創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(693)[ポール・デイビスとの1時間](5)


chuukyuu編『アイデア別冊 ポール・デイビス』(1970.12.05刊)より



(PAINTING FOR TIME INC. PROMOTION BOOKLET)
(新しい商品を売り込む場合収入の多い大卒者家庭から上層家庭を対象にする)



(同上)


ポール・デイビスとの1時間(5)




イラストレーションについて


chuukyuu  現在のアメリカのイラストレーションについて何かご意見
をおもちですか?


デイビス  人々に見てもらえてしかも楽しんでもらえるイラスト
レーションを確立するためにぜひとも欠かせないものは、立派なアート
ディレクターです。
レッドブックのビル・キャッジ、プレイボーイのアーサー・ポール、ライフの
アーウィン・グラスカー、ルックのウィル・ホブキンズは、イラストレーショ
ンやイラストレイターの使い方を知っている立派なアートディレクターで
す。
一時、ヘンリー・ウォルフが雑誌ショーで、ロバート・ベントンがエスカイ
ヤで、オットー・ストーチがマッコールスで、同様に立派な仕事をしていま
した。
昔はまだまだ雑誌が固定されていなかったので、すべてが開放的でした。
それなのに、たとえば今のエスカイヤなどはすでに一つの決まった型にはめ
こまれてしまっていて、その型を破ろうとする人間はもうエスカイヤーには
入れないのです。
といっても現在は質の高い雑誌がほかにたくさん出回っています、ニュー
ヨーク・マガジンのように。
優秀なイラストレイターが本当にたくさんいるのですから、もっと機会とい
うものが必要です。
こんなことが原因で挫折を余儀なくされたり、使ってもらえないイラストレ
イターがいかに多いかを考えると悲しくなります。
ファイン・アートの学生の多くがイラストレイターを断念したのは、これがあ
まりにも多くの危険を伴うものに思えたからなのでしょう。


映画について


chuukyuu  あなたの関心はいま何に集中していますか?
近ごろは映画づくりに熱中していらっしゃるということを耳にはさんだ
ことがあるのですが……


デイビス  たしかに映画に凝ってはいるのですが、あまりうま
くいかなくって……


chuukyuu  出来上がった映画を公開するというようなことはなさいますか?


デイビス  一度だけ、「真夜中の虹」というのを見せたことがあり
ます。
でも今私が一番やりたいと思っているのは、しばらくの間、人の指示
を受けない気ままに仕事がしてみたいということなのです。


chuukyuu  映画はあなたにとってどういう意味がありますか?


デイビス  ほかの多くのイラストレイターと同じように、私はいつも
イデアを十分に練って考えるということをやってきました。
その一部は文学的であり、一部は絵画的なのです。
いいかえれば、映画は言葉で話を聞かせることと絵で伝えることの
両方をこなすものなのです。


chuukyuu  今後も映画をつづけますか?


デイビス  はい。


chuukyuu  どんなテーマでつくろうとしていますか?


デイビス  普通私がつくる映画は本筋というようなものがなくて、
あらゆる要素を含んでいるので一つにまとめ上げるのがとてもむずかし
いのですが、ほとんどがまじめなものです。


chuukyuu  多くの時間をさいて映画をつくるのでは、イラストレーションを描く時間が
なくなってしまうのではないでしょうか。


デイビス  確かにそうですね。
それでもイラストを描くという仕事のこなし具合いからいくと昔と同じ
ですよ。
以前に比べると、雑誌の仕事を減らして広告のほうを多くやっています
から。




日本のイラストレイターについて


chuukyuu  さきほどのお話では、アメリカのイラストレイターには最近限界を感じさせる人が
いるということでしたが、そういった点で何か日本のイラストレイターに
アドバイスするとすればどうなりますか。
ご存じのように最近日本という国は、あらゆることでアメリカの影響が強い
のですが……


デイビス  そうは思いませんね。
といってもこれは横尾忠則 一人について言ってみたのですが。
彼などはたくさんいるイラストレイターの中で最高なんじゃないかな。
それに、日本にも田中一光とか粟津潔とかいった優秀なデザイナーがいるこ
とだし。
時には明らかにアメリカの真似をしているなってすぐにわかるのもあります
が、逆に真似をして描いた、つまりフィードバックされたイラストの方が優
れている場合もありますよ。
私は、アーティストがただ机の前に座っているだけで確かな人間になりきる
ことは絶対に不可能だと考えます。
どんなに努力しても所詮無理なはなしです。
そういう人たちとのアイデアの交換こそ両者にとって有意義なのではないで
しょうか。
私も昔はよくあらゆる意味で模造品や模倣者に幻滅を感じていました。
ところが、そういった人々の多くが時を経るとともにそれからいい意味での
脱皮を計り、自己の回復に成功しています。
これは、人間というものが究極的には自分自身を求めるからなのでしょう
し、またこれはいかなる人間にとっても自分自身を完全に信服させるための
唯一の方法だからなのでしょう。
どんなに齢をとっても、人は相変わらずほかの人々から何かを学んでいるの
でしょうが、それまでに養われた人間性(パーソナリティー)によってそれは
若いころのものよりもはるかに融通のきくものになっているのです。


家庭のこと


chuukyuu  これが最後の質問なのですが、ご家庭のことをお聞きしていい
ですか?
1966年にお会いした時、あなたはニューヨークのマンハッタンにお住みになっ
ていましたが、今もそこにいらっしゃるのですか?


デイビス  いいえ、今はニューヨークからおよそ100マイル離れた
サイハーバーというところに住んでいます。


chuukyuu  なぜお移りになったのですか?


デイビス  ニューヨークに住むのがいやになったので……


chuukyuu  お子さんはおいくつでしたっけ?


デイビス  男の子が2人で、 上は9つ、下は3つです。


chuukyuu ありがとうございました。





(THESE ARE DONE FOR SHOW MAGZZINE FOR THE SPY WHO CAME IN FROM THE COLD.
『寒い国から来たスパイ』)



(SCRAPTURE OF A TV EXECUTIVE FOR PLAYBOY MAGAZINE
テレビ局お偉いさんの彫像)



(PAINTING FOR REDBOOK MAGAZINE "ケンタッキー")



(ILLUSTRZTION FOR STEELWAYS MAGAZINE −THIS IS AN UNUSUAL ALAME OCLOCK THAT SOUIRTS WATER ON YOUR NECK. 風変わりな発明の一つ---首に水を注ぎこむ目覚まし時計)



(RECOED JACET FOR STAN KENTON スタン・ケントン)



(UNPUBLISHED ILLUSTRATION)




(COVER FOR E.P.DUNTON PAPERBACK BOOKS
上左:「逃亡詩人たち」右:「象徴主義者の詩集」 
下左:「ラファエル前派詩集」「写象主義の詩集」)



(PAINTING FOR TIME INC. PROMOTION BOOKLET 古い英国の宮廷)



(PAINTING FOR TIME INC. PROMOTION BOOKLET アメリカ独立頌歌)




An hour with Paul Davis(5)                   interviewed by Tadahisa Nishio


About illustration


Nishio  Do you have any opinion about present illustrations in this country?
Davis  For illustration to be seen and enjoyed, great art directors are needed. Bill Cadge at Redbook, Arthur Paul at Playboy, Irwin Glusker at Life, Will Hopkins at Look all know how to use illustration and illustrators.
And, at one time, Henry Wolf at Show, Robert Benton at Esquire and Otto Storch at McCall's did very fine jobs in the same way. They were open to anything.
Now Esquire has just one style and if you don't work in that style, you don't work in Esquire.
There just are some good magazines right now, such as New York Magazine.
More opportunities are needed because there are plenty of good illustrators, perhaps more than ever. It's very sad to see how many illustrators become discouraged or not used for one reason or another.
Many fine art students do not become illustrators because it seems risky.
Nishio   I've heard that you are interested in film making right now but……
Davis  I play around with films quite a bit but I'm not very good at it.
Nishio   Did you show them to your friends or somebody else?
Davis  I showed one of them called "Midnight Rainbows". But what I really want to do is work without assignment for a while. I just want to work independently.
Nishio   If film making has an impact or influence on you, how?
Davis  I think I always have mixed my ideas, as many illustrators do. It's part literary and part graphic; in other words, films both tell a story and are also visual.
Nishio   Do y?u have any plan to make another film in the future?
Davis  Yes.
Nishio   With regard to theme, what kind of film is it going to be?
Davis  Usually my films turn out to be a lot of things, very hard to put into one film but I think they are usually serious.
Nishio   I wonder if you are working most of the time in films, the time for your illustration is getting decreased.
Davis  Oh, sure. But I think what I do is almost as much as I've ever done probably. Not quite so much magazine work but I do more advertising.
Nishio   You said that some of the illustrations in this country have some limitations like so patterned or so easily compromised recently but with regard to this, do you have any advice to the illustrators in Japan? You know all the Japanese cultures or some other things are following this country?
Davis  I don't think so. Well, I mean we were just talking about Yokoo Tadanori and I think that he is a real giant among the illustrators. And certainly there are great designers in Japan like Ikko Tanaka and Awazu. It may seem sometimes
that there's imitation of Americans but feedback is getting greater. I don't think it's possible for an artist to sit down and completely be someone else. That's impossible, no matter how hard they try. I think the exchange of ideas is very beneficial for both. I used to get very upset about imitations and imitators and all that, but now I've seen so many people who were imitators grow out of it and become very individual. In the end I think everyone wants to be himself, and I think that's the only way anyone can be completely convincing. When you are older, you still learn from others, but it is more tempered by your own personality.


About family


Nishio   Now this is the final question and I'd like to know about your family.
When I met you in 1966 you were living in Manhattan but do you still live there?
Davis  No, now I live in Sag Harbor, about 100 miles from New York.
Nishio   Why did you move?
Davis  Because I don't like New York for living.
Nishio   How many children do you have? And how old?
Davis  Two, two boys. One of them is nine and the other is three.
Nishio   Thank you very much.


(完 The end)

明日からは、プッシュ・ピン・スタジオの社長のミルトン・グレイサー氏のシリーズの予定だけど、疲れた。