映画評「メリー・ウイドー」
※ネタバレが含まれている場合があります
[製作国]アメリカ [原題]THE MERRY WIDOW [製作]エリッヒ・フォン・シュトロハイム・プロダクション [製作・配給]メトロ=ゴールドウィン=メイヤー(MGM)
[監督・製作・脚本・衣装]エリッヒ・フォン・シュトロハイム [製作]アーヴィング・サルバーグ [原作]ヴィクター・レオン、レオ・シュタイン、フランツ・レハール [脚本]ベンジャミン・グレイザー [撮影]オリヴァー・マーシュ [編集]フランク・E・フル [衣装・美術]リチャード・デイ [美術]セドリック・ギボンズ
[出演]メエ・マレー、ジョン・ギルバート、ロイ・ダルシー、ジョージ・フォーセット、タリー・マーシャル
貴族のダニーロは、アメリカからやってきた踊り子のサリーに恋をする。ダニーロのいとこで王位継承者のミルコもサリーに恋をするが、サリーはダニーロを選ぶ。2人は結婚を考えるが、王の反対によりダニーロはサリーを諦める。絶望したサリーは、かねてからサリーに言い寄っていた金持ちの男爵と結婚するが、結婚後すぐに男爵は死んでしまう。
レハールが作曲した1905年初演のオペレッタの映画であるが、シュトロハイムが相当に手を入れ、かなり改変された内容になっているという。「グリード」(1924)でMGMに多額の損害を与えたシュトロハイムが監督した作品で、興行的にヒットしたが、シュトロハイムの給料の歩合分から、かなりの金額が「グリード」の損害分として差し引かれたという。
「グリード」にいたるシュトロハイムの監督作品と比べてみると、かなりマイルドな作品になっている。ハッピー・エンドはシュトロハイムの意向ではなく、製作のサルバーグの命令だったとも言われるが、全体的にダニーロとサリーの恋愛に終始した作品である。
マルコは、シュトロハイム自身が演じる予定だった。だが、これまでの作品のように、シュトロハイムのこだわりによって撮影が遅延した時に、本人に出演されるとクビにできないという理由で、ロイ・ダルシーが演じている。そのマルコに、これまでのシュトロハイム作品でも描かれてきた人間の醜悪さが込められている。とはいえ、常に歯をむき出しにしてニヤつくという、見ていてイライラしてくる容貌の他は、恋に敗れた男の嫉妬以上のものはない。人間の醜い部分を掘り下げているとはいえない。
他にも、豪奢な貴族たちの乱痴気騒ぎや、サリーへの性的欲望を隠そうとしない男爵など、随所にシュトロハイムらしい冷徹でひねくれた視線を感じるものの、やはり掘り下げられているようには感じられなかった。ダニーロがサリーに対して肉欲を露わにすると、サリーが恐怖を覚えるほどの変貌を見せ、ダニーロを演じるジョン・ギルバートが冷静に獲物を追うようなギラギラとした目を見せてくれるのだが、これもすぐにスターらしい優しい男に戻ってしまう。
ダニーロが着るツヤツヤした高級そうなシャツや、夫の男爵が死んだ後にサリーが身につける下品さを感じさせるほど豪華な宝石など、貴族や金持ちの仮面を剥がすような要素を小道具に見ることができるが、これもまた脇役にすぎない。
随所に見られるシュトロハイムらしさが、もしも前面に押し出されていたら「メリー・ウイドー」はヒット作にはならなかったことだろう。「シュトロハイムらしさ」を忘れれば、「メリー・ウイドー」は上質なメロドラマである。
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