あわせ鏡に飛び込んで

作者:井上夢人講談社文庫
90年代前半に発表された短編を収録したサスペンス作品。
「あなたをはなさない」は瞬間接着剤を使ってひっついてくる女性の恐怖。
「ノックを待ちながら」は借金を逃れるために偽装殺人を行う話。
「サンセット通りの天使」は盗聴器に囲まれた自宅から逃れようとする犯罪者の話。
「空き部屋あります」は住民が失踪する下宿の大家を訪ねる話。
「千載一遇」は1億円の現金をめぐり、警備員が相手を罠にはめようとする話。
「私は死なない」は有体離脱する薬品を開発した学者が、その効能を試す話。
「ジェイとアイとJI」はネットの黎明期にパソコン同士の対話にのめりこむ男の話。
「あわせ鏡に飛び込んで」は医療事故の責任を追及する画家と院長の話。
「さよならの転送」は留守番電話の転送で友人が自殺してしまう話。
「書かれなかった手紙」は夫婦が互いに殺意を妻の恩師に手紙を送る話。
それぞれの話は面白いが、今読むと、古さを感じる部分もある。
「ノックを待ちながら」や「千載一遇」は過去のサスペンス映画を彷彿させる。
「書かれなかった手紙」は手紙だけでストーリーが進む斬新さだが、最近誰かがパクッたな。
オビに大沢在昌が「こういう切れ味のいい短編は古びない」と書いてあるが、やはり古い。
こういうことを書く大沢在昌の作品もあまり面白いと思ったことはない。
悪くないのだけど、今読むと魅力に欠ける。サスペンスにも賞味期限があるのかな。
そう考えると、江戸川乱歩は偉大だ。

あわせ鏡に飛び込んで (講談社文庫)

あわせ鏡に飛び込んで (講談社文庫)