「わたしの可愛い人――シェリ」(2009)を単館ロードショーの最終日に見て 山田宏一(映画評論家)さん

「わたしの可愛い人――シェリ(2009)を単館ロードショーの最終日に見て 
山田宏一(映画評論家)さん

公開劇場はこちら http://www.cetera.co.jp/cheri/


すばらしかった。「危険な関係」(1988)以来のスティーヴン・フリアーズ監督、ミシェル・ファイファー主演のフランス文芸もの――女流作家コレットの文名を高からしめた小説「シェリ」の映画化です。フランス映画ではなく、全篇が英語のせりふとナレーションによる作品なのに、不思議にフランス的な、そして文学的な香りのある、佐々木涼子氏のコレット評(「集英社 世界文学大事典」)の表現そのままに「豊かな官能と繊細な抒情性」にあふれた、見ごたえのある傑作になったと思います。シェリの役をもし20歳のジャン=クロード・ブリアリが演じていたら、どんなに素敵だったろう、などという無い物ねだりの夢想、妄言はさておき、年上のココット(高級娼婦)を演じるミシェル・ファイファーの恋やつれならぬ恋づかれした肉体のエロチシズムには圧倒されました。

「キック・アス」(2010)の最後の試写会で美少女ヒーローに拍手喝采 山田宏一(映画評論家)さん

キック・アス」(2010)の最後の試写会で美少女ヒーローに拍手喝采
山田宏一(映画評論家)さん
http://www.kick-ass.jp/ 2010/12/18公開


なんだ、またもやスーパーマンものか、スパイダーマンものか、バットマンものか、その手のパロディーのまたパロディーのようなものかと思って見ているうちに(とはいっても、それだけでもたのしいのですが!)、まるでかつてのフランス映画「シベールの日曜日」(セルジュ・ブールギニョン監督、1962)のパトリシア・ゴッジの再来とも思しきおしゃまな美少女、13歳のクロエ・グレース・モレッツ(パトリシア・ゴッジは当時12歳だった)が11歳のスーパーヒロインとも言うべき女賊ヒット・ガールに扮し、めがね状の覆面をして皮ジャンを着こみ、黒マントをひるがえし、手裏剣からガトリング砲まで、必殺の武器、銃剣類を装備して登場するや、悪漢どもと死闘をまじえて、爆発的な痛快アクションと化すのです。タランティーノなど形無し、ジョニー・トーもリュック・ベッソンも真っ青といったところ。少女が単身、悪の巣窟に斬り込むシーンなど、「レオン」(リュック・ベッソン監督、1994)のナタリー・ポートマンを想起させると同時に、その後の首が飛び、鮮血が迸る凄惨な殺し合いの展開を予告するかのように、マカロニ・ウエスタン、「荒野の用心棒」(セルジオ・レオーネ監督、1964)のテーマ音楽がユーモラスに引用されるのです。引用といえば、最後にはジョン・フォード監督の「捜索者」(1956)でジョン・ウェインナタリー・ウッドを抱き上げたときに言う、おそらくは映画史上最も単純で最も美しい名せりふ(「家へ帰ろう」)も準備されているのですが、それは見てのおたのしみということに。
たわいなくてバカバカしいコミック活劇と笑わば笑え。映画は活劇だ! 活劇バンザイ! よみがえれ、活劇!