映画評「海底王キートン」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ [原題]THE NAVIGATOR [製作]バスター・キートン・プロダクションズ [製作・配給]メトロ=ゴールドウィン・ピクチャーズ・コーポレーション

[監督・製作・編集]バスター・キートン [監督]ドナルド・クリスプ [製作総指揮]ジョセフ・M・シェンク [脚本]ジーン・C・ハベッツ、ジョセフ・A・ミッチェル、クライド・ブラックマン [撮影]バイロン・ホーク、エルジン・レスレー 

[出演]バスター・キートン、キャスリン・マクガイア、フレデリック・ブルーム

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 主人公の青年ロロは、恋する女性ベッツィーと、誰もいない客船で漂流してしまう。金持ちの2人は、召使のいない船の中で悪戦苦闘するうちに、島を発見して喜ぶ。しかし、その島は人食い人種の住む島だった。

 キートン映画の大きな魅力は、キートンのアクロバティックな動きだ。超人的な体技によって繰り広げられる体を張ったスタントは、見るものを魅了する。一方で、キートン映画を支えているのは、様々なセットとアイデアの融合であることを忘れてはならない。

 「海底王キートン」は、キートンのアクロバティックな動きが抑えられた作品だ。その代わり、ここにあるのは様々な素晴らしいアイデアの集合体である。

 道を挟んで隣の家に、運転手に車を運転させて移動するといった細かいギャグ。船に乗ってからは、料理の出来ない2人の悪戦苦闘ぶりを見せる細かいギャグのほかに、船の揺れに合わせて廊下に沿った部屋のドアがいっせいに開いたり閉じたりするという比較的規模の大きなギャグまで見所に溢れている。

 人食い人種と出会ってからは、潜水服を着ての海底でのギャグ(実際の湖を使って撮影されたという)に加えて、海底から陸に上がってきた潜水服姿のキートンを人食い人種が化け物と間違えて逃げていくという(キートンが一歩前に進むたびに、人食い人種が一歩後ずさりするという間が素晴らしい)ギャグなど、アイデアとセットに支えられた素晴らしいギャグのオンパレードとなっている。

 それでも、私はこの作品に物足りなさを感じてしまう。それは、わがままであることを承知で書くと、やはりキートンの見事な体技がないためだろうと思う。

 「海底王キートン」は、ギャグの洪水に満ち溢れた作品ではあるものの、キートンの刻印が薄い印象を受ける。これが、短編であれば楽しんで見ることができたであろうが、約1時間の作品となると多くのものを望んでしまう。人間はかけた時間に見合う報酬を求めてしまうのだろうか?

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