映画評「三銃士」

 原題「THE THREE MUSKETEERS」 製作国アメリ
 ダグラス・フェアバンクス・ピクチャーズ製作 ユナイテッド・アーティスツ配給
 監督フレッド・ニブロ 原作アレクサンドル・デュマ 製作・出演ダグラス・フェアバンクス

 アレクサンドル・デュマ原作の作品。数々の映画化作品のある「三銃士」だが、その最初期の長編作といえる。

 舞台はルイ13世の統治する中世フランス。国王の銃士隊へ入隊することを夢見るダルタニアンは、田舎町からパリへとやってくる。そこで三銃士と親しくなったダルタニアンは、皇后を追い落とそうとする枢機卿の陰謀を防ぐために大活躍をする。

 ひたすら血気盛んで、一本気な若きダルタニアンを演じるには、当時のダグラス・フェアバンクス(公開当時38歳)は、年を取りすぎている感がある。髪型などで若く見せようとしているし、三銃士に大柄な人物が配されていることで相対的に幼く見えるが、それでもやはり夢を見て田舎からパリへやってくる青年には無理がある。

 それを補っているのは、フェアバンクスの大げさな演技だろう。どんなところでも大げさな身振りで、サイレントだが大げさな声で朗々としゃべっているように感じられるその演技は滑稽にも見えるのだが、見かけではなく内面がまだ幼いということを如実に見せてくれる。フェアバンクスがこのような演技しか出来ないということでは決してない。「奇傑ゾロ」(1920)では、気弱な金持ちの息子役(実は裏でゾロとして華々しい活躍をしている)を抑えた演技で演じていたことからもそれがわかる。


 映画は、フランス宮廷の権力闘争と陰謀をいやらしく見せる一方で、ダルタニアンと三銃士の活躍ぶりをさわやかに見せる。皇后の名誉を守るためにダルタニアンがイギリスへ向かい、それを枢機卿側が邪魔をするという後半までは、映画はかなり静かに進む。枢機卿による陰謀の進展がストーリーのメインだからだ。途中に、食べるものがないダルタニアンたちが、枢機卿の護衛隊から食べ物を盗んだりといったシーンが入るが、これらはストーリーとは直接関係がない。そのため、中盤はだれている感じもする。

 とはいえ、枢機卿による陰謀が張り巡らされ、皇后らが翻弄される様子は、枢機卿へのイライラが募るのに十分で、後半のダルタニアンらの大活躍を楽しむ下地が徐々にできていく。枢機卿を演じるNigel De Brulierの不気味な容貌(光と影の具合で髑髏にみえる)と、もってまわった言い回しは「陰謀」の名にふさわしい。

 宮廷に張り巡らされるいやらしい陰謀と、活躍できずにいるダルタニアンたちによって、静かに醸造される抑えられたエネルギーは、ダルタニアンと三銃士が皇后の名誉のためにイギリスへ向かう段になって一気に開放される。

 アトス、アラミス、ポルトスの三銃士たちは、ダルタニアンをイギリスへ渡らせるために、枢機卿の派遣した護衛隊たちを体を張って迎え撃ち、ひとりまたひとりと倒れていく。このあたりの展開は、正統派の冒険物語、友情物語のものだ。思えば、幼いころに見た「キン肉マン」の映画版も同じような展開だったし、「ファイナル・ファンタジー」のようなゲームにも同じような展開があった。また、冒険物語ではなくても、1人を助けるために誰かが進んで犠牲になるという展開はよくある。


 三銃士に助けられたダルタニアンは、それまではただの血気盛んな若者にすぎなかった。だが、使命を帯びたダルタニアンは、素晴らしい身のこなしと、機転と、勇気を発揮して、皇后の窮地を救っていく。しかも、それは愛する者を助けるためでもあった。

 ダグラス・フェアバンクス自身が脚本に名を連ねている(他の人の助けを借りてだが)「三銃士」は、正しく冒険物語となっているし、正しく友情物語にもなっている。この何のひねくれもない、何の照れもない物語は、その直球ぶりが見ていて物足りない部分があるかもしれないが、それでも冒険物語、友情物語の雛形として評価してもいいのではないかと思う。

 フレッド・ニブロの演出は堅実で、宮廷の陰謀ではリシュリューのいやらしさをとことんまで強調する一方で、ダルタニアンの活躍をからっと見せる。後半は、パリへと馬で必死に駆けるダルタニアンと、宮廷で追い詰められていく皇后の様子をD・W・グリフィスばりのカットバックで見せて、サスペンスを盛り上げる。

 宮廷のセットやパリの街並みのセットなど、セットも素晴らしい。一筋縄ではいかなそうなルイ13世を演じるアドルフ・マンジューなど、脇を固める役者たちも素晴らしい。

 フェアバンクスは「奇傑ゾロ」から、現実のキャラクターではなく架空の「ヒーロー」を演じるようになり、それはこの後も続いていくことになる。「三銃士」は、そんなフェアバンクスの試みの中でも成功している作品だと思う。陰謀渦巻く宮廷劇(それはそれでおもしろい)と、そんな陰鬱とした宮廷を批判するかのようなフェアバンクス流のからっとした活劇は、見事に1つとなって「三銃士」を構成している。

 ちなみに、映画は原作の前半部分を映画化したものといえる。原作ではこの後、フランスとイギリスが戦争状態に入る。また、前半部分でもダルタニアンたちの邪魔をする、枢機卿側の女性であるミラディーがすさまじい悪女ぶりを発揮する。美しい容姿、完璧な演技力で、牢番をたぶらかしていく過程は、「三銃士」の中で最もスリリングなものとなっている。

 映画ではダルタニアンは快活な好男子というイメージだが、原作の(特に後半)ではセックスを武器にミラディーと戦うことにもなる。もっとも、検閲の関係で当時はセックスの部分は描けなかったのだが、フェアバンクスの魅力を考えると、セックスが描かれていない方が魅力を発揮することができたのだろうと思う。


三銃士(上巻) [VHS]

三銃士(上巻) [VHS]

三銃士(下巻) [VHS]

三銃士(下巻) [VHS]