創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(158) ロール・パーカー夫人とのインタヴュー(3)

ドイル・デーン・バーンバック社 副社長兼コピースーパバイザー

不利に見えるものをプラスに変える、よき伝統


chuukyuu「話題を変えましょう。ここ数年間のあなたの仕事の中で、最も好きな作品を2点あげてください。そして、その理由を---」
パーカー夫人「ひとつは、『気まぐれクランべリ-』と呼ばれるオーシャン・スプレー・クランベリーのためのコマーシャルです。
この商品には競合商品がひとつもないという、他とは異なったユニークな点に興味をひかれたからなんです。
クランベリーという果実には、これまで米国人はなじみが薄かった。サンクスギビング(収穫感謝祭) の七面鳥にかけるクランベリー・ソ-スというかたち以外ではね。ジュースになる果実とはおよそ考えてもみなかったのです。ほかのジュース・フルーツ、たとえばオレンジ、パイナップル、りんご、ぶどうなどはもっと一般的で、見た目も美しく,みるからにジューシイで、一般受けのする味です。
クランベリーには、ほかのジュース・フル-ツよりすこしでもましなところがあったでしょうか?小さくて、赤くて、かたくて、まるでジュースをだそうとしないしぶといやつなんです。自慢できるようなものはどこをさがしたってみつかりそうにもありませんでした。
でも、DDBには、一見不利にみえるものを反対にプラスに変えてしまうという、古きよき伝統があるのです。そこで、小さくて、かたくて、なかなか意のままにならないこのベリーからジュ-スをとるのは、ふつうの人にはできないということをドラマタイズして消費者に示したのです。自分でやるとなればオ-シャン・スプレーを買うより方法はないということです。この小さなべリーの強情さは、いたって気楽にジュースを出すオレンジと比較することによって、その対照がさらにはっきりと示されます。
そこで、オーシャン・スプレーはいうのです 『たいしてむずかしいものじゃありません。やろうと思えば、あなたにもできますよ。でも、私たちのためにクランベリーを残しておいてくださいよ』
さらにここで、この小さなクランベリーらは独特のスピリットがあるというのです。だから、とてもすてきな滋養のあるジュースができるのだと---。
私個人にとってこのコマーシャルで最も好きなのは、画面には現れないのですが、この小さなベリーに手を焼いている主婦がのべつブツブツとつぶやくぼやきです。放送コードにひっかからない表現を探すのに、ずいぶんいろんな悪口をさがしましたわ。たとえば『こん畜生!』はいけないけど、『畜生!』はいいといったぐあいにね。
このコマーシャルが1967年のアート・ディレクターズ・クラブの金賞とインターナショナル・ブロードキャスティング賞で『世界一』のトロフィをとったことはご存じでしたね。たくさんの人がこのコマーシャルをいまだに好いてくれているのを、とても嬉しく思っています。


>>つづく

オーシャン・スプレー・クランベリー・オレンジ・ジュースのTV-CM N.Y.ADC金賞受賞(1967)
『気まぐれクランベリー

アナウンサー「オレンジとクランベリー---
この2つのジュ-スをしぼって、
ミックスできれば、
とてもおいしい朝食のドリンクができあがります。
おやりになればいいんですよ。
簡単なことですから。

新鮮で甘い、金色のオレンジ・ジュース。

さて、クランベリーの番」


「あら、あら、なかなかでき---」
クランベリーの粒が逃げまわる)


アナウンサークランベリーは、深紅で酸味のきいた---」
「イライラしてくるわ!」
ァナウンサー(せきばらいして)「おいしいジュースのいっぱいつまった、クランべリ一---」
「そら、出てこい!」
(1滴、ポトーーリ---)
アナウンサー「そう、それでけっこう、オ-シャン・スプレーの味が出てきました。
私たちはクランベリーから美しいジュース・カクテルを何ガロンもとります。
そして、濃縮されたオレンジ・ジュースとミックスします。
とてもうまいコンビです。
私たちは、それをオ-シャン・スプレー ・オレンジ・クランベリー ・ジュースドリンクと呼ばれるジュースの中に冷凍して入れます。
明日の朝食に変化をお与えになってはいかがでしょう? 
それともオレンジかクランベリーになさいますか?」


>>つづく