ジョルジュ・メリエス−映画を見世物に向かわせた男(9)

 現代ならば、マーケティング調査を行い、観客が飽きていることを知り、内容を修正したりするところなのだろうが、メリエスはそうはしなかった。むしろ、自分の作っている作品は優れていて、人々がそれを理解しないと考えていたところもあるようだ。その意味でメリエスは昔かたぎの「芸術家」だったといえるだろう。ある意味妥協を知らない「芸術家」である。

 同時に、そうできない理由もあった。1900年代の後半に向かって、映画は個人的に撮影したものから、企業によって大規模に撮影されるものに変化していた。映画は産業へと移り変わろうとしていた。

 メリエスはその時流にも乗らなかった。あくまでも個人のスタジオの中で、自らがすばらしいと信じる作品を作り続けた。

 規模は違うものの、後年のメリエスを見ていると、D・W・グリフィスの後年を見るかのような気分になる。両者とも映画初期において、映画の可能性を開花させたにも関わらず、時流には乗らずに人気を失っていくのだ。両者とも自分の作りたいものを作るという芸術家であろうとした。映画は芸術家には冷たいメディアなのだろうか。



私が見たメリエスの映画が見られるDVD・ビデオ
「THE MOVIE BEGIN」(アメリカで発売されているDVD)
「フランス映画の誕生」(ジュネス企画
本「死ぬまでに見たい映画1001本」の付録
死ぬまでに観たい映画1001本