映画評「百萬両秘聞」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]日本  [製作]マキノプロダクション(御室撮影所

[監督]牧野省三  [脚本]山上伊太郎  [原作]三上於菟吉  [撮影]松浦茂

[出演]嵐長三郎、市川小文治、尾上松緑、松浦築枝、鈴木澄子、都賀一司、森清

 春水主税は、世直しのために、隠された百萬両を探す。そのことを知った通り魔の半次や、主税に恋をしたお花などに邪魔される。半次は主税の許婚の藤尾を誘拐して主税をおびき寄せ、一方お花は男をたらし込んで百萬両のありかを突き止める。

 この当時の日本映画はほとんど現存していない。現存していても断片的だったりするものがほとんどだ。「百萬両秘聞」はストーリーが通る程度に現存している貴重な作品である。公開時は三部作であり、私がビデオで見たバージョンよりも長いようだが、致し方ない。

 マキノの「鞍馬天狗異聞」(1927)でスターとしてデビューした嵐長三郎(後の嵐寛寿郎)は、この作品では絶世の美男子として描かれている。歌舞伎調の化粧が濃すぎるように感じられるが、その点を差し引いても、確かに長三郎はハンサムだ。

 込み入ったストーリーは、宝探しアドベンチャーとしての魅力を持つ。一方で、半次やお花といった個性的な脇役たちが魅力的だ。特に悪役にもかかわらず、鈴木澄子が演じるお花の悪女ぶりは見事で、百萬両を見つけるためにたらし込んだ男が用済みとなり、殺してしまった後に浮かべる表情は圧巻だ。

 当時の日本映画は、弁士の説明がつくことが当たり前であり、映像的な表現は発達しなかったといわれる。この作品からもそういった面は感じられ、弁士がなければストーリーを理解できたかと聞かれると、あまり自信がない。それは、現存しているフィルムが足りないからかもしれないが、確認のしようがない。だが、当時の日本映画が弁士の語りと一体化されたものだったと考えると、映像的表現が不足している点は決してマイナスにはならないだろう。

 サイレント時代の日本映画と聞くと、難しく感じられるかもしれない。だが、「百萬両秘聞」はあくまでもエンタテイメントに徹している。この頃の日本映画が存在していないということは、日本映画史的にも、日本の文化史的にも悲しいことなのだが、エンタテイメント史的にも悲しい事実であるということを、強く感じる。


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