2012-01-31
今日のゴーカイチェンジ(第47話)
ここは暗い。しかし、寒くはなかった。私は闇の中に横たわり、静かに休息していた。私は一人だが孤独ではない。心は穏やかで、愛情に満ちていた。大切なものが何か、わかっているのだ。
私は生涯の終わりに、ある答えを得たのである。
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戦況は不利だった。海賊達は次々に“大いなる力”を手に入れ、戦力を増強していた。彼らの巨大戦闘ロボット“カンゼンゴーカイオー”はザンギャック精鋭の行動隊長のみならず、我々をも圧倒していった。我々は7体あった巨大擬似生命体“ロイド”をすべて失った。我が主個人の力は6人の海賊の力を持ってしても撃破することは難しい筈だ。が、あの巨大ロボットが相手となれば如何に主であっても苦戦は免れないであろう。
「さーて、どうするか……?」カンゼンゴーカイオーの“カンゼンゴーカイブラスト”を受け爆発する2体のロイドを見つめならが主は呟いた。
実は少し前から(そう、ちょうどキャプテン・マーベラスの公開処刑の頃から)、主は私に対し意識的に思惑を隠そうとする兆しがあった。主は私の思念波を読み取ることができるが、私は主の実際に発する言葉や態度でしかその心を量ることができない。海賊達との最終決戦に向けどのような策を執ろうとしているのか ────私には想像もできなかったが、主が間違いを犯すことは考えられなかった。
だからその命令を受けた時、私は何の躊躇もなく了承した。
「いいな、サリー?奴らの艦に入って宝箱を盗んで来い。宝箱だ。た・か・ら・ば・こ!」
宝箱、とは海賊達がベースフォームとして使用しているゴーカイジャーのレンジャーキーを除くすべてのキーが入った小型転送ポートのことだ。
「じゃあ頼んだよ、サリー」主は私の首に主自身が細工した美しい首飾りを掛けながら言った。「お守りだ」
私はその首飾りをじっと眺めた。おそらく発信機か爆破装置、あるいはその両方が仕込まれたものだと思った。そして顔を上げると、主が私に向かって銃を構えているのが見えた。
本当に撃つだろうと思っていたが、ここまで銃弾を受けるとは思っていなかった。私は自分の体を支えることができず、その場に倒れた。もし主の読みが外れたら私はここで死ぬだろう。
「ガレオンに連れて行って手当てしてやれ」
果たしてキャプテン・マーベラスは主の予想どおり私をゴーカイガレオンに乗艦させることを許可した。
今まで幾度となく戦ってきた相手だが、海賊達(特にアイム・ド・ファミーユとドン・ドッゴイヤーと伊狩鎧)は私に対し思い遣りと労りを惜しまなかった。彼らは私の傷の手当をし、暖かい飲み物と好物の果物を与えてくれた。
私はほとんど言葉を解さぬ振りをしつつ、彼らを観察した。ジョー・ギブケンとルカ・ミルフィーはさすがに私を疑っているようだ。しかし、キャプテン・マーベラスの苦渋に満ちた表情の理由は他の二人とは違うような気がした。彼は時折こちらの方を見たが、その目はおそらく私ではない別のものを見ている。記憶の中にあるもの────おそらく、彼自身の過去を。
この場所はかつて我が主が居た場所でもある。二人がどのくらいの間ここで仲間として過ごしたのか、私は知らない。『赤き海賊団』での日常を主が語ったことはないし、私も訊ねたことはない。だが、もしかしたらそれは主にとって────そしてマーベラスにとっても特別な記憶なのかもしれない。それは当事者にしか共有できない類のものなのだ。たとえあのような結末であったとしても。その記憶が今、マーベラスの胸に鋭い爪を立てている。冷静な判断を鈍らせるほどに。
もしも私がこのまま主の元に帰らなければ、この海賊達は私を仲間として受け入れるのだろうか?その答えはおそらく“イエス”だ。
だが私は戻った。
夜半過ぎに目を醒ました私は主に言われたとおり宝箱に手を伸ばした。その時、傷口に巻いてもらった包帯が目に入った。
(信じられません。どんな理由があったとしても、自分の仲間をここまで傷つけるなんて……)
アイム・ド・ファミーユの言葉が私の耳にリピートする。
“仲間”とは何なのだろうか?主と私は主従関係にある。それは仲間だということなのだろうか?違う気がする。少なくとも彼らの言う意味とは違う。主は私の生活すべてを支配し、決定している。そこに私の選択の余地はなく、私は主の意のままに従うだけだ。それが不幸と感じたことはない。私は主が好きだ。主の喜ぶ顔を見るのが好きだ。主の命令を遂行し、役に立てることが最上の喜びだ。それは間違っているのか?
私は頭を振り、宝箱を抱えてガレオンを後にした。地上に降りると本能に従い、主の居る場所へと急いだ。森の中は寒く、霧が立ち込めていた。もうすぐ夜が明ける。海賊達も目を醒ます頃だ。急がなくては。
「来たね来たね、宝箱ちゃん」木立の影から主が姿を見せた。私の足が止まった。
「どうしたの、サリー?とっととおいで」主は怪訝な顔で言った。
私は前に出ようとした。だが足が動かなかった。私に向けられた銃口と主の笑顔が甦り、私の体は凍りついた。
(信じられません。どんな理由があったとしても、自分の仲間をここまで傷つけるなんて……)
仲間、仲間、仲間、仲間仲間仲間仲間仲間仲間────────
「本当にいいのか?」背後から別の声がした。私は振り返った。
「悪いな。後をつけさせてもらった」キャプテン・マーベラスが立っていた。彼の仲間達とともに。
「あらら〜。マベちゃん達までついて来ちゃったんだ。ってことはその宝箱は…?」
「偽物に決まってるでしょ」(私を疑っていた)ルカ・ミルフィーが主を睨みつけて言った。「こんなことだろうと思ったけど…あんた、やりすぎよ。あたしたちが手当てしてなかったら、その猿、ホントに死んでたのよ」
「でもそのくらいしないと艦には乗せないっしょ?」
海賊達の目には強い光があった。彼らは怒っている。心底、怒っているのだ。私を傷つけ、殺しかけた主に。
「サリー、そいつはホントにお前のことを仲間だと思ってくれてんのか?」マーベラスは私に近づいてきた。
仲間────私は訊きたい。あなたにとって“仲間”とは何なのか?
「あれ、マベちゃん何考えてんの?まさかサリーを引き抜くつもり?」
仲間────あなたは私の“仲間”なのか?
「お前は黙ってろ。いくら作戦だとしても、仲間をわざと傷つけるなんて酷すぎる!」
あなた方は私を“仲間”として受け入れてくれるのか?
「関係ないね、そんなこと!サリーは俺が苦労してここまで仕込んだんだ。傷つけようがどうしようが、俺の命令に従うこと、イコール、サリーの幸せなんだ」
「そんな幸せありません!掴もうとするなら、幸せはどこにでも生まれます!」
私の世界にはバスコ・タ・ジョロキアしかいなかった。彼の喜ぶ顔を見ることが、確かに私の幸せだった。あなた方は違うのか?“仲間”と呼ぶ相手の笑顔が、あなた方の幸せではないのか?
「サリー、どうでもいいから、とっととこっち来な」
「サリー!」
私は迷った。主の銃口とアイムの言葉が交互に浮かんでは消えた。
主は怖ろしい貌で私を睨みつけていた。だが私は気づいているのだ。その貌の裏にあるもの────欲望と裏切りの果てに、あなたが抱えた地獄のことを。あなたが語らなかった“宇宙最大の宝”と引き換えに失くしたもののことを。あなたが本当に欲したものを────
私はマーベラスの後ろに立った。
「最後の最後に大逆転ってとこかな。人を裏切り続けてきたてめぇが悪いんだよ!」
バスコ・タ・ジョロキアは笑った。
「マベちゃん、人を裏切り続けてきた俺が、猿を信じてると思う?」
「何!?」
「サリー、よくやったよ。あいつら全員ガレオンから引き離した上に、一番面倒なマベちゃんを簡単に片付けられる」その手には見慣れた遠隔起爆装置があった。「何かを得るためには、何かを捨てなきゃ」
私の胸の、あの美しい首飾りが光った。
「……まさか!」マーベラスが手を伸ばした。
(お守りだ)
私は自分のやるべきことを理解した。あなたが再び失くそうとしているものを、私は守らなければならない。あなたのために。バスコ・タ・ジョロキアのために────
私の目の前は閃光と炎に包まれた。
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ここは静かでとても暖かい。体が浮かんでいるように重力を感じない。真っ暗に見えた空間に微かな星の輝きが無数にあるのが見えた。遠くに少し明るい光があった。それは少しずつ近づいて来ているように思えた。あれは私を、また別の場所に連れて行くのかもしれない。私は待ってもらうつもりだ。
私は祈る。
願わくば、キャプテン・マーベラスがあなたを救ってくれるように。
あなたが、本当に欲しかったものに気づいてくれるように。
────私はサリー、宇宙猿。バスコ・タ・ジョロキアの、最後の仲間。
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