2012-02-19
今日のゴーカイチェンジ(第49話)
この星を「禍々しい」と言ったのはインサーンだった。その彼女も今はもういない。
事務士官ツボーネは地球と呼ばれるこの辺境の惑星とそのただ一つの衛星の間に駐屯する艦隊での数ヶ月間の赴任を終え、ザンギャック本星へと帰還する臨時便の士官席にいた。皇帝アクドス・ギルはあの宇宙海賊と地球のすべての生物を抹殺するつもりだ。いや、惑星ごと破壊してしまうかもしれない。そうなると制圧後の事務調整は不要になるため、一足先に帰還命令が下ったのだ。
展望窓から見える世にも美しい青い惑星に目を遣りながら、ツボーネは失ったばかりの友人の顔を思い浮かべていた。
「バカね……」
同期だった。進む道が違ったのでお互いをライバルとして見ることはなかったが、張り合う気持ちがないわけではなかった。明晰な頭脳と冷徹な政治眼を持つインサーンは出世街道を瞬く間に登り詰めて行くように見えたが、男たちの中で歯を喰いしばっていたことも知っている。いつも目を覆っていたバイザーがクールに見える彼女の闘志と涙を隠していたことも────。
あれほど美しければ、その気になればワルズ・ギル王子や皇帝さえも虜にすることはできたかもしれない。自分なら女であることを最大限に利用しただろう。だがインサーンはそうしなかった。科学者としての栄光と地位だけを望んでいた。ある意味、潔かったのかもしれない。
「でも、死んだら何にもならないじゃないの……」
ツボーネはこみ上げてくる涙を堪えて唇を噛んだ。泣きたくなかった。泣いたらインサーンを憐れむような気がした。それは彼女を最も傷つける行為のように思えた。
「もう、地球も見納めね」
突然掛けられた言葉に振り返ると意外な顔があった。行動隊長ビバブー────昨年末に皇帝の親衛隊員ダイランドーと共に地上へ降りた、あのオカマ隊長である。
「あなた、死んだんじゃなかったの?」ツボーネは驚いて叫んだ。
「失礼ね、勝手に殺さないでよ」
「だって……確か、例のビームで────」
「そ!くらったわよ、例のビーム」ビバブーは憤慨した様子で言った。例のビーム、とはインサーンの通称“巨大化ビーム”のことだ。そういえばビバブーは全身包帯だらけだった。杖もついているようだ。
「でも何とか一命は取り留めたのよね、ラッキーなことに。やっと動けるようになったから、退役して本星に戻るとこ」
「そうなの…」ツボーネはビバブーをまじまじと眺めた。
「何よ、文句ある?」現在、ザンギャック支配圏の全土からすべての宇宙艦隊が集結している最中だ。「だってもうイヤになっちゃったのよ」
「イヤになったって、何が?」
「何もかも!戦うことも、ダイランドーのヤツも!」
興奮したビバブーが大きな声を出したのでツボーネは慌てて言った。「ちょっと!マズイわよ!」
「だって、ダイランドー様ったらあたしを置いて先に逃げちゃったのよ!信じられる?」
ツボーネは周囲を気にしながらビバブーの隣に座った。「大きな声出さないで!今、非常時なんだから!」
ビバブーは急に押し黙った。そして打って変わった震える声で囁いた。「……あんたもそう思うの?」
ツボーネは答えに窮した。確信があるわけではなかった。
「あたしはね、怖いの」ビバブーは血の気の引いた顔で言った。「怖いのよ。世界がひっくり返るんじゃないかって……」
ツボーネはビバブーの手を握った。その手も震えていた。
思えば最初にこの星に派遣された艦隊は(当時)正体不明の戦力の抵抗を受け、壊滅した。次に送り込まれたのは皇帝アクドス・ギルの唯一の後継者であった王子ワルズ・ギルと帝国最強の参謀ダマラスを擁する精鋭部隊だったが、その二人も今やこの世にいない。そして今日、第二次征服艦隊の最後の幕僚、技術士官インサーンも帰らぬ人となった。
「あのコ、死んだんだってね」
ツボーネは頷いた。「出撃したの。皇帝陛下とダイランドーに煽られてね。時間稼ぎだったのよ、艦隊集結までの……でも、立派だった」
「そう……」ツボーネの手を握り返しながらビバブーは言った。「あたし、嫌いじゃなかったわ、あのコ」
「自分で作った戦闘ロボットでね。あのコのありったけの技術と心血を注いで────」
「ちょっと待ってよ」ビバブーは突然立ち上がった。「戦闘ロボット?何、それ?」
「だから」発進直前の艦内では着座を促すアナウンスが流れている。ツボーネはビバブーを座らせようとした。「グレートワルズを元に────」
「ちょっとそれはないんじゃない?あたしたちには散々巨大化ビーム撃っといて、自分だけロボット?ヒドイじゃない!」
「ビバブー!」ツボーネは焦った。実戦部隊でないとは言え、乗員は軍関係者ばかりである。
「巨大化ってそりゃあ恥ずかしいのよ!あたしをあんな恥ずかしい目に遭わせといて、自分だけ美しく死のうって言うの?そんなの許せないわ!」
「でも、そのおかげであんたまだ生きてるんでしょ!」ツボーネはキレた。
艦内は水を打ったようにシンとなった。
「ごめん…」ビバブーは力なく腰を下ろして言った。「そうよね。死者に鞭打つようなこと言って、あたしったら……」
ツボーネは周囲を見回した。ざわめきは戻らなかった。いくつもの不安気な顔がこちらを見ていた。
(みんな、怖いのね)
これだけの大艦隊が、たった6人の海賊に負けるとは思えない。思えないが不吉な予感が去らなかった。みんな、死ぬ。ダイランドーも、皇帝も、みんな────ツボーネは不意に寒気を覚えた。
「……ねぇ」ビバブーが小さな声で言った。「あんたの好きだったあのイケメン、どうなったの?」
「死んだわ」ツボーネは短く答えた。最後まで正体のわからなかったあの海賊────バスコ・タ・ジョロキアもキャプテン・マーベラスとの一騎打ちの果てに散った。ツボーネはモニター越しに見たバスコの死に際の顔を思い出した。彼は知らないだろう。遠い空の上から秘かに自分を想っていた女がいたことなど ────。
エンジンのアイドリングの音が大きくなってきた。
「あんた、帰ったらどうするの?」ビバブーは訊ねた。
「さあ……」心ここにない様子でツボーネは言った。
「軍を辞めるの?」
「……わからない」いっそ辞めてしまいたい、とツボーネは思った。
「よかったら、あたしのとこに来ない?」
「え?」ツボーネは耳を疑った。それってまさかプロポーズ?「あんた、オカマでしょ?」
「何言ってんのよ!」ビバブーはまたも憤慨した。「誤解しないでよ、手伝ってほしいことがあるの!」
「手伝う?」
「そ!お店をやろうと思うの、あたし。歌って踊って、みんなを楽しく癒してあげられるようなお店!」
それもいいかもしれない、とツボーネは思った。
「本艦はこれより出航します。本星到着予定は────」アナウンスと共にエンジンの轟音が響いた。背中越しに悪寒のような振動が伝わってきた。
ツボーネは最後に窓の外を一瞥した。
そこには世にも美しい悪魔の星が、変わらぬ青い輝きを放っていた。
2012-02-05
今日のゴーカイチェンジ(第18話)
「で、どうなの?」お宝ナビゲートロボット・ナビィは新入りに声をかけた。「やっていけそう?」
明け方まで続いた宴会は終わり、みんな沈没している。キャプテン・マーベラスはキャプテン・シートで酒瓶を抱え、ジョー・ギブケンは腹筋の途中のような器用な姿勢のまま眠っていた。ルカ・ミルフィーとアイム・ド・ファミーユはいつものようにソファーで寄り添い、ハカセことドン・ドッゴイヤーに至っては食卓の上で大の字になっていびきを掻いている。本日、正式に加入を認められた伊狩鎧は一人シラフで、黙々と後片付けを続けていた。
「うちの連中、人遣い荒いからね。覚悟しといた方がいいヨ」ナビィは目(のLED)をピカピカ光らせながら言った。笑っているようだ。
「はいっ!大丈夫ですっ!それより俺、とうとう憧れのスーパー戦隊の一員になれたのが嬉しくて嬉しくて……」鎧は相好を崩して言った。
「スーパー戦隊?うちは海賊よ、基本」
「え?ええ、そうなんですけどね」昼間と違いどこかシニカルな感じのナビィに、鎧は少しだけ違和感を覚えた。「でも、俺にとってゴーカイジャーは最高のヒーローですから!」
「ふーん」ナビィは心なしか少し冷ややかに言った。「知りたい、うちの連中のこと?」
「教えて頂けるんですか?ぜひっ!」鎧は身を乗り出した。
「じゃあ教えてあげるよ」ナビィは(また)目をピカピカさせた。
「お願いしますっ!」
ナビィはパタパタ飛んで鎧の肩の上に止まった。
「まずマーベラス。うちの船長ね。君が今日見たとおり、大飯喰らいで柄が悪い。宇宙で一番偉そうなヤツ」
「は、はあ……」
「まあ、強いんだけどね、実際。前の船長に拾われた時からオイラが面倒みてやってる」
「え、前の船長?」鎧には初耳だった。
「ま、追々わかるよ」ナビィはさらっと流した。「性格はちょっとテキトーすぎ」
「………」返す言葉がない。
「次はジョー・ギブケン。副長と言えば副長かな、こいつは」
「あ、ジョーさんは冷静でいかにもクールな感じですよね!」
「クールって言うか、口下手なんだよね。もしくはボキャブラリーが乏しい」
「え?ええ???」
「でも剣の腕はピカイチだよ。マジで強いよ。気をつけた方がいいヨ」
「な、何をですか……?」
「口より剣の方が速いからさ」また目がピカピカ。
鎧は笑顔を貼りつけたまま冷や汗を掻いた。「気をつけます……」
「それと、トレーニングフェチ。ここでは飯食ってるか寝てるかトレーニングやってる。ってか、飯食いながらトレーニングしてるか、トレーニングしながら寝てる」
鎧はチラッとジョーの方を見た。そういえばそんな感じだ。
「それからルカ・ミルフィー。もうね、こいつはある意味ひどいヨ」
「ひ、ひどいって???」
「まず料理できない、縫いものできない、掃除もキライ。女じゃないわけヨ」
「女じゃない……?」
「そう。見た目だけ。あと光りモノが好きなんだよネ、そのコは」
「光りモノって……?」
「宝石」ナビィはサイドテーブルの上にあるルカのジュエリーケースを差して言った。「見てみたら?」
鎧はそっとケースを開けた。名前もわからないが、とにかく大きな宝石がついた指環やネックレスやブレスレットが溢れんばかりに入っていた。
「うわぁ……これ、全部で幾らくらいするんですかねぇ……?」
「この星を丸ごと買うのは無理かもしんないけど、この国くらいは買えるかもね」
「ひぇ〜〜〜っ!」鎧は慌てて蓋を閉じた。
「金にウルサイからね、ルカは。それも頭に入れといて」
「ハイ……」
鎧はだんだん心配になってきた。本当にやっていけるのだろうか、ここで?
「アイム・ド・ファミーユはいいコだよ、概ね」鎧の内心の不安をよそにナビィは続けた。「一点を除いてね」
「何ですか、その一点って?」
「家事がからっきしダメ。ルカに輪をかけてダメ。もう信じられないくらいダメ」
「そういえばアイムさんはお嬢様っぽかったなあ」
「お嬢様なんてもんじゃないヨ。アイムはお姫様だったんだから」
「そうなんですか!道理で何か異質って言うか……上品ですよね、すごく!」鎧は目を輝かせた。
「うん。回りのヤツが尋常じゃなく下品だから余計にそう見えるよネ」
「いや、そんな」身も蓋もない。
「ホントに育ちがいいからちょっと、ってかかなりズレてるけど、ま、そこは許してやってヨ」ピカピカ。
「あのぉ……」鎧は恐る恐る訊ねた。「ドンさんは?」
「ドン?ああ、ハカセのことか。ドン・ドッゴイヤーね」ピカピカピカ。「こいつは見所があるよ!」
「そうですか!」初めて誉め言葉が出たので鎧はちょっと嬉しくなった。
「家事はカンペキ。メカニックとしても優秀だし、性格も几帳面なんだ」
「うんうん!」
「でもさー、致命的なことがあるんだよネ」
「致命的……ですか?」
「へタレなんだ。“超”がつくどころじゃないよ。“超ど”がつくへタレ。超どヘタレ!」ピカピカピカピカ。
その時、誰かが後ろからナビィの頭を吹っ飛ばした。
「イターッ!」
「トリ!いい加減にしろよ」
鎧が振り向くとマーベラスが空の酒瓶を片手に立っていた。いや、全員目を吊り上げて並んでいた。
「ごごごごご誤解だヨーッ!オイラはこの新入りをテストしてただけだヨ!」ナビィはジョーに足を掴まれて逆さでバタバタともがきながら言った。
「テキトーなこと言ってんじゃないわよ。全部聞いてたんだからね!」
「ナビィ、ひどすぎます」
「そうだよ!“超どヘタレ”って何だよ!」
「だから誤解だってーっ!」バタバタバタバタ。
「まあまあ、みなさん!」鎧は慌てて止めに入った。「俺、信じてないですから!ナビィさんはわざとウソを言って俺の覚悟を試しただけですよね?」
「ううん」ナビィは首だけ回して言った。「全部ホント」
ナビィの目(のLED)はまたピカピカと光っていた。
COCOAOTOKO。Happy Valentine
ココア男。です。
某雑誌の最新号をスキャン、兄友で買うとついているポスカと合成しました。なぜわざわざ合成したかというと、ポスカは小さいのでスキャンすると顔の部分がボケボケしちゃう。それで雑誌からスキャンした大きなピクセルの画像を縮小して合わせます。色と角度と大きさを合わせるのが一番やっかいでした。
バレンタインっぽくココア色のレースとか色の重なる部分が浮き上がるハートとかをうすく配置してみてます。
【臨時】フォルダに入っています。サイドバーのリンクの「壁紙」をクリックするとなぞなぞ認証が入ります。なぞなぞの答えはジョー・ギブケンのファーストネームです。本日23時頃に一度クローズします。
本日はクローズしました。明日の19時〜23時頃に再度オープンして終了です。
非公開フォルダへ移動しました。
2012-02-03
今日のゴーカイチェンジ(第17話)
“なんか凄い銀色の男”はなかなか見つからなかった。
お宝ナビゲートロボ・ナビィの宣託は毎回意味不明だが、今回も(はっきり言って)かなり酷い。“なんか凄い”って、一体何が“凄い”のか?街中歩き回ってみたが、遭遇したのは銀色のサウナスーツを着た太った男と、自称“誰よりもスーパー戦隊を愛する男”と名乗る騒々しい若い男だった。
「さっきのヤツ、一体何なの?」ルカ・ミルフィーは苛々した様子で言った。
ただ話すだけなのにいちいち大袈裟なアクションをつけるわ、声はデカいわ、挙句の果てに「6人目の海賊になりに来た」?
有り得ない。絶対。
「心配するな。マーベラスが認めなければ俺達の仲間にはなれない」
ジョー・ギブケンはそう言ったが、あの男のサルのような顔と厚かましい物言いを思い出すとなんかムカつく。
前を行くキャプテン・マーベラスが突然立ち止まった。
「わっ!」ルカはマーベラスの背中に思い切りぶつかった。「ちょっと!急に止まんないでよ!」
しかし、マーベラスは何かをじっと見ている。視線の先にはおもちゃ屋があった。店先のワゴンの上で、おもちゃの見本品が幾つもカタカタと動いていた。
「マーベラス?」
真ん中にあるサルのおもちゃが両手に持ったシンバルをパンパンと数回鳴らし、歯を剥いて笑った。
(……アレ?)ルカは首を傾げた。最近、どこかで見たような気がする。
マーベラスがくるりと向きを変え、引き返そうとした。
「マーベラス」ジョーが声をかけた。「サルが欲しいとか言うんじゃないだろうな、バスコみたいな?」
二人はたっぷり10秒ほど見つめあった。が、マーベラスは無言で戻ってきた。
(確かにサルに似てるけど…)ルカはため息をついた。それで6人目に?
それはどうか、と思う。






