創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

03-36 競争と刺激


幹部アートディレクターのシローイッツ氏は、DDB入社当時のことを尋ねた私への返事として「世界最高の広告代理店であるDDBに職を得る努力をしてみようと思った。すぐに志願し、採用されたことを知ると大得意になった」と書き送ってくれました。
「今から数年前のことです。私の生涯の最もエキサイティングな数年間です。競争は激しく、水準は最高です。これが、すぐれた人を、より一層すぐれたものにしているのです。バーンバック社長は、すばらしいことをやるためには、新しい方法を見つけるためには、広告における新天地を開くためには、どんな機会を取ることを恐れません。なぜなら、DDBでは、みんなが、仕事に十分に自分を表現できていると感じているからです」
シローイッツ氏は「競争は激しく、水準は最高です。これが、すぐれた人を、より一層すぐれたものにしている」といいます。


1966年春、幹部コピーライターのパーカー夫人宅にローゼンフェルド夫妻と共に招待された時、私は尋ねてみました。


chuukyuuDDBのよさはなんですか?」


パーカー「お互いに競争がある点ね。これで才能が伸びるのよ」


ローゼンフェルド「競争じゃないよ。刺激だよ」


パーカー「あら、競争よ。だって、ボヤボヤしてたら取り残されちゃうじゃなくって?」


ローゼンフェルド「競争というのはね…」


私はニヤニヤ笑いながら二人の議論を聞いていました。10分ばかり「競争だ」、「刺激だ」でもめていましたが、ローゼンフェルド夫人が「競争的刺激にしたら?」と助け舟を出して、ケリがつきました。

私はこの議論から、DDBの創造性開発の一端をのぞき見たような気がしました。のんびりと自由を楽しんでいるように見えて、じつは猛烈な競争が行われているのです。それから二年後、ローゼンフェルド氏に改めて質問してみました。


chuukyuu「パーカーさんのお宅で、DDBのコピーライターたちは『互いに刺激し合っている』『いや、競争し合っている』と二人の意見が対立しましたね。その時あなたは『刺激説』でしたが…」


ローゼンフェルド「うーん、もう忘れてしまったなあ。でも、ライターの間では、競争と刺激の両方で成り立っているんじゃないですか?仲間がよい仕事をすればそれが刺激になってこっちもよい仕事をするし…だから両方存在しますね」


一方、パーカー夫人は、電通での講演で次のような話をしました。──
「自分たちの周囲に、すぐれたコピーライターやアートディレクターがたくさんいるということは、考えようによっては、すごく重荷になることかもしれません。しかしこの競争が逆に刺激になるのです。廊下を歩いて行けば、アートディレクターの、壁にピンナップしてある最近作を見ることができるのです。同僚がテレビでどんなことをやっているのか知りたければ、毎月の社内試写会で映される新しいテレビ・コマーシャルを見ればいいのです。そして『どうすれば彼らのやっていることに追いつけるか』と思うかわりに、『彼らにこんなフレッシュで新しくって刺激的な作品がつくれるんだから、私にだってできるはず』と自分にいいきかせるのです」(注:前出「クリエイティビティ」)