サウスバウンド

作者:奥田英朗角川書店
直木賞受賞後の作品。めちゃくちゃ面白かった。
東京の中野に住む小学6年生の二郎には、元過激派の破天荒な父がいる。
父の一郎は働くわけでもなく、国家権力と戦うことを未だに標榜している。
母は喫茶店を経営していて、姉は会社員で、妹は小学4年生。
父を除けば、普通の家族なのだが、トラブルメーカーの父が日々問題を起こす。
父の後輩のアキラが居候を始めたころ、二郎は中学生からイジメを受ける。
イジメは仲間たちとはねのけたが、アキラが人殺しで逮捕される。
その後、家族は西表島に移住して、廃村に住み着くことになる。
現地の人たちは親切で、食べ物や生活に必要なものを援助してくれる。
豊かな自然の描写と、現地の人たちの交流は楽園を思わせる。
父は国家権力と戦うことをやめず、南の最果ての地で最後の決戦に挑む。
ストーリーが面白く、会話は笑えるし、クライマックスは感動した。
「おとうさんとおかあさんは、人間としては何ひとつ間違ったことはしていないんだから・・・人の物を盗まない、騙さない、嫉妬しない、威張らない、悪に加担しない、そういうの、すべて守ってきたつもり。唯一常識から外れたことがあるとしたら、それは、世間と合わせなかったってことだけでしょう」
「それがいちばん大きなことなんじゃないの」
「ううん。世間なんて小さいの。世間は歴史も作らないし、人も救わない。正義でもないし、基準でもない。世間なんて戦わない人を慰めるだけのものなのよ」
信念を持った人たちはすっきりと生きることができて、美しい。

サウス・バウンド

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