橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

有楽町のガード下

有楽町のガード下には、「丸三横町」をはじめとして、ヤミ市時代を彷彿とさせる居酒屋がかなり残っている。そのうちの一軒に入ってみた。線路の端から端までを横切る細長い店で、けっこう内装はきれいになっている。メニューも豊富。刺身が各種あり、焼鳥・焼きとん、各種一品料理がそろう。生ビールを頼むと、「普通のモルツとプレミアムモルツがあります。値段は同じですが、プレミアムモルツはグラスが少し小さくなります」とのこと。いずれも四二〇円だから安い。説明するところも親切だ。ところが、いつまでたってもビールが来ない。五分くらいは経過しただろうか。催促すると店員は「今、やってると思います」と言い、しばらくしてようやく出てくる。後で頼んだ生レモンハイも時間がかかった。刺身を注文したが、これも遅い。一五分くらいかかったのではないか。しかも、店員は何人もいるのに、注文しようとするとちょっと待ってくれと他の人を呼びに行く。端末を持っていて、注文を受けることのできる店員とそうでない店員がいるのである。なんと非効率なことか。瓶ビールはすぐに持ってきたところをみると、料理人の数が少なく、しかも生ビールを注ぐのも酎ハイを作るのも料理人の仕事とされているのではないか。店は、サラリーマンでけっこうにぎわっている。私はもう行かないと思う。(2007.10.12)