映画評「ドクター・ジャック」
製作国アメリカ 原題「DR.JACK」
ハル・ローチ・ステュディオズ製作 アソシエイテッド・エキジビターズ配給
監督フレッド・ニューメイヤー 製作・脚本ハル・ローチ 出演ハロルド・ロイド ミルドレッド・デイヴィス
ジャックは田舎町の医者。病気はほとんどなく、気持ちが落ち込んだ顔見知りの人たちを、笑顔と機知で治していく。そんなジャックは、金持ちの娘の病気を治すことを依頼される。娘はいかめしい医者の手によって、人々から隔離されて療養していたのだった。
ハロルド・ロイドの作品の中では知名度の低い作品だ。確かに、派手なスタントはない。ここにあるのは、アメリカ映画特有の前向きな気持ちよさと、人々を楽しませる無限のアイデア、そしてそれを見事に映像化するテクニックだ。
ジャックの治療法は、医学ではない。もし本当に娘が病気だったら、ジャックはどうしたのだろう?だが、そんなことは考える必要はない。この映画では、娘は病気ではなく、現代医学に染まったいかめしい医者によって幽閉されることで、心が落ち込んでしまっていたのだ。そして、それをジャックが救ったのだ。
映画は田舎町で人々を治していくジャックのエピソードの積み重ねで始まる。人形のメアリーが死んでしまったと泣き喚く少女を助け、学校をさぼるための少年の仮病を見破り、元気が出ない老母のために嘘の電報で息子を呼び寄せてあげる。テンポよく描かれるこれらのエピソードは、見る者をジャックの世界へと連れて行ってくれる。
クライマックスは、患者である娘の元気を取り戻すために、自らが魔女のような格好をして、家の中を飛び回るチェイスだ。ここでは、スラップスティックは見事に計算・整理され、スピード感溢れる映像で見るものを楽しませてくれる。ギャグのいくつかは他の作品でも見たことがあるものもあるが、問題はそうしたギャグがジャックの、ひいてはロイドの世界の中で見事に構築されている点だろう。
この作品を見るまで私は、ロイドの映画はスタントの意味ではキートンやチャップリンに劣ると思っていたし、その他の作品も個性に欠けると思っていた。しかし、この映画を見て分かった。ロイドの魅力はスタントにもないし、アクの強い個性にもないのだということが。ポジティブな内容に、練られたギャグ、計算されたスラップスティック、その融合こそがロイドの魅力であるということが。それゆえに、ハロルド・ロイドは当時、バスター・キートンやチャールズ・チャップリンよりも人気が高かったのだということが。
ハロルド・ロイドの最大の魅力は、スタントにはない。アクの強さにもない。その意味で、ロイドの真価は誤解されてしまっているように感じられる。ロイドは不幸な映画人なのかもしれない。
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