かび

作者:山本甲士|小学館文庫
表紙はしょぼいが、これは傑作だ。
友希江は平凡な主婦で、娘の幼稚園の母親たちともトラブルの無いように過ごしていた。
だが、夫が職場で脳梗塞で倒れ、追い討ちをかけるように、退職を追い込もうとする会社にキレる。
夫の会社の弱みを握ろうと、会話や電話の内容を録音するが、睡眠薬を盛られ、消去される。
友希江はくじけずに、様々な報復の手段を考え、ついにテレビでの謝罪会見を実現させる。
ピッキングに不法侵入、公文書偽造、薬物混入と、ここまでやるかというえげつなさ。
一見、痛快な小説だが、主人公の主婦の小心者にありがちな底意地の悪さがリアルさを増している。
他の作品同様、合間に挿入される殺伐としたニュースはスパイスになっている。
大阪を舞台にしたブラックな笑いがふんだんのサスペンス。
この作家は今のところ、読んだ作品にハズレはない。「どろ」も「ぱちもん」も面白い。

かび (小学館文庫)

かび (小学館文庫)