、徐々に影絵に物語が入り、1790年には幻燈見世物「彩色影絵オランダ細工」として大当たりしたという記録が、1796年には「新版当世役者浮世絵芸者風流見立競」に「中村金蔵(後に3代目中村のしほに改名)道成寺の所作事はごくさいしきのおもかげゑのしほらしい娘すがた長崎かげゑ」と宣伝されたという記述が残っているそうです。このことから、「その時代には既に数台の風呂(木製幻燈機)を使用して物語を上映していたことが分かります」と解説されました。

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 日本の映画史の中で日本のアニメーションの祖、和製幻燈機の最初は、1803年、江戸で三笑亭都楽の「写し絵」興行だと言われていることについて池田先生は疑問を投げかけられ、前述の事柄から「錦影絵という名前は無かったのですが、上方では幻燈機芸能は確立していたことが言えます」と話されました。

 姫路博物館には、紀州のお姫様の輿入れ道具の一つと言われている総漆の幻燈機が展示してあります。これは家庭で観る小型の幻燈機で「座敷影絵」と言われているものです。日本最古の和製幻燈機は、松江市大垣の土島家に伝わるもので、1818年〜1831年頃、土島徳兵衛が京都浄瑠璃本、風呂3台、種板一式を買い求め、松江に帰宅後浄瑠璃語りの幻燈機芸能を行ったことが分かっているそうです。

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 「錦影絵」は、観客を前にして、写し手はスクリーンの裏側から数台の「風呂」を用いて、リアプロジェクション方式で映されていました。「錦影繪池田組」では、復元して改良した風呂を使い、後ろ側から映す伝統的な映し方、作り方を踏襲しておられます。(風呂の説明:黒いシャッターがある。カットイン、カットアウト、2台、3台あればフェードイン、フェードアウト、集光レンズ、投影レンズ、中に光源を差し込む)。風呂は木製で軽くて燃えにくく、虫に強く、細工しやすい、しかも熱に強い桐で作られていることを教えていただきました。

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 物語を上映する際に元となる絵、それが種板です。大切な絵が描かれている種板を木枠にはめて物語を展開します。「写し手が1人で映したり消したりすることが可能ですが、複数の場合、2人、3人でオーバーラップして行うことも出来、アナログではありますが木製で軽いため、西洋とは全く異なった映画的な技法で映したということが言えます」と説明してくださいました。池田組の方々が使用しておられる種板は、アクリルでその上に薄いフィルムを貼って色を注すという緻密な作業、しかも染料系のインクを使用しておられます。昔の人達は、0.2〜0.3ミリのガラスをはめ込んでそこに絵を描いていたそうです。黒い部分は、にかわと墨、色のあるところは染料で、つるつる滑って色が落ちるため焼きみょうばんを使ってそれを防いでいたとか。「18世紀頭には、既に割れやすい0.2〜0.5ミリの薄いガラス板を均一に作る技術が確立されていたと考えられます」と池田先生は、歌麿の「ビードロを吹く女」(実際の音を聞かせていただいた)の例を示して、技術的にも18世紀には木製幻燈機を作る背景が全て揃っていたことを解説されました。

 幻燈機芸能で情緒的な側面を生かすために大きな働きをしたのは、語り手と音曲でした。物語では、最初に「はなもの」次に名所を見せ、その後三番叟、主演目は浄瑠璃歌舞伎から題材をとったもの、説教節、仏教説話などが多かったと言われています。上方では落語が盛んで、落語から材をとったものが多かったようで、「道化ししかい」は「池田の猪買い」ではないかということで、池田組では改題して復元し上映しておられます。

 光源としては、菜種油を入れて通し1本で映すやり方が一般的でしたが、ローソク、木蝋を使ったものもあったそうです。光源を上げるために燈芯3本を折って6本にして使用し、興行用に映すために家庭用の幻燈機を工夫して何台も使って浄瑠璃を上映していたようです。菜種油の場合、光はかなり赤かったようで、復元した「池田の猪買い」を上映する祭には、照明用のフィルターを入れて色温度を合わせているそうです。

 暗闇で上映することが多かった当時の照明事情から、お化けや妖怪ものが喜ばれ、「池田の猪買い」にもお化けが登場してバトルがあり、落語の落ち、下げ、もう一つ錦影絵独特の下げが加わって「二度おいしい」と言うことになります、と面白さを説明してくださいました。

 日本の幻燈機芸能の大きな特徴については、「可動性、身体性、仕掛けの三つです」と話されました。特に仕掛けで動かせて見せる、人が歩いている、反物が出てくる、色々な仕掛けを集めてしかも素早く動かすことで絵が動いたように思える、人の脳の仕組みを利用しているのだそうです。

 幻燈機で景色が映る、外側は何も無い、真っ暗。しかし、扉の向こうは家の中あるいは闇。何も無い所は「何も無い」のではなく、ものの気配に満ちている所、あるいは水の表面と下とを繋ぐところ、無を有に感じる、考えるというものの気配、風や風景に満ち溢れたもの、空間だということを皆知っているしそのように感じてしまう、それをまさに光と影、色つきのカラーアニメーションで錦影絵木製幻燈機芸能は上映されていた、そのことは素晴らしいことであり、池田組はそれを再現し上映して来られたのです。

 日本の木製幻燈機芸能は、風呂の可塑性仕掛けの仕組みが高度に洗練されていき、そして、染付けの技術や和紙和紙はデコボコしていて影が存在感を持つ、それも含めて日本の色々な技術を集めたものが日本の幻燈機芸能の文化であり、そこに身体性と気配の世界が加わるという意味で、デジタルを超える身体性・物語空間がここにあることが言えると力説され、「今、世界が日本の空間意識、美しさに注目しているのではないかと考えます」と締めくくられました。

 デジタル社会に生活する現代人にとって、木製幻燈機(風呂)を使用した人による「映写」は、新しい発見であり新鮮な驚きでした。子ども時代に鑑賞した幻燈機による「動きのない」映写も当時は楽しかったものですが、錦影絵の魅力を池田先生に存分にお伝えいただき、もっと多くの人たちにその魅力を知ってもらい、日本人として後世に引き継いでいかなければならないことと実感しました。



錦影絵 上映 

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 1.曲独楽(きょくごま)

 2.福助口上(ふくすけこうじょう)

 3.憑いてない日(ついてないひ)

 4.花輪車(かりんしゃ)

 絶妙のタイミングでのやりとり、音響効果もあり学生の皆さんの練習の賜を見せていただきました。花輪車では、きれいな夢の世界を表現していただきました。光が交錯して、日常を忘れさせられました。



ワークショップ 種板作り

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 グループに分かれて「お題」に沿って種板作りにとりかかりました。

1班:草原とライオン 2班:虫取り少年  3班:海の中  4班:虫取り少年

5班:海の中

 それぞれの「お題」には事前に学生の皆さんがストーリーを作ってくださっていました。グループ毎に決められた「お題」から各自くじを引いて描く絵を決め、種板に描いていきました。各班毎に学生の皆さんが詳細を説明・指導してくださいました。参加者の皆さん、老いも若きも真剣な顔、しかしその表情は次第に緩み、本当に楽しんでおられる様子が伺えました。

 種板に絵を描いた後、班毎にスクリーンの後ろに移動し、「風呂」を身体に装着して種板を準備し物語に沿って風呂を動かしたり種板を動かしたりしました。予想以上に動かしにくいことを学びました。上映している人も観客も初めての珍しい体験にどのお顔にも笑みがこぼれていました。

 池田先生、近藤先生、大阪芸術大学の皆様、汗だくの準備・指導・上映、本当にありがとうございました。


《スタッフ》

※講演・総指揮:大阪芸術大学芸術計画学科 教授 池田光惠先生

 撮影・音響指導:近藤健一先生

学生(錦影喘單珍函11代、サポートの皆さん)(敬称略)

幻燈師・助監督・進行:大田

幻燈師・助監督:戸高

幻燈師・制作:松川

幻燈師・はなし方:江川

幻燈師・音響:増田

幻燈師:岡本

幻燈師:小酒井

音曲:近藤

音曲:小林

音曲:嘉勢山


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