智の木協会活動報告

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第12回グリーンツーリズム 「大山崎の“聴竹居”見学会」レポート

 昨年(平成29年)、大山崎に「聴竹居」という歴史的にも建築学的にも非常に意味のある建物があるので、ぜひ見学会をとの助言を得、会員の皆様に呼びかけて4月15日(日)に実施しました。

 当日の朝は雨でしたが、見学時間の午後になりますとすっかり止みました。新緑の素晴らしい季節、参加者の皆さんは集合時間よりも早くに現地に赴かれ、周辺を散策されていました。

 「聴竹居」は、大正から昭和にかけて活躍した建築家、藤井厚二氏(京都帝国大学工学部建築学科教授を歴任)が、環境工学を意識して設計し、「真に日本の気候・風土に合い、日本人の身体に適した住宅」を目指して自邸として建てられたものです。実験住宅として建てるにつき、大山崎の地に1万2千坪の土地を買い求め、実験すること4回、現存する聴竹居は実に5回目の住宅だそうです。現在は(一社)聴竹居倶楽部が管理運営されており、私どもは倶楽部の事務局長、田邊均様にご案内いただきました。

























 まず外観からの庭で目に付いたのは若葉が芽吹いた黄緑色のモミジで、ちょうど、縁側のみどりのカーテン役になっており、夏の強い日差しを遮る役目もしているそうです。秋には周辺のドウダンツツジアセビと共に鮮やかな色彩に彩られ、やがて太陽の日差しが欲しい頃には辺りはモミジの絨毯と変貌します。植物は意図的に植えられているのです。南面は、現在こそ治水工事と堤の桜が大きく育ったため、展望できませんが、三川(木津川、宇治川桂川)が合流して淀川となる地点でもありますので、藤井氏がこの場所を決めた際には眼下に雄大な風景が広がっていたようです。

 いよいよ室内の案内です。最初に通された部屋が居室、リビングルームです。全ての部屋がリビングに面していて、床は現代風のフローリング、正面には一段あがって(30 cm)畳の間(小上がり)があり、見学者はそこに腰かけて説明を聞くことになりました。畳の間への段差は椅子の役割も担っており、椅子と畳を共存させた和風モダン住宅です。


























 田邊様から「築90年、基本的にはどこも修理していません」と説明があり、阪神大震災もありましたのにとにわかには信じられませんでした。藤井氏は部屋に家具を並べることを避け、コーナーに造りつけました。それらは家具兼火打ちで、建物の強度を増す役割をしているそうです。仏壇や神棚などは全て収納タイプでした。夏の蒸し暑さ対策に注力した試み、着想の素晴らしさを汲み取ることができました。その1として、畳の間の下に室内に西風の取り込み口を設置し、地中で冷やされた土管を通り抜けることで暑い空気を冷やす自然の冷却効果を狙った工夫が見受けられました。


























 その2として、「名塩和紙」を使用した和紙天井でした。和紙は、空気が通り湿気も吸い取ります。また縁側は網代天井で、自然に空気が循環します。照明にも工夫が凝らされ、反射板を最大限に利用して下だけではなく横も照らしていました。

 室内は直線と丸、幾何学模様等を取り入れたデザインで、藤井氏はスコットランドの家具のデザインでも有名な建築家のマッキントッシュの影響を受けていたそうです。

 縁側は柱が見当たらない構造ですが、未だに水平が保たれているそうです。90年間歪むことなく建っている理由は、窓枠が柱の役割を担っていること、コーナーに造り付けの花台兼火打ちで補強してあるということでした。窓ガラスも一度も交換されておらず、窓枠など、隙間風が入ったりするものですが、全く狂いがありませんとのこと。縁側に夏は日差しを避けたい、冬は中に入れたいという矛盾した考えを両立させるために桔木(はねぎ)で支え屋根の軒先の出を調節してありました。ガラスは上部がすりガラスで無枠の軒裏が見えないように計算されています。この縁側、西からの風で夏はさぞかし心地よい場所だったことでしょう。


























 ダイニングルームとキッチンの構造に、女性たちは「こんなキッチンが欲しかった!」と口々に話していました。ダイニングからはリビングの様子あるいは子ども部屋の様子が全て分かるように設計されていましたし、キッチンは3歩歩けば流し台、3歩歩けば食器棚・・・無駄な動きなしに仕事ができる仕組みになっていました。そして、最大の関心事は、カウンターキッチン。引き戸を開けてキッチンからダイニングルームへ料理を渡せることでした。調味料も双方から取ることができます。食器棚の棚板も上から順番に幅が広くなるように作ってあり、開いたらどこにどんな食器があるか分かるように設計してありました。藤井氏は、女性の立場にたった建築デザインをされた方です。当時の女性は和装でしたので、袖のことまで考えたデザインでした。今後、家の新築、リフォームを考えておられる方々には大変参考になります。既製の物が当たり前ではなく、使い勝手のよい家具や動きの動線を考える上で、大変勉強になりました。

 その他、電気冷蔵庫、床下収納庫、水洗トイレ、給湯式お風呂、オール電化などなど、現在の私たちの生活とあまり変わらない設備で羨ましい限りです。

 空気の通り抜けが素晴らしい反面、冬の寒さ対策が大変かなと思いました。4月も半ばでしたが、室内はずっと暖房をつけっぱなしでした。もちろん電気で。電気代が現在の金額で約20万円/月かかっていたそうですので、奥様から苦情が出ていたかも知れませんね。

 藤井氏は茶道や華道にも精通していたとかで、聴竹居とは、藤井氏の雅号だと田邊氏よりお聞きしました。聴竹居は2016年より(株)竹中工務店が所有していますが、維持・管理・運営などは(一社)聴竹居倶楽部が担当しておられます。その方々は実は地域の方々、近隣の方々で、この運営方法を次世代へも繋いでいこうとしておられます。田邊様の聴竹居に対する思いは熱く、時間を忘れて丁寧に説明してくださいました。本当にありがとうございました。参加者全員、感動いたしました。次は、季節をずらして再度見学させていただきたいと思いました。