映画評「暗黒街」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ  [原題]UNDERWORLD  [製作・配給]パラマウント・ピクチャーズ

[監督]ジョセフ・フォン・スタンバーグ  [原作]ベン・ヘクト  [脚本]ロバート・N・リー、チャールズ・ファースマン  [撮影]バート・グレノン  [編集]E・ロイド・シェルドン  [衣装]トラヴィス・バントン

[出演]ジョージ・バンクロフト、イヴリン・ブレント、クライヴ・ブルック、フレッド・コーラー、ヘレン・リンチ、ラリー・シーモン、ジェリー・マンディ

[受賞]アカデミー賞脚本賞ベン・ヘクト

 一匹狼の強盗“ブル”ウィードは、浮浪者の男にロールス・ロイスと名づけて自分の手下にする。ブルの愛人フェザースとロイスは互いに愛し合うようになるが、ウィードへの忠誠心から一線を越えることは出来ない。ある日、フェザースを力ずくで襲おうとしたマリガンをブルが撃ち殺し、裁判で死刑となるのだが・・・

 最初のギャング映画とも言われる「暗黒街」は、あまりギャング映画の匂いはしない。何よりも、主人公のブルは一匹狼である。途中でロイスを仲間にするものの、ロイスはブルに少しアドバイスをするだけだ。それよりも、メロドラマの色合いが強い。豪快な魅力のブルと、知的な魅力のロイスという、両極の魅力を有した2人の男性と、美しいフェザースの三角関係は、これまでにも多く作られた設定だろう。それでも、犯罪者を当てはめることで、上流階級の三角関係にはない面白さを有することに成功している。

 登場人物がとにかく魅力的だ。ブルは強さに加えて、果物を盗む少年に説教をした後で金を渡してやるという「気のいい兄貴」的な魅力を持っている。ロイスは、知的さに加えて、自分を拾ってくれたブルに、あくまでも忠誠を誓う熱さを秘めている。フェザースは、とにかく綺麗な上に、名前の由来でもある羽根を常に身につけることで個性的でもある。

 3人の中心人物を演じる役者もまた素晴らしい。ブルを演じるバンクロフトは、この作品でスターとなった。それも十分納得できる演技を見せている。豪快な笑い顔と人なつっこさと、考え込んで無表情になったときとのギャップは、ブルの人格の幅を感じさせるのに十分だ。バンクロフトだからこそ、単なる犯罪者ではない魅力を、ブルに持たせることができたのだろう。ロイスを演じるブルックは、シャーロック・ホームズも演じていたのを知って、大きく頷いた。知的さを、立ち居振る舞いや表情から感じさせる。ほぼ無表情なのだが、決して無感情ではなく、状況に応じた喜怒哀楽が感じられる。フェザースを演じたブレットは知的さと美しさの両面を持ち、ブルとロイスを魅了するのに十分だ。

 スタンバーグの演出は、非常にテンポがいい。クロース・アップを多用して役者陣の魅力を引き出しているし、メリハリの利いたモノクロの画面は美しい。ブルが銀行や宝石店に強盗を行う、リアリティを求められるシーンでも、細かいショットの積み重ねでうまく処理している。

 ブルが脱獄をしてからの、一気に畳み掛けるような演出が見事だ。脱獄をした後のブルが隠れ家へやって来て、静かに考え込みながら、自分の指にミルクをつけて猫に舐めさせてやる。警官隊に囲まれて銃撃戦で孤軍奮闘を見せ、最後はロイスとフェザースの関係を見て身を引く決意をする。この流れには、ブルが持っていた強さと優しさの魅力が詰まっている。

 魅力的なキャラクターが演じるメロドラマが、つまらないわけがない。かっこいい男たちと美しい女性が織りなす見事なメロドラマだ。ラストでは「この1ヶ月は、一生分よりも価値がある」という見事なセリフが決まる。だが一方で、「暗黒街」に最初のギャング映画としてバイオレンスな魅力を求めすぎてしまうと、失望を覚えるかもしれない。また、新聞記者出身で社会派の脚本家として知られるベン・ヘクトアカデミー賞を受賞した作品として、社会派作品を期待しても失望を覚えるかもしれない。ちなみに、ヘクトは作品を見て、自分の名前を外してもらうように会社に依頼したという。元々ヘクトが考えていたストーリーはもっと社会派だったのかもしれない。

 「暗黒街」は見事なギャング映画ではないかもしれない。だが、見事なメロドラマである。


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