『マーシェンカ』 ジョン・ゴールドシュミット監督 原作:ウラジミール・ナボコフ (1987年)


マーシェンカ/MASCHENKA
1987年・イギリス/フランス/西ドイツ合作映画
監督:ジョン・ゴールドシュミット 原作:ウラジミール・ナボコフ 脚本:ジョン・モーティマー 撮影:ウォルフガング・トロイ 音楽:ニコラス・グロウナ 出演:ケイリー・エルウィズ、イリーナ・ブルック、ズニー・メレス、ジョナサン・コイ、ジャン=クロード・ブリアリ、マイケル・ゴフ、フレディ・ジョーン

ウラジーミル・ナボコフの小説『マーシェンカ』はロシア語で書かれ1926年にベルリンで出版。そして、1970年(44年後)に英訳され『メアリー』と題され出版された。ナボコフ自身の消え去ることのない初恋の思い出がこの小説の中の主人公であるガーニンとマーシェンカに投影されている。ナボコフが16歳の折の15歳の少女タマーラとの初恋。激動の時代を生き、当時はドイツのベルリンで生活していたナボコフが、44年前にロシア語で書いたものをそのまま英訳して世に送った...その大切な深い記憶の痕、少年ナボコフの思春期の儚き甘美な郷愁のようなものを想う。

彼がじっと前方に目を注いで見つめていたのは、へりが少しすり切れている黒い蝶結びのリボンをつけた褐色の編んだ髪、彼の目が愛撫していたのはこめかみのあたりの黒くなめらかな少女らしい髪の艶だ。彼女が顔を横に向けて隣にすわっている少女にすばやいほほえみのまなざしを送ると、彼の目にも彼女の頬の強い色彩や、タタール人のように野性的なきらりと光る目のはしりや、笑うたびに交互に広がったりせばまったりする鼻孔の優雅な曲線などが見える。 
(小説『マーシェンカ』より)

このマーシェンカを演じるのは優美なイリーナ・ブルック。国籍は英国ながら1963年のフランス生まれ。また東欧の血をひいている。英国の奇才監督(ロシア系ユダヤ人で亡命者の)ピーター・ブルックを父親に、女優のナターシャ・パリーを母親に持つお方。ガーニン役はこれまた『アナザー・カントリー』以来のお気に入りであるケアリー・エルウィズが演じている。1962年の英国生まれながら、両親はユーゴスラビア人なので彼もまた東欧の血をひいているお方。美しい映像と共に、印象強く脳裏に焼きつく陽光のまぶしさと綺麗なお衣装。衣装デザインは『マリア・ブラウンの結婚』など一連のライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品を担当したバルバラ・バウムなので納得!また、コリン役でフランスの名優ジャン=クロード・ブリアリが出演しているのも嬉しいかぎりなのです☆

「ロシアが異常に遠く、郷愁が一生のあいだ狂おしく付きまとい、心を引き裂く郷愁にかられて奇異な振る舞いをいつも人前でさらす身であるから、わたしはこの処女作に感傷的な痛みを感じるほどの愛着を持っていると臆せずに告白したい。」 《ウラジーミル・ナボコフ

小説『ロリータ』(1955年)発表後の世界的な名声を得てから後にこのように語っておられる。

※★『マーシェンカ』の美しい少女(イリーナ・ブルック:IRINA BROOK 原作:ウラジミール・ナボコフ)として書いたものに少し追記致しました。