サイバーパンクとしてのメイドインアビス考察

メイドインアビス見ました。
面白かったので漫画版を全巻見てしまいました。
で、考察でも見ようとググったのですがアビスの謎そのものに対する考察はありませんでした。これは放っておいても作者が語るから待ちましょうって意味なのかな?私は待てないので、自分なりに解釈した「アビスの謎」と今後の展開予測を書いておこうと思います。
ただ、これはメイドインアビスが「サイバーパンク」にカテゴラズされていると仮定した場合です。
まずはサイバーパンクについて語らなければなりません。
さて、とりあえず以下の作品のネタバレがありますので、嫌な方はここで中断してGoogleなりに戻ってください。

このコラムの中で定義するサイバーパンク

Wikiを見る限り非常に広義の意味だったので、私の中でのサイバーパンクをまず定義しようと思います。
メイドインアビスはご存知の通りグロシーンがあります。が、グロシーンだけならGUNTZなどもありますが、GUNTZはサイバーパンクではないと定義します。GUNTZでは主人公や敵も、みんな自分の命や血肉を大事に扱うからです。
例えば攻殻機動隊でも主人公の草薙素子は全身義体(サイボーグ)ですが、草薙はサイバーパンクではありません。なぜなら彼女は事故で自らの身体を失ったためにサイボーグ化せざる得なかったからです。
銃夢ではどうでしょうか?登場人物は全員身体の一部をサイボーグ化していますし、サイボーグ化していないと思われてた生身の人間ですら実は脳みそを抜き取られ廃棄されて代わりにICチップが入っていました。これはまさにサイバーパンクの金字塔でしょう。
ざっと複数の作品を語っただけで、私が言いたいことがなんとなくわかったと思います。これらを定義する言葉が今の所、「サイバーパンク」しかないのです。つまり、サイバーパンクとは、「自分や誰かの命や肉体を誰かの自分本位な理由によって非常に低価値に扱うストーリーを含めた作品」です。
私達が住む世界ではサイボーグもないし、一部のやばい人達を除いて肉体や命は尊いものという価値観の上に生きています。そういう人達がこれら「サイバーパンク」を見ることで感情を揺さぶられ傷ついたり怒ったり感情移入を他の作品よりも激しく行う、そういう手法の一つだと思ってください。
海外でメイドインアビス銃夢が非常に人気なのはスプラッター要素やホラー要素があるわけではなく、これら価値観の齟齬をチクチクとつつきまわすストーリーだからです。
メイドインアビスサイバーパンクのルールに則ってストーリーが進むと定義した上で、アビスの謎や今後の展開予測をコラムとして書こうと思います。

超文明の崩壊がアビスの誕生である

今、オースの街がある場所はもともと太古の超文明の重要な拠点でした。オースの街やアビスから出土される様々な品はオーパーツばかりなのがその理由です。
超文明では優れた技術がありました。
簡単に言うと天空の城ラピュタ的なものです。
ただ、宮崎駿作品にはないのはそれら超文明は高度に発展した技術で物質世界と精神世界の行き来すら行ってしまっていたというところ。宇宙の理すらも壊してしまう「時間を制御する装置」などがあることや、それらの道具を利用するために人の魂から作る白笛が使われていることからも、すでに進んではならない「心と魂」の領域まで進んでいたと考えられます。
これら様々な宇宙の理を破る装置を作り出すものを「リアクター(炉)」と仮定します。
このリアクターの動力は人間の魂。正確には高度な知性を持った動物の魂です。白笛がそうであるように、延長線上に魂があるのは推測できますね。
リアクターは人の命を利用して様々な理を破るものを生み出していました。内部では命を消費する動きと命から目的の装置を作り出す二つの力が作用していたと思われます。そう、メイドインアビスで頻繁に登場するアビスの呪いと祝福です。
他国に戦争を仕掛けて捕虜となった者達を使って、実験をしたり装置を生成したりしていたと思われます。ところが…このリアクターの外壁がある事故(または事件)で破壊されてしまいます。
そして膨大な理を壊すエネルギーは重力に影響され、縦の方向へと広がりました。制御が効かなくなって物質をブラックホールよろしく吸い込んだのかもしれません。オースの街があった中心部に存在していたであろうリアクターを中心として星の重力の中心であるコアめがけて崩壊し、街を飲み込み、大量の人間の命を吸い取り(のちの「お祈り骸骨」)巨大な穴が現れました。もちろん、超文明は後の文明に引き継がれることはありませんでした。みんな死んだからです。
これがアビスの穴の誕生です。

リアクターの再稼働と「夜明け」の関係

一つの文明を丸ごと消滅させたリアクターはまだ稼働していました。
しかし2000年が経つと稼働を停止します。
「夜明け」とはアビス最下層に稼働しているリアクターの上から下へ向けて吸い取る力が失われて光が届かなくなり生物が死に絶える「夜」が明けること…すなわち、リアクターにエネルギーである人間の魂が投入されることを意味していました。アビス内で2000年おきに生え変わる植物の話もこれから来ています。
お祈り骸骨が2000年おきに大量に発生するのはリアクターに命が投入されたタイミングと重なります。骸骨の数が少なくなるのは多くの冒険者が穴に自ら入った場合でしょう。

白笛達の思惑。不動卿の「不動」の意味

ボンドルドはある程度アビスの秘密を知っているようです。
彼は「次の2000年」と言いましたが、この大災害を乗り越える為にはアビスの祝福を手に入れてナナチのような姿にならなければダメなようです。
では一方でオーゼンが半ば諦め気味に「アビスを離れて生きてはいけない」と言いました。
白笛達はアビスの秘密を知っていて、自分の身の振りを決めていたのでしょう。
ボンドルドについては2000年おきの大災害を見届けること、オーゼンはアビスと共に滅ぶことを選んだように思えます。ライザについてはこの大災害を止めようとしているのかもしれません。
また、オーゼンがライザの白笛について聞かれた際に手に入れた場所を正確に説明しなかったことから、オーゼンがライザから取り上げたのでは、と仮定しています。
オーゼンの主義ではこのまま2000年毎の厄災を受け入れる、と決めている感があります。そしてライザとその部分で対立したのでしょう。なぜなら、リアクターの動作を止めることはアビスがアビスでなくなることを意味していて、それは探掘家達の未来を壊すことになるからです。オースの街の人達、自分の命をも引き換えにしてもアビスを未来に残そうとしているのでしょう。

さて、そろそろ終わりにしましょう

あくまで私の勝手な推測でストーリーの未来を描いてみました。
このままの通りになったら面白いですねww
この次の世代に向けて街一つ消耗して、命を元に装置が再稼働する…というストーリーは伊藤潤二大先生の「うずまき」にあります。といっても、あちらは誰も得をしないのでサイバーパンクではなくホラーなのですが…。

15 ニイタカヤマノボレ(リメイク) 4

俺は超重量級戦車に脳を移植されたタチコマ、通称「超重量級タチコマ」の背中に乗り、軽く手を当てていた。意識を集中し、巨大な塊を宙に浮かせる為である。そして、このまま電源が落ちているエレベーターシャフトを上昇し地上へと出る。
この間、戦闘無し。
赤暗いトンネルは非常用電源により点灯しているライトの為。異常な静けさが辺りを包んでいた。
意識を集中しながらも俺が敵の立場なら…と考える。
市街地で連中が銃を撃ちまくるのは後でマスコミが騒ぐから不可能だとすると、俺達を食い止めるのはせいぜい基地の敷地の中だ。そして今、何ら攻撃を受けていないということは、戦力を集中しなければ勝てない相手だと判断したからだ。
つまり、基地を抜けるまでが一番厳しい。まさに山場。
戦力差が明らかなら俺達は逃げの一手がいい。反撃はおろか防御もしない、ただひたすら基地の外へと向けて逃げる…。俺はジッとタチコマを見つめていた。
「キミカ姫?僕のほうをじっと見つめて何か良からぬことを考えている感じがするよ!!!まさか目立つ的があるからと攻撃を僕に集中させて、その間に基地の外へと逃げてしまえば勝てる…と考えているんの?!」
「(静かに邪悪に微笑む)」
「おいいいいいいいい!!!!」
「さて、上に逃げるか、そのまま突破するか…」
「僕を置いて行かないで」
「兵器が自分の命を惜しんだら兵器として終わりです」
「僕達は道具じゃない」
「道具じゃんか!」
そんなやり取りをしているとハッチを開けてナツコが顔を出す。
「まずいことになっています…地上では準備万端のようですわ」
「こっちも準備万端だよ」
「こちらよりもあちらのほうがさらに準備万端ですわ!バッテリー車があるから地上に出たらすぐにタチコマさんと接続して対物シールドを展開して、基地の外へと進みましょう」
「なんてこったい。あたしのタチコマを的にして逃げる作戦が」
「私達を守る盾無しに逃げるとか…キミカさんは逃げれてもわたくしは木っ端微塵の肉塊…いえ、血の霧になって消えてしまいますわ。空へ飛ぶのも無し。2人で走って逃げるのも無し」
それを聞いてタチコマは勝利を核心したように身体を震わせ、
「ほうらみたことか!僕が言ったとおりだよ!僕達は一心同体、我ら生まれた日は違えど死ぬ日は同じ!」
そう言ってガッツポーズをキメる。
俺はペシンとタチコマの頭を叩いて、
「死ぬ前提で話を進めないで!」
そう言った。
言うが早く、俺達はいつの間にか地上に出ていたようだ。
地上に出ていたようだ、というのは、タチコマの周囲に対物エネルギーフィールドが展開されていたからだ。地上の建物などはもう既にでた瞬間(0.1秒後)に吹き飛んでいたのだ。凄まじい銃撃の嵐が辛うじて重量級戦車
の物理バリアの前に塞がれている。
「こちらに銃を向けたことを後悔させてやるぞコラ!!オラオラオラオラ!!オラオラオラオラ!!!!!」
タチコマの機関砲が耳を引き裂くような凄まじい音を立てて発射される。砂埃が取り囲んでいる米兵の一部から沸き立ち、そこに弾があたっていることを俺に理解させる。と、同時に血も肉も金属の塊も埃に混じって舞い上がる。この火力…敵に回したら大変な事になっていた。俺もチェーンガンを取り出して応戦するが、明らかにタチコマの火力1人勝ちだった。
ナツコがハッチから飛び出して側にあるバッテリー車からコードを引っ張ってくる。コードと言っても直径が10センチはあるかという太いもの。バリアが弱くなっているのが目に見えてわかる。
タチコマ!上だよ上!!!」
タチコマが1人勝ちしてたからこそ気づけた。そう、上からヘリが俺達を攻撃していたのだ。対戦車ミサイルが発射された。
俺の視界には自分(達)を目掛けて飛んでくる熱源…ということでミサイルだと電脳が判断したのだろう、カーソルが向けられ、距離が下側に表示される。なんだこのHUDのようなかっこよさ!それをじっと見つめると身体というか狙い定めた銃が勝手に向かってくるミサイルに合わせて追尾。凄いぞこれ、いちいち照準を合わせなくてもいいじゃんコレ!
俺とタチコマが同時にミサイルに向けて銃弾を放つ。
タチコマは元々戦車用のAIが装備されているから当然としても、通常ならば飛んでくるミサイルに銃の照準を合わせて攻撃しようなどと思わない。当たりもしないし仮に当たったとしてもその程度の衝撃では破壊することができないと思えるからだ。しかし、この身体になっている俺は以前の普通の人間とは異なっていた。AIが身体の神経を制御して機械のように正確にターゲッティングされたミサイルという名の物体を0.1ミリ以下の小さな動きで向けた銃の照準が自動追尾して、好きなタイミングでトリガーを引く。あまりにも気持ち良い銃撃だった。
空に巨大な爆風が起こる。
爆風が俺たちが今しがた出てきたところのハイブ搬入口瓦礫を吹き飛ばす。と、同時にエンジン音。バリアが張り巡らされている音。
ナツコがバッテリー車の準備を終えたようなのだ。
「このままタチコマの充電をしながら付きっ切りますわ!」
「えっと、わかった。でも、どこをどう行けば良いのか…」
「キミカさんはaiPhoneをお持ちですか?」
「もちのロンですよ!あ!そうか、aiPhoneにはナビゲーションシステムがあるんだったよ。テヘペロ忘れてた」
タチコマが先頭、そしてそれに守られるようにバッテリー車に乗るのは俺とナツコだった。こうすれば米軍の追っ手は先頭の車両、つまりタチコマだけをまず攻撃してくるだろう。タチコマのバリアはバッテリー車のそれよりかは薄く貼られているから、というより、バッテリー車のほうがバリアーの防御力が当然ながら上なのだ。これを戦車で取り囲んで円陣を組むと非常に厄介なのは映画を見ればわかる。
そしてこういう時でも役に立つのがaiPhoneである。
運転席に乗った俺は早速、aiPhoneからaiCarと呼ばれる車両管制システムへと接続させる。目の前にホログラムが表示され建物の奥に存在するであろう道もわかりやすくデフォルメされた状態で表示される。
瞬時に乗っている人物を俺こと「キミカ」であると見抜いたaiPhoneのアプリ「CoogleMap」はaiPhoneに搭載されているデフォルトのAI「シリ」を利用してカーステレオから話しかける。
「ようこそ、CoogleMapへ!aiCarとCoogleMapによる快適なドライブをお楽しみください!」
と同時に車のアクセルやハンドルがCoogleMapアプリケーションによって自動で制御されて進み始める。地図がホログラムに混じって表示されて、車両管制システムと融合した「バリア用バッテリー残量」や、戦車の視点で砲台や銃器の根元につけられたカメラからの映像なども余計ながらに表示されている。
こうして表示面では快適になった車両管制システムaiCarとナビ「CoogleMap」ではあるが、先ほどの言葉はすでに嘘になり、「快適な」と言った言葉とは全く裏腹に銃弾の雨あられが降り注ぐ中を進んでいった。
「この車両は銃撃されております。敵を排除しつつ移動してください」
って…そこもナビしてくれるんだ…。

15 ニイタカヤマノボレ(リメイク) 3

先程は一時的にもこの格納庫には電源が来ていたみたいだけれども、ナツコのハッキング等に不利になるようにする為か、連中は再び電源を落として真っ暗闇にしていた。
戦車に残っているバッテリーとタチコマのライトだけが頼りだ。
しかし、労せずともすぐに発見できた。構造上、戦車格納庫の近くにエレベーターが無ければ地上への搬入出が面倒くさい事になるから当然と言えば当然かな…そう、エレベーターは格納庫の直ぐ側にあった。
再びタチコマが電磁ロックを解除しようとする光景にデジャブを覚える。そしてこのオチは結局開けられないで敵を招くことになるわけだ。
俺はコックピットから例の力で飛び上がり、戦車よりも巨大なエレベーター扉の前に着地、そしてまたしても例の力を用いて扉を開いた。まるで神殿の魔法により封印が施された扉を何か特殊な力を持った神官が開くかのように…(特殊な力を持っているところは同じだ)
エレベーターの物資や人を搭乗させる箱状のものは存在しない。
地上まで続くである空洞が天高く伸びているだけだ。つまり、連中はこのエレベーターを利用できないようにしていることになる。
「おぉ!!今度はうまくいったよ!」
とかタチコマが言うから俺はすかさずツッコミを入れる。
「あたしが開けた」
「え?」
「あたしが開けたの、君は何もしてないでしょ、今も、さっきも!」
「ひっどいなぁ!ぼくはハッキングを頑張ってたじゃないか!」
「やっててもそれが結果に直接繋がって無いなら、それは人間の世界では何もしてないことになるんだよ。うまくいった時に『呼吸をしていたからうまくいった』だなんて言わないように」
「だいたい野蛮なんだよ!人間なら強引にこじ開けるんじゃなくて、こうやって電磁ロックをハッキングしながら…と、うわぁッ!」
俺は例の力をもってして、今度はタチコマを中に浮かせた。
タチコマはジタバタしながら言う。
「やめろダースベーダー!僕はフォースの暗黒面には堕ちないぞ!」
「さっきから思ってたんだけど、君、キャラが変わってない?」
「え?僕の芸風は昔からこうだけど…」
「もっと丁寧な言葉を話していたような…ま、いっか」
タチコマをエレベーター内に放り投げる、そして浮かせたまま…。今度は超重量級の戦車のほうを浮かせようと…するのだが…。
浮かない。
いや、1センチぐらいは浮かせれてるのだけれど、それも片方だけで全体を持ち上げることができない。
「おーい、キミカ姫ぇ、そっちを浮かせたら気が抜けて僕のほうを落とすっていうオチはやめてよね」
とか後ろでタチコマが俺に言う。
「んん…フォースの暗黒面のパワーが足りない…おっかしいなぁ、ビルを浮かせるぐらい余裕でできたのに、この戦車が重いのか、あたしの力が鈍っているのか」
タチコマを一旦エレベーターシャフト内から引っ張ってきて床に下ろすと、今度は精神を目の前の巨大な戦車に集中させる。そう、マスター・ヨーダが若きジェダイが沼に落としちゃった戦闘機をフォースのパワーで持ち上げるかのごとく…。
「キミカさん、もしかしたら、その力は戦車のような重いものは動かせないのかもしれませんわ…戦車は合金の塊ですの。見た目は小さいものでも意外と重たいですわ。例えばこの戦車の場合は重量は250ト…え?う、浮き上がってる?!」
「マスター・ヨーダにできるのなら、あたしにもできる」
そして、この状態でェ…。
すっと俺は手をタチコマのほうに片方だけ向けた。浮かせた状態を維持してタチコマと両方を浮かせる…。
(ずスゥン…)
駄目だ。
はにゃーん、全然動かせないにゃーん」
と俺はアニメ声で叫ぶ。
「超重量級の戦車に意識を集中させると、もう片方は動かせなくなるんですのね…」
そうナツコが言う。
俺はタチコマをちら見してから、
「しょうがないなぁ…置いていくか…」
タチコマは言う。
「そうだよ、置いていってもいいじゃん、3人でなんとかなるよ」
俺はタチコマの足の部分をペシペシと手で叩きながら、
「今までありがとう、タチコマ。とりあえず救出するよう軍にお願いしておくからここでお留守番をしておいてね」
「おいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
怒涛のツッコミを入れてくるタチコマ
「さっきの攻撃を受けてわかったんだよ、これからさらに攻撃が増すのに防御力が圧倒的に足りない」
「あんたアンドロイドのAIよりも冷酷な思考回路してるよ!」
「合理的な判断だと言っていただきたい」
「僕のほうが奴(重戦車)よりも愛嬌があるよ!!ほら、水戸黄門はハチべぇがいるからストーリーにメリハリが出るんだよ!」
「でも戦闘中はハチべぇ居ないしなぁ…」
「…」
そんなやりとりを俺とタチコマがしているのを見て、間に割り込むナツコ。さすがに救出に来てくれて今まで一緒に戦ってきた仲間を見捨てるのは気が引ける…ということだろうか。
俺に比べて実に人間的な思考をしている。
「こうしましょう。タチコマさんのAIを重戦車に搭載しますわ」
「え?そんなことできるの?」
「えぇ、抜き取って挿入するだけですわ」
俺とナツコは直ぐ様タチコマの背後に回った。
「はやく、ハッチを開けてよ。タチコマ
「え、ちょっ、心の準備が…」
「(ペシペシとタチコマの頭の部分を叩きながら)心の準備なんていらないよ、今から心の部分を取り外してはめ込むだけだから」
「簡単に言ってくれるなぁ!!人間でいうところの脳みそを取り外して他の人間の脳みそと交換するようなものでしょ!!」
とジタバタ暴れるタチコマ
ナツコが言う。
「人間の脳は体全体に張り巡らされた神経回路とセットですから、事実上、脳は身体とほぼ同じですわ。ロボットのAIのように簡単に取り外しはできませんの」
「…お手柔らかにお願い…」
タチコマはぷすぅーんと音を立てて身体の動きを止めた。
それからナツコがハッチを開けて現れた液晶画面から何かを操作した。パスワードの入力画面などもでていたのだが、何故かそれを知っているようであっさりと認証を終わらせ操作パネルが現れる。
ピコピコといくらかの選択肢を選んだ後、輝いている液体の入った筒状のものがタチコマの頭の部分から抜き出された。
「おぉ…凄い、これが戦車のAIかぁ…」
「正確には記憶や性格などに司る部分ですわ。処理系はまた別ですの。新型の軍用記憶媒体ですわ。衝撃に耐えれるように形状が液体になっていますの…あれ?」
「ん?」
「何者かが…焼ききったような痕が…防壁を突破した痕跡が見られますわ。もしかしてハッキングを受けていましたの?」
「さ、さぁ…」
そういえば筒の端っこが黒く焦げている。
「もしハッキングを受けていたのなら、こちらの作戦行動が米軍側に全部漏れている可能性が高いですわ…」
「それはどうなのかな…もしそうなら、あたしだったらハッキングを受ける前と後で話し方を変えたりはしないかな。怪しまれるだろうし。それに、真っ先に救出に来たあたしを始末するかなぁ」
「言われてみるとそうですわね。米軍とは関係ない誰かからのハッキングでしょうかね。AIを乗っ取った後も私達を助けるように行動を共にするところが不明ではありますけれども…あぁ…このタイプは…人格の部分だけを乗っ取って記憶をそのまま引き継いでいるのかも…でも、なおさらなぜハッキングしたのか不明になってきますわ」
結論はこの件については『据え置き』。
このまま放置して帰るっていうのは考えられたけれども、そうなってくると今と同様に重量級多脚戦車の操縦をナツコがしなければならなくなるのでタチコマのAIを搭載するほうが楽だというナツコの判断があった。
かくして、無事にタチコマの脳幹移行作業が完了した。
重量級多脚戦車の電源を入れると再起動が始まった。
そして開口一番に言う。
「ぉ…ぉぉおぉ…ぉぉぉッ!!これが…僕の…カラダ」
と、何故かガタガタと身体を震わせ始めた。
「良かったじゃん、でかくなって」
「私の戦闘力は53万です」
「はいはい。言うと思った」
「…ですが、もちろんフルパワーで奴らと戦う気はありませんからご心配なく…」
「いや、戦えよ!」

15 ニイタカヤマノボレ(リメイク) 2

奴の人工筋肉の腕は俺の(美少女である)か細い首をひっつかんでそのまま壁へと叩きつけた。随分と派手な壁ドンである。一瞬だけ衝撃を検知した俺の物理バリアが自動的に作動し、壁ドンされた美少女の背後にある壁に衝撃と電磁パルスを放ったではないか。
だが告られる側の当の本人である俺は、このように冷静にモノローグを語っている場合ではない。
タチコマァ!!!いつまで鍵をカチャカチャやってるつもりなんだよ!!アンタがピッキング泥棒だったらチンタラやってるから警察に捕まって裁判も終わってムショにブチ込まれてる頃合いだよ!!!」
と、俺は暗に「お前、作業がトロすぎるんだよ」とアピールし、
「こっちを手伝ってよ!!!」
そう叫んだ。
その「手伝ってよ」の「手」のところでタチコマは痺れを切らし、両手のガトリング砲を使ってサイボーグ野郎に叩き込む。
そして弾丸は奴の腕や肩や頭に命中した。
身体が吹き飛ばされれそうになるも体勢を維持しようとする様は、しつこく壁ドンして告白攻めしてくる男を連想させる。
しかし、特殊な合金で骨格の部分を構築されているサイボーグなのか、弾はあいも変わらず肉の部分だけを吹き飛ばして骨格は露出するに留められ、お陰で、人間の肉から機械が飛び出ているという人ならざる不気味な姿となり、人混みに紛れても認識できる姿になってくれた。
ついにはタチコマ本体が急速接近しサイボーグ野郎に体当たりを食らわせる。壁ドン変態野郎を美少女の側から突き飛ばして、突き飛ばすだけでは飽きたらず弾を叩き込みながら遠くまで引き剥がす。
選手交代だ。
俺は俺の開け方で電磁ロックされた扉をあける。
まず武器リストからグラビティ・ブレードを取り出して扉に突き刺す。ほんのわずかな手応えの後、扉を貫通して周囲を吸い取っているのがわかる。そして、この分厚い扉がただならぬ分厚さを誇っていたこともわかった。タチコマが通りで俺では無理だと決めつけやがったわけだ。
50センチはあるだろうか、鉄だかなんだかわからない様々な合金で塞がれている…たかだか人間の人質を入れておくためだけにこの分厚さはいらないだろうが…とも思ったが、続行。
そのままブレードでぐるりと円を描くように扉を切り裂き、グラビティ・コントロールを正面の扉に向けて発動。一瞬周囲の物体が宙に浮き、また降りる…と共に正面の扉がメキメキと音を立てて凹む。もちろん、これだけの力を出せば、俺が切り裂いた円の部分は奥へ向けて吹き飛んだ。
内部は戦車などが置いてあるカーゴのような構造になっていて、赤暗い照明の下には多脚戦車が並んでいる。そしてその足元に研究者っぽい姿の女性がチラリと見えた。隠れている。
ふとこの研究所に雇われている一般人の研究者かと思ったが、アメリカ人にしては背が低いし髪も黒い…ひょっとしたら、と俺は尋ねる。
「石見圭佑さんの妹さんですか?」
驚いたようで、その女性は驚いた顔で多脚戦車の足元から顔を覗かせて、俺の姿を伺う。
「あ、貴方はどなたですの?」
日本語だ。久しく聞いてなかった日本語が聞けた。
「あたしは救出に来たものですよ。デブ、じゃなかった…石見圭佑さんの知り合いです。頼まれて来たくもないけど来ました」
女性は多脚戦車の足元から這い出て、俺の前に姿を現した。
「お兄様のお知り合い…ですか。わたくしは『石見夏子』。石見圭佑の妹ですわ。遠路はるばるありがとうございます…」
薄暗かったが、その話し方を聞いていたら清楚な女性の印象が漂ってくる。ケイスケの妹だからどんなぽっちゃり系かと勝手に妄想していたが、実際に会ってみると本当にケイスケの妹なのかを疑いたくなるぐらいに…華奢な身体、整った顔立ち、セミロングの黒髪、胸は…BカップかCかな…俺(美少女)に比べると背は少し高い。兄貴と似ているところがあると「アラを」探すのなら、1つだけ、メガネをかけているところぐらいだ。赤渕の楕円形のメガネ。
「お兄様にお願いされて…ですか。お兄様はわたくしのことをなんと?」
普通に考えれば血の繋がった兄妹で、兄の指示で妹が救出されている最中なら疑問にすら思わないところだ…だが、この兄妹は違う。ちょっと前までは兄貴のケイスケは妹は救出しなくてもいいなどとほざいていた。
俺がその質問にどう答えようかと迷っていた時だ。
俺はうっかりしたことにも今は戦闘中だということを忘れていた。それを思い出させてくれた。タチコマがガトリング砲を撃ちながら後退してきたのだ。チカチカと物理バリアが反応しているからタチコマも撃たれながら後退している。
「ヤバイな…角に追い詰められた感あるね」
そう俺が言うと石見夏子こと…ナツコは戦車の脇に置かれている操作パネル前に駆け寄りカタカタと何かを打ち始めた。そしてその作業をしながら俺に言う。
「基地が放棄されるという情報が流れてきましたわ。逃げるチャンスは今しかないと思って準備をしていましたの」
「え?逃げる準b…」
俺が言いかけた時、操作パネル前の多脚戦車が動く。あまりにも予兆が感じられないから思わず身体をビクつかせる俺。
「ちょっと待って下さいまし。コックピットに乗れるよう、戦車を座らせますので…」というナツコ。え、そんなの飛び乗ればいいじゃん…というか、それを知らないから言ってるのか。
タチコマ!援護頼むよ!」
「わかってるよ!!人使い…いや、ドロイド使いが粗いなァ!」
タチコマが再びガトリング砲を放つ。
見れば俺が壊した入り口から続々と米兵らしき人々が入ってきてる。さっきドアの前で開けようとしていた連中とは明らかに違う。何が違うって?『装備』が違う。
タチコマのガトリング砲でも防ぐ物理バリア、何人かは光を捻じ曲げるスーツを着ているのか、姿が見えない…(が目を凝らせば見える)などなど完全に俺達を殺しに来てるのが装備から伝わってくる。
俺はグラビティ・コントロールで俺とナツコを浮かせた。
「ひゃっ!!な、なんですの?!」
「操縦席に行くんだよ」
既にハッチが空いている。
滑りこむように乗り込む俺とナツコ。ナツコが操縦席に、俺はその後ろに立つ。ハッチは勢いよく閉まる。
「あなたは何者ですの?!さっきの力は?」
「ドロイドバスターの力だとか言ってたよ、お兄さんが」
「ド、ド、ドド、ドロイドバスター…!!え?ということは、えっと、その、お、お兄様の研究はついに完成したのですわね…!!」
「その研究結果を持ちだした…っていう疑いをかけられてたみたいだよ。ナツコさんが」
「そ、そんな、わたくしは新兵器の開発にと連れ去られて、ドロイドバスターに関する研究は何も…えっと、」
衝撃波がこの内部まで伝わってきそうなほどに、明らかに戦車に何かがあたっている。そう、こんな話をしている場合ではないのだ。
言うが早くナツコはさっさと電源を入れる。
計器それぞれが輝いたかと思うと、戦車内部がまるでガラスのように透過し周囲の景色が丸見えになった。そして取り巻く兵士達の姿で戦車のAIが認識したものにターゲッティングが行われる…。
これは映画で見たことがあるぞ…凄い。
そのターゲッティングされた兵士達は一斉に出口に向かって逃げ出すのだ。ちょっと考えればわかることだ。さっきまで人質として閉じこもっていたナツコがじつは戦車の準備をしていた。
そして、それを動かせていたのだ。
「お供の多脚戦車をこの戦車の背後に」
ナツコは言う。
「了解」
そう言ってから俺は電脳通信で、
タチコマ、この戦車の背後に隠れていて』
『もう隠れてるよ!!』
早いな…。
「主砲を撃ちますわ」
「え?」
戦車は少し身体を浮かせた後、恐らくは後部の足を踏み込み、衝撃に備えるっていうのが動きでわかる。…そして、
(ドゥン)
容赦なく砲弾が入り口付近に命中。
一瞬だけ物理バリアの反応が見えたものの、
(ドゥン!ドゥン!)
容赦なく続けざまに砲弾を…っておいおい、本当に容赦無いな。
さっきまでバリアで自分への被害を防いでいた米兵が、今はもう木っ端微塵になっている。瓦礫の中に手や足が散らばっているからわかる。中にはサイボーグ化したものがあるから、さっきのサイボーグ野郎も殺されたんじゃないのか?
よく見たらコックピットにナツコが持っていたノートPCが接続されている…これ、全部ハッキングしてやってるのかよ…凄い。さすがは石見圭佑の妹だ。やっぱり凄い。
さらに透過していた景色が変わる。
このハイブの構造が表示されたのだ。
「出口はここと、ここと、ここですわ。でも米兵が見張っています。だからこのエレベーターを使って外に逃げますの」
「電源はさっき落とされてたよ?」
「えぇっと…あなたの…」
「キミカでいいよ」
「キミカさんの、その、宙に浮く力があれば…」
「なるほどね」

15 ニイタカヤマノボレ(リメイク) 1

米兵4人分の肉塊の前に俺とタチコマは居た。
たままた逃げていた米兵と出会ったわけじゃなかったわけだ。
彼らはこの場所を『死守せよ』とでも言われていたのかもしれない。それか出口がここだと信じて逃げようとしていたのかもしれない…そう彼らに信じこませた何者かによる時間稼ぎだったのかもしれない。
通りすぎようとしていたが足を止めて、最初に何かしらの気づきをあげたのはタチコマだった。
「この扉を開けようとした形跡があります」
1人の米兵が扉の前のパスコード入力パネルの前で肉塊になっていたからだ。ただ、素人の俺から見ても、この場所が地上へと続く脱出経路とは思えないのだ。
しかし調べなければならない。
俺達は地上へ逃げる出口も探さなければならないが、同時に本来の目的でもある人質の救出も行わなければならないからだ。
しかし、全ての『時』は前方向に向かってのみ動く。先に何が起きるのかはどんな立場の人間であっても知りえないのだ。俺とタチコマは、早々にこの場所を離れなければならないことに気付くのは、もう暫く時が前方向に動いてからだった。
つまりはこれが天下の名祭『あとの祭り』というわけだ。
さっそくタチコマが、その扉の前で腕から伸びた通信ケーブルを、パスコード入力パネルの下にある電子インターフェイスに突き刺す。それはこの場所に人質…ケイスケの妹がいるかも知れないことを示唆していた。
「そんなことしなくても、あたしg」
と言いかけたところ…俺の首元にボンレスハムのように図太い腕が、突き刺さるように喉元に喰らいついていた。
俺が武道家のソレであるのなら気配を察知してその動きを先読みして、優秀な武道家な反撃を、すこし優秀な武道家なら身体を反らし、スローモーションのように迫り来る腕を回避していたところだろう。
だが俺は素人で武道家ですらない。
喉元に喰らいついたボンレスハムは「あ、これボンレスハムに似てる」って思うぐらいに視界に入って喉にダメージを与えて初めて攻撃を受けたと気付くのだ。
「かはッ!」
レイプされる美少女が喉を締めあげられた時みたいな声を上げる俺。
目の前にはスキンヘッドの身長は2メートルはあるメリケン野郎がボンレスハムのような腕を伸ばして俺の首を片手で掴んで空高くあげていた。幸いにも天井は高かったからメリケン野郎は俺の頭を天井にめり込ませるという、あたかも『スティーブン・セガール』のような攻撃はしなかった。しかし、昔、岩国米軍基地で友達がふざけてフェンス越しに中指を立てた時に、ブチ切れて興奮した米兵がフェンスを乗り越えて襲いかかってきたという思い出を走馬灯の代わりに見るぐらいには危機だった。
そのメリケン野郎は俺に言う。
英語だ。
俺の英語の成績はD。クラスでは最下位の部類だ。
まるで喧嘩を売る時のような話し方だ。
『ビッチ』という言葉もなんとなく聞こえた。
喉を完全に塞がれた俺は何も言えない、が…
助けは呼べないわけじゃない。
タチコマァ!!!』
電脳通信で呼ぶ。
タチコマは身体を電磁ロックの解除作業をする為に扉に向けた身体をそのまま動かさずに俺の視覚野から送られた映像だけで位置を特定し、腕だけをこちらに伸ばした。そして、罵倒セリフと思われる英語を話しているメリケン野郎にガトリング砲を放った。
俺の目の前で肉塊になる…と思ったが…確かに肉は飛び散ってはいたが、奴のバリアと肉だけを削ぎ落としただけだ。そして本来の戦車のガトリング砲だったら奴を殺れたのに…と俺に思わせた。
とどのつまるところ、こいつ…サイボーグだ。
肉は剥がれ、身体の半分だけが不気味に白とシルバーで構成された外骨格にメーカーの名前が刻んである。Panaso…nic…。
おいい…。
日本の義体メーカーかよ。
その日本製義体…日本製サイボーグ野郎は、その状態で、タチコマに口も喉も吹き飛ばされた状態で英語で何か言う。顎は喉がなくても声が発せられるのはサイボーグだからだ。だが、せっかくのサイボーグも英語の成績が最悪な高校生である俺を前には無意味だった。
だが、1つだけわかったことがある。
『ジャップ』という言葉…2chに時折見かける、「ジャーーーーーwww」の元ネタにもなった言葉。侮蔑の言葉。俺が奴をメリケンと罵ることと同意義の言葉である。
俺は細い美少女の首を相変わらず掴んで締め上げてるボンレスハムを片手で持ち、全神経を足に集中させた。
周囲に重力波が広がった。物体が一瞬だけ宙に浮かぶ。
次の瞬間。
俺の鋭い蹴りがボンレスハムを直撃した。
物理法則を裏切る美少女の蹴りだ。グラビティ・コントロールによる力を加えたボーナスアップだ。美味しいだろう?
奴の腕は根本から裂けて、その動力を失った腕を床に転がすハメになった。と、同時に重力波は収まって少しだけ宙に浮いていてた周囲の色々なものは落ちた。
ただでは終わらない、お釣りが来るぐらいにダメージを与えてやる。お釣りが小銭ばっかりで困るぐらいに。俺は素早く武器リストからブレードを選択し奴を左肩から金玉まで斜めに斬りつけた。
そして喉が解放された俺は、さっそくだが叫んだ。
「な、なにぃいいぃいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!」
あまりに一瞬で理解するまでに少しラグがあった。
奴の身体の背後に、タチコマとは違ってはいるものの、同じような蜘蛛型…いや、多脚タイプのケンタウロス・ボディと言われるドロイドが近づいてきて、奴の頭の中にある何かを引っ張りだしたのだ。周囲にはサイボーグ用の血やら体液みたいなのが飛び散ってキモい。
人間と見間違えるぐらいのサイボーグからドロイドが脳みそを引っ張りだすみたいでエグいのだが…。
俺が叫んだ理由はそれではない。
その引っ張りだした部分をドロイドの胴体の中に押し込んだのだ。
ドロイドが人間の脳を取り込んだんじゃない、このドロイドが…。
その野郎が、俺を指差して先ほどと同じ声と調子で言う。
英語で。
罵倒文句らしきものを。
つまり…。
このドロイドが…次の…奴の『身体』だとうぅっ?!
奴は腕を突き出した。
一瞬、奴の腕が青に輝く…これは、
俺は素早くグラビティコントロールで周囲にあった手頃な何かを引っ張りだした。コンテナだ。防御に間に合わせるためだ。しかし完全には間に合わず、コンテナの半分が吹き飛んだ。貫通した衝撃がが俺の身体を、小さな美少女の身体を吹き飛ばした。
幸いにもバリアが展開されていたから身体の一部だけが吹き飛ぶという最悪な事態は免れたが、俺はショックカノンを食らうという貴重な経験をさせて頂いた。感謝しなければならない。
そして感謝の反撃だ。
防御に使って吹き飛ばされて半分砕けたコンテナをグラビティコントロールでどけると、丸裸になった奴のケンタウロス・ボディが射程圏内に収まる。そして武器リストからショックカノンを素早く取り出して放つ。
一撃は命中。
奴はバリア展開。
今度は奴の反撃。
放たれる。
俺は腕の動きを読んで身体を回避。
俺は反撃。
放つ。
奴のバリアが薄くなる。
放たれる。
俺は腕の動きを読んで身体を回避。
放つ。
奴も回避。
タチコマ!!!まだァ?!』
…。
『おいいいいいいいいいい!!!!』
聞いてねぇのかよ!!
『…』
俺の視界に真っ赤なメッセージダイアログが表示された。
あまりに邪魔でどけたいぐらいだ。今、敵と交戦中なんだが…。
…。
『Virusをブロックしました』の赤いメッセージ。
おいおいおいおいおいおいおい!!
タチコマからの通信でウイルス送られて来てんだけど!!
何してんコイツ!!!!
「キュゥゥゥ…」
パニックになりかかっていたがさらに別のパニックが襲いかかった。
ショックカノンが…変な音を出してとまった。
これって弾が無限にあるからいくらでも撃てるんじゃなかったのかよ?
連続使用できないのか?!
相手も同じか。
俺は背後に手を回してブレードを素早く出す。
そのままの体勢でバリアが削ぎ落とされる覚悟で奴に接近。だが、奴も奴でショックカノン以外の飛び道具を持っていないのか、それとも肉弾戦を好んでするのか、とにかく俺との間合いを詰めてきた。
「ちぇぇッす、」
とォォォ!!とやろうとしたところで、
ケンタウロス・ボディの長い腕が俺の腕を止めた。クソッ。
腕で正解だったな、グラビティ・ブレードをそのまま受け止めたら完全に真っ二つにされてただろう。
そのまま長い腕のもう一本が俺の首にあてがわれる。
タチコマ!!!まだ部屋の電磁ロックは?!』
『そんなに急げ急げ言われてもできるわけないじゃんかよォォ!!!僕だってこれでも急いでやってるんだよ!!早く終わらせたきゃ君がってよォォォォォ!!!』
…え?
なんか…キャラ変わってない?

14 トラ・トラ・トラ(リメイク) 6

周囲には鉄粉が撒い、鉄が焼ける臭いと焦げる臭いが漂う。
鼻奥に鉄粉が吸い込まれれむせ返りながらも、俺は「何も考えず」前へ前へと進んだ。何かを考えようと思わなかった。ただその時はヘトヘトに疲れて鉄粉が舞うその場を離れたかっただけだ。
入り口の方向か、敵がいるハイヴの奥か、どっちに離れるかを考える余地はないから俺の脳は今までやっていた「作戦」を恰も日々の習性か何かのように継続して行うことを選択したようだ。
さて、ここで初めて一息入れることができる。
あれだけ到達が難しかったハイヴの内部へと俺達は降りることができた。じゃあ作戦を続行するのか?それを考えなければならない。
周囲は暗闇の中で赤色の電灯が所々に申し訳程度にあって歩ける程度だった。省電力設定なのだろうか?あまりにも何かの作業をするには考えられないぐらいに暗い。ここに到着するまで俺はてっきり搬送用通路だけが電源オフにされていたのだと思っていたからだ。
俺より少し遅れて到着したタチコマは、突然にも壁…壁の上部、隅のほうに向けてガトリングガンを放って何かを破壊していた。
「ゴキブリでもいた?」
俺が聞くと、
「監視カメラを破壊しました」
と、答えた。
俺は焼け焦げていた手が、ドロイドバスター特有の能力で再生していくのを見ていた。
「素晴らしい能力ですね。人間の細胞はこのように高速に修復されるものでしたか。その科学力をもってすれば私のようなドロイドの身体も修復できるはずなのに…」
タチコマはそう言って手をあげて「こんなにやられたよ」と先ほどのムカデ型ドロイドのビーム砲…粒子砲を喰らって溶けかかった合金を俺に見せた。鉄が熱せられると真っ赤になりいずれは溶けて液状になるわけだが、合金の為かそれともビーム砲を食らう前提で開発されているのか、タチコマの身体はさっきは真っ赤になっていたのに今では所々しか赤みがない状態。それでも俺に近づいた時は十分熱かったが。
しかしそれにしてもタチコマが言うのもわかる。
人間の…と言っても偽物でありアンドロイドのそれのようなすべすべした美しい皮膚が想像を絶するスピードで回復していくのに、これよりも遥かに構造が単純なタチコマの装甲は回復していない。
ケイスケの開発した技術は特許でもとられて軍では利用できないのか?
「特注品だからじゃないかな?」
と俺は適当に答えた。
「私の身体も特注品のはずなのですが…」
「ケチってるんでしょう。あたしのは軍が発注したものじゃなくて、ある科学者が作ったものだからね」
そう、可愛らしい中学生か高校生ぐらいの女の子の身体を模したものにわざわざ男の俺の脳を入れるぐらいには余裕ブチかましてる科学者の作った特注品である。そう簡単には壊れない…らしい。
さて、ここでシンキングタイムである。
このまま先へと進むか、撤退するか。
物語の主人公で男の場合は徹底的なまでに突き進む体育会系か、逃げちゃダメだ逃げちゃダメだと言いながらも最終的には逃げてもいいんだと言って逃げまわる文化系かのどちらか極端ではあるが、残念ながらこの物語の主人公である葛城公佳はそのどちらにも属さない。
アリや蚊や犬や猫、近所のガキでもいい、相手が自分よりも弱く、相手を完膚なきまでにボコボコに出来て、それなりにボコボコにする理由があるのならそれはそれはやり過ぎじゃねぇのかって言われるぐらいにボコボコにするが、相手が不良やヤクザやその他モロモロの俺よりも強い奴がいて、それなりにボコボコにされる理由があるのなら「脱兎のごとく」その場から逃げ出す。
それでも相手が俺の中に定義される「悪」であるのならその場から逃げ出したとしても執拗に証拠を突き詰め、世間に広め、ネットに広め、味方を多くしてから、その味方の群れに混じって石を投げ火を投げそれはそれはやり過ぎじゃねぇのかって言われるぐらいにボコボコにする。
とどのつまるところ俺は、物語の主人公たりえない、ごく普通のごく一般的なピープルであり、計算高く日頃のストレスが溜まってやたら陰湿で執拗で…何よりクズで、ハイエナのように美味しいもののおこぼれをもらうような、それでも生にしがみついて生を楽しんでいるような。
そういう人間。
物語の主人公には成り得ない性格だが、それでも一般的なピープルと少し違うことがあるのなら、その自分のクソみたいな性格を熟知していて、受け入れていて、肯定していて、愛していることだ。
自分の性格がクズだと思うことはイコール、クズであることを治そうとしている…と勝手に解釈されそうだが、案外、人は、いや生物は全般的にそんな綺麗な生き方はしないものだ。生物とは生きる物だから生物なのであって生きる目的が達成されるのなら本来なら法や倫理や正義なぞ二の次三の次四の次なのだ。
と、俺は腕を組んで考える。
美少女であり、水着の上に戦闘服を着た、その美しい刺客は考える。
「ん〜…」
「どうされましたか?」
タチコマが問う。
「いやぁ…帰ろうかなぁ」
「え?」
ドロイドのわりにもオーバーなアクションで身体を大袈裟に仰け反ってから俺に返すタチコマ
「…流石に今回のはちょっとキツいかなぁと思って」
と、俺は照れながら頭をポリポリかいて言った。
「戦略的撤退ですか?」
「いや、帰るんだよ、撤退じゃなくて『帰る』。帰ってシャワーを浴びて、ご飯を食べて、テレビを観て、ネットでバカな書き込みをして、眠気が襲ってきたら温かいベッドの中に入って寝るんだよ」
という俺の話の中、ネットでバカな書き込みをして、ぐらいのところでタチコマが黙って聞いていられない、とでも思ったのだろうか、
「それは流石にマズイのでは」
そう口を挟んだ。
「え?2chVipper板に今回の戦闘について書くこと?」
タチコマは手を振りながら、
「いえ…そうじゃなくて…確かにそれもマズイですが!そうじゃなくて『帰る』という行為です」
そう言った。
そんな話をする間にも俺はプラズマライフルを取り出して、それをどこともなく狙いをつけたりして『遊びながら』聞いて、
「だって、さっきのドロイド見たでしょ?あれが繰り返し襲ってきたら次は逃げれないよ。そのタチコマの合金が熱に耐えれるのはどれだけなのかわからないけど敵もシューティングゲームの雑魚じゃないんだから。勝てないのにノコノコ前にはやってこないよ。勝てると思って作戦を練ってからアタシ達の前に登場するんだよ」
そう言う。シューティングゲームのように敵が俺のたまたま構えたプラズマライフルの前に現れるか…わけないよな。
「しかし軍規では『帰る』という選択肢はありません。戦略的な撤退ならありえますが…私たちに与えられた任務を遂行するのみです」
「あたしは軍人じゃないんだよ」
「そうなのですか?」
「そうなのです」
タチコマは相方であり今まで『軍属』だと思っていた俺が「おうちかえるぅ」と言い出した事態に対して、ドロイドであり人工知能でありながらも若干慌てているようで、身振り手振りしながら、
「約束はどうなるんですか?あなたが石見博士とした約束…妹さんを救い出すという約束です。人間は簡単に約束を破るものですか?」
「人間は簡単に約束を破る生き物なんだよ」
と、俺は哲学的な答えを返す。
立て続けに俺は言う。
「あたしは仕事はしたことはないけれど、友達が仕事…バイトをしたことがあって、バイトでは出来ない仕事があったり、何かの都合で…例えば親が死んで葬式があったり、風邪を引いて寝込んだり、酒飲みすぎて二日酔いだったり、彼女と別れて失意の念に襲われた時とかは仕事をしなくてもいいんだよ。仕事をすることを契約書に書いているのにもかかわらず。君たちロボットは命令に従うだけなんだろうけれど、人間っていうのは自分の都合で動くし指示を出す側だって自分の都合で動くという前提で指示をするんだよ。それはゴミ取りのバイトでも草刈りのバイトでも工場の機械メンテナンスのバイトでもそうなんだよ。安全第一。それは軍隊でも同じ。明らかに死ぬとわかっている作戦だったとしたら、現場の判断で逃げてもいいことになってる。その時は現場の上官がいて『逃げる』っていうよりも脱出するようみんなで連携を取りながらだけど」
「キミカさんは、今、その脱出するという判断をしたわけですか?でも、脱出した後はどうやって石見博士の家族を救うのですか?」
「バイトの場合は休んだから別のシフトの人が担当する」
「しかし…軍の判断では別のシフトの人が誰も担当できないような案件だったからキミカさんにご依頼されたのだと…」
「あたしだってヒーローじゃないんだから何でもかんでも出来るわけじゃないよ。今まで頼まれたことは全部できてたけれどサァ…何でも出来ると思われて『ちょーしこいて』何でも頼まれるわけにもいかないんだよなぁ…ここいらで『こいつにも出来ないことがある』って思われとかないと、今後、好き勝手に何でも頼まれちゃうじゃん」
と、飲み会で酔った勢いでも話さないようなクズっぷりを、聞いてても誰にも暴露しなさそうなドロイドに向かって話す俺。
タチコマは表情は読めないが代わりにオーバーアクションで感情のようなものを俺に見せる…というか、そのようにできているのだろう。「もう帰るぅ」状態にある相方が現れたとして、それを引き止めるプログラムがじつは裏では動いているのかもしれない。
あたふたと動いて、考えるような仕草をしてからタチコマは言う。
「…そう考えるに至った経緯は、キミカさんがこの作戦は無理だと判断したからですよね」
「そうだよ」
「その見立てが間違っているかもしれません」
そのタチコマの見解を聞いた俺は美少女のヒロインが主人公と喧嘩している時のように口を尖らせて言う。
「なんでだよ!」
ただ、淡々とそれに答えるタチコマ
「まず第一に。この作戦はあくまで石見博士のご家族を救出する作戦です。敵と真っ向勝負するわけではありません…そして、私の見立てでは最初のあのドロイドがここでは最も強いと思われます。そして、」
「ちょっと待ってよ、なんでそう言い切れるのさ」
「もし侵入者がいたとして、まず最初に重量級のドロイド…最も『金のかかる』ものを毎回出動させるというのは、実にマヌケな行為です。今までの米軍はそのような対応だったでしょうか?」
「…確かに」
「最初はまず偵察や斥候があり、歩兵があり、軽ドロイドや装甲車があって、次に戦車や多脚ドロイド…最後に、爆撃機や人類史上局地戦において最高の破壊力を持っているビーム砲搭載ドロイドが現れます。相手が何者なのかわからない…下手すれば只の泥棒かもしれないのに、泥棒に向けて一発5000万のプラズマ粒子砲を放つことはコストメリットがありません。それなら日本政府側も泥棒を毎回忍び込ませれば、かなりの速さで米軍を衰退させることが可能となるでしょう…日本ではなくても中国がそれをやっているでしょう。既に」
「それはつまり、相手は…米軍は、ドロイドバスターである、あたしが攻めてくる事を知ってた?」
「そういう事になります」
「え、じゃぁ…」
「この基地で最高の力をもってして立ち向かって、それで失敗しました。相手を見誤っていたわけです。次は空爆ですが、空爆は派手です。ニュースになり、情報封鎖も役に絶たず、まさに海外政府がここぞとばかりに叩くでしょうし、何よりハイヴは空爆に耐える為に作られた施設ですからほぼ効かないでしょう。つまり、私とキミカさんが最初のドロイドを倒した時点で今、米軍の上層部はパニックに陥っているでしょう…ひょっとしたらドロイドバスターであるあなたが救出に向かった事を知った時点で既にそうなっていたのかもしれません。つまり…今がチャンスです」
そういえば…そうだ。
電源が落とされていた意味が何となくわかってきた。
…あれは…。
あの最初のドロイドは俺を倒す為じゃなく、
「ただの時間稼ぎです」
俺の脳にモノローグが流れる前にタチコマが言った。
「この基地は…放棄される…ということ?」
「電源を落として兵士は脱出を始めていると思われます。もう次にチャンスは来ないかもしれません。あなたが言うように『あなたがこれからやろうとしていたように』彼らは一度撤退して、上層部は…作戦に失敗した米軍上層部は、次はもっと堅牢で爆撃もしやすい僻地のハイヴ内に人質を置いて救出難易度をあげるでしょう。その頃は石見博士のご家族から情報の抜出しが全て終わって用済みになった彼女を殺害している可能性もありますし、そうでなくても、情報の抜出しがほぼ終わっていたのなら救出に向かった人も一緒に爆撃するかもしれません。後付で国際社会から避難されないような理由を考える十分な時間もあるでしょう。専用のシナリオライターを準備しているかも知れませんし、役者も雇っているかもしれませんね。落ち着いた頃にハリウッドでチームを組んで映画化すらやろうとしているかもしれません。そしてそれを観て日本の観客達は『全米が泣いた』という言葉に踊らされるかもしれません」
話が終わる前に俺はさっさと武器を取り出しておいた。そして、
「急ぐよ、タチコマ
そう言った。
「理解して頂けて光栄です」
俺とタチコマは破棄される予定である基地内を早足で移動した。
もう追ってくる敵は、立ち向かう敵はいない。
いよいよタチコマの背中に乗ってさらに速度をあげる。
そして言う。
「逃げている敵を撃つのは楽しいからね」
「そういう理由ですか」
「自分よりも強い敵と対峙する時に人は強くなるかと思われがちだけどね、案外そうじゃなくて、案外そんなに合理的には創られてなくてさ、下手に防衛本能が働いて逆に弱くなるんだよ。でも相手が弱いとわかっていたら強い相手と戦う時よりも強くなるのさ」
「それはキミカさんが定義するところの『クズ』ですか?」
「そう、客観的に見れば生物ってのは大抵がクズなんだよ」
「私はそうは思いません」
さらにスピードをあげるタチコマ
「この先に生体反応。4体」
「了解!」
カーブを曲がった瞬間、俺の目の前には米兵の姿。
タチコマガトリングガンと俺のレールガンが火を吹いた。
反撃する間もなく、一気に肉塊になる兵士達。
そしてタチコマは言った。
「あなたが定義するところの『クズ』が、おそらく生物学的には優秀なのだと思われます。負けそうなら守りに入り、勝てそうなら徹底的に戦う。これは防御と攻撃の基本です」

14 トラ・トラ・トラ(リメイク) 5

メンテナンス用通路はカーゴが斜め45度に地下へと降りるのに添うように側に続いており、その先は真っ暗闇になっていた。しかし、正確には俺達がいる場所は真っ暗ではなく省電力設定になっている電灯の明かりが照らしていた。明かりが照らしきれてないのだ。
しかもメンテナンス用通路のはずなのにメンテナンスが行き届いておらず、時々、それらの明かりは消えたりついたりを繰り返している。
タチコマは戦車ながらも器用に音を立てずに階段を降りている…というか、階段は人間用に作られているので器用さに器用さを増して、片方の足を階段、もう片方を壁につけながら身体を斜めにしてゆっくりと降りているわけだ。
俺は俺でそろそろ人間の足を使って地面を歩くのが疲れてきた。
できるのならタチコマをここに置いて自分だけ空を飛んで、この斜め45度に延々に暗闇へと続く通路を1人、降っていきたいところだ。
その時だ。
『150メートル先に熱源を検知しました』
タチコマから電脳通信だ。
『そろそろハイブの居住空間に到着したのかな?』
真っ暗闇が先に広がっていてとても「居住区」があるようにも思えない。ただ、それを言うのなら南軍本拠地のカーゴにしても電力節約のためだろうか時折全て消灯している時がある。
同様の考え方で運営していそうな気もする。
『120メートル先に熱源を検知しました』
再びタチコマから電脳通信。
ん?
おかしい。
俺とタチコマは音を立てずに忍者のように忍び足で降っているはずだ。モノローグにしてもほんの3行過ぎた程度なのに、いま、30メートルも進んだのか?3行で3年経過したことを知らせるモノローグもあるから3行で30メートル進んでいてもおかしくはないのだが、はたして、ここに来て俺自信に疑問を持たせるような『移動速度』について言及を避けることはできないのではないだろうか?
そして次の瞬間、俺は不気味とも思えるぐらいに消えたり点いたりを繰り返す電灯に薄っすらと、音も立てずに動く何らかのドロイドのボディを見たのと、タチコマの『100メートル先に熱源を検知しました。100メートル先に、高エネルギー反応』という通信が頭に流れ込んできたのは、ほぼ同時だった。
「な、」
俺は「な、なにィィィィ!!!」と叫ぼうとしていたと思う。
しかし叫べなかった。
スローモーションだ。
スローモーションで俺の右腕、つまりはタチコマからはみ出ていた右腕の部分にバリアが展開された。だが一瞬で崩壊し、貫通し、戦闘服も腕の皮膚も、まるで豚肉を皮ごとバーベキューした時のように皮が破けて火がついた。それが俺にはスローモーションで見えた。
「あぁッっつゥゥゥ!!!」
反射的に俺は燃え上がった右腕を抱きかかえるように地面に転がって炎を沈下した。そして何が起きたをまず確認した。
タチコマの影が燃えずに残っており、タチコマの影ではなかった部分が真っ赤に燃えている。鉄がだ。鉄が高温に熱せられている。
「やばいやばい!!やばいやばいやばいやばい!!!」
俺は既にパニックになっていた。
さっきまで護衛についていた外国人どもを殺した時には屁とも思っていなかったのに、だ。それで自分の身体が少し火傷したから(少しではないが)大騒ぎをしたっていうわけでもない。
相手と同じ土俵の上で戦っていたと思っていたら、じつはまったく違っていて土俵の上から石を投げられていたという事態だ。つまり、俺はまったくもって想定外の強さを目の当たりにしていた。
「ヒュゥゥゥウウウゥゥゥ」
耳に鳴り響いた音は俺達のいる位置より100メートル先から聞こえてきた。もう一度明かりがチカチカと照らされると、明かりの下で不気味に蠢くものがいる。
その蠢くものは…まさに俺が一番、虫のなかでも大嫌いな『ムカデ』の姿をしておりムカデの動きそのままでムカデのように足の数が多いからという理由で高速に動くように…ロボットではありえないぐらいの滑らかで正確で高速な動きで俺達に近づいていた。
あの強烈に耳を痛める音は、奴が口から吐いたレーザー砲によって奴の口が熱せられて溶けそうになるのを防ぐため、冷却している時の音…映画の中で俺は見たことがあるだけで実物をこうやって目の前にできるのは初めてだ。そして貴重な経験である。経験したくない経験である。
タチコマのガトリング砲が火を吹いた。
しょぼい照明よりも遥かに明るくメンテナンス用通路内を照らす。
俺もタチコマの影から身体を出してチェインガンを取り出してムカデ野郎の身体に向けて放つ…放つ。放つ。
おいおい…おいおいおいおい!!!
俺とタチコマの物理バリアがしょぼいっていうのが痛いほどにわかる。このクソ昆虫野郎はATフィールドも真っ青の強烈な物理バリアを展開させ、俺達の攻撃を目の前で停めていた。
タチコマ!!撤退だよ!撤退!!」
「キミカさん、近くに横道に逃げれる通路はありませんか?」
「無いよ!!」
「第二波がきます」
「え、ちょっ」
調子にのって乗り出していた俺は素早くその身体を引っ込めた。
音もない。
ただ、カメラのフラッシュのように周囲が真っ白になり、光と影だけの世界になる。光はムカデ野郎の口から吐かれるビーム砲、影はタチコマの影だけだ。俺はその影の中に身体を引っ込めたが、影以外の部分がさらに熱せられる…さっきの攻撃が鉄を熱して真っ赤にするものなら、そこの同じエネルギーをぶつけて今度はドロドロに溶かすのだ。
溶けた。
俺とタチコマがいる箇所以外が全部どろどろに溶けて、まるで地獄の釜の中に滑り落ちる溶岩の如くハイブの奥へと溶けて落ちていく。
バランスを崩しそうになったタチコマが溶けていない部分に足を引っ掛けて身体を留める。
「後ろに後退できますか?」
タチコマが俺に聞く。
俺は後ろを見る…だが、そこには残念な風景が広がっていた。ぽっかりと円の形に通路の鉄が溶かされている。
綺麗なぐらいにタチコマの影だった部分だけが無事で他の部分は熱せられてとてもそこを「歩ける」状態じゃない。
『私が食い止めます。キミカさんは脱出してください』
くそっ、さっそく絶体絶命状態じゃないか。
タチコマ、前は?!』
『前は…第三波のレーザー砲装填を行っているところです』
『じゃあ、前だよ』
『作戦が理解不能です』
『前に進むんだよ!!間合いを詰めるのは武道の基本!!』
ロボットだけあってマスターの俺の命令は素直に聞いている。タチコマは一気に敵のムカデ野郎との間合いを詰める。
既に敵の物理バリア反応域に達してた。タチコマのバリアと敵のバリアが干渉して強度が弱まっているのがわかる。
俺はタチコマの背中にぴったりとくっついていた。
第三波が来たらさすがのタチコマも鉄が溶解する。合金で出来てるんだろうけれどもナヨナヨになって弾を貫通させてしまうだろう。
しかしこれだけの近距離でもロボットは、ロボットだけあってか肉弾戦には持ち込まない。
ムカデ野郎は50本ぐらいある足の25本でお尻を支えて、身体の半分を大きく立ち上げた。さっきとは体勢が違う…これは、正面から狙っても殺せないから俺を確実に仕留めるよう、立ち上がったってことか?
野郎、しつこくも再び装填を終えたレーザー砲…つまり奴の汚らしい口を俺達の方へと向けていた。
タチコマ!!体当たり!!」
「はい」
タチコマの足が仁王立ちになるムカデ野郎の胴体の下に滑り込み、踏ん張り、タックルの構え…そして、全力で胴体をムカデ野郎の胴体へとぶつける…機械と機械の強烈なぶつかり合いは凄まじい音を出した。
と、同時にバランスを崩すムカデ野郎。
口の中が光り始めている…第三波…させるかよ!!
「ちぇぇッス!!!」
と俺は叫んだ、同時に先ほど滑らかに突き出したグラビティ・ブレードがムカデ野郎の喉元に突き刺さる。
「とォォォォ!!!」
ブレードはムカデ野郎の喉元から脳天へ向けて流れるように斬った。
鉄は裂け、裂け目はグラビティ・ブレードの中に向かって流れて消えて、水中で…深海でドラム缶が水圧によってペチャンコになるように奴の頭は無様にペチャンコになった。
もうそうなるとゴミだ。
鉄くずだ。
まだ生きている下半身部分は鉄くずになっている上半身を外そうとうごめいている…。っていうか、この状態でどうやって戦うんだ?このロボットの司令塔は頭の部分じゃないのか?!
「しねェィ!!」
再びブレードを奴の残った下半身側に振り下ろす…が、ロボットの動きとは思えないぐらいに滑らかな回避をした。
そして、ムカデ野郎の節の1つだけ、ちょうど後ろの肛門の部分だけが分離して俺の方を向いて足を突き出し、何やら英語で話をしている。
極めて人間的だ。
それは挑発だ。
英語はわからないのだが、挑発だということがわかった。
まるでその足を手のように器用に使って、俺を指差して、英語で何かを言っている…その印象から察するに「ノコノコマヌケにここに降りてきたジャップは、いずれここが墓場になる」そんな感じだ。
奴が物言いを全て言い終えると、同時に俺のショックカノンが奴の身体を射程に捉える。
これが俺の答えだ。
引き金を引いた。
しかし、翻った奴の小さな身体は、俺のショックカノンによって上部の装甲を吹き飛ばされるも、結局中身のほうは無事で、それはそれは素早い動きで敵にケツを見せながら階段を駆け下りていった。