日々常套句

2003年からホソボソと「退屈に関する思索」を亀の歩みで行う退屈研究ブログ(自称)です

時空間を超えて小さくなる世界

最近、ロングテイル論とスケールフリーネットワークに関心があるのですが、それは「ニッチ万歳」なマーケティング的な文脈ではなく、文明史的な文脈での関心なのです。

大航海時代とそれに引き続く産業革命+植民地政策>国民国家の誕生と二度の世界大戦>冷戦=米ソによる世界システムの二極化>ソ連システム崩壊とグローバリゼーション>そしてインターネットの普及

つまり、上記のような文明史的なマクロな展開の所産として、我々は距離を超え、それこそ建前上は、世界のあらゆる場所のあらゆる人と、いつでも簡単に「繋がる可能性」を有することとなった訳です。

しかし、斯様な大規模かつ複雑な世界を前に、実際の世界で生じていることは、その人智を超えた巨大さと抽象性故に不可解なこの「世界システム」への反動としての、エスノセントリズムや新興宗教の先鋭化のような「体温を身近に感じられるような小集団への回帰」であったり、テロリズムのグローバリゼーション或いは汎国家的なテロリスト集団との戦争という「既成の国民国家という枠組みでは到底対処不能」な現象であったりした訳です。

また、建前上は「世界中の人々といつでもどこでも繋がることが可能なインターネットの世界」で最近顕著な事象としては、ロングテイル論が示すように、ネットを媒介することで、「ニッチな関心事項をキー」に個々人がクラスター化し、小集団ながらマーケッターが関心を示すほどに強い結びつきを有するセグメントとして成立し始めていることがあげられるでしょう*1

で、斯様なグローバリゼーション/ネットワーク化を前に、何故に人々が小さな集団に収斂してゆくのかが、とても気になり出したのです。ということで、以下の本を読んでみることにしました。

新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く

新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く

この本で展開されている「スケールフリーネットワーク」とは、インターネットをはじめとする現実世界の様々なネットワークは、非常に多くのリンク数を持つ「ハブ」と呼ばれるノードがネットワークの要所として自己組織化的に発生・存在することで、分散する各「ノード」をクラスター化し、所謂「6次の隔たり」を可能にしている、というモデルである。

この本で印象的だった点は、「リンクにより繋がるWebページのネットワークを崩壊させるには、どれだけのノードを孤立化すればよいのか」という実験で、ランダムに選択した「ノード(Webページ)」を順次孤立化している限りにおいては、全体の80%の「ノード」を破壊しても、沢山の孤立した「ノード」が発生(崩壊)することはないが、上述の「ハブ」を順次除去すると、早い段階で「ノード」が孤立化しリンク・ネットワークが崩壊するという箇所でした。

つまり、本来的な可能性としては、平等かつ均等に他との関係性を構築できる筈の個々の「ノード」が、その可能性を捨て「ハブ」と呼ばれる一部の「ノード」に収斂し、依存して成立するという部分が気になったのです。まぁ、貴方がテロリストやマーケッターなら、この「ハブ」を攻略できれば、芋蔓式にその配下のノードも攻略できるので安泰でしょう。しかし、この本では述べられていませんでしたが「ハブ」の規模を、googleやYahooのようなポータルと考えるか、それともロングテイル論やそれを背景思想とする「EPIC2014*2」が着目する「ニッチなミニカリスマ」と考えるかで論旨は随分変わってきます。

個人的には、「EPIC2014」や最近の「google」の戦略、身近なところでは「はてな」での人々の繋がり具合や「SNS」なんかを眺めていると、現在は「ニッチな関心事をキーに人々を集積するミニカリスマ」が「ハブ」になりつつある、つまり世界はインターネットという時空間を超越したツールにより人々が夢想した「世界国家」の方向に進むのではなく、時空間を超えた「スモールサークル」になりつつあるのではないか、と考えているのです。このことが示す「文明的な意味は何か」というところまではまだ思い至りませんが、なんとなくの極論として、最早世代論とかでは括れないほどに細分化した社会において、救いようがない程に「ディスコミュニケーション」は深化してゆくのではないか、と感じる訳です*3

スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法

スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法

  • 作者: ダンカンワッツ,Duncan J. Watts,辻竜平,友知政樹
  • 出版社/メーカー: CCCメディアハウス
  • 発売日: 2004/10/01
  • メディア: 単行本
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ちなみに、バラバシ氏の本は、第9章(全15章)まで読めば肝要な部分は掴めるので、時間がない人はそこまで読んで、いったん消化活動に集中した方がよいでしょう。また、バラバシ氏の論考に先立つ上記の書籍を、こちらも第5章辺りまで読むと議論の流れが掴みやすくなるかと思います。

*1:参考 http://c-kom.homeip.net/review/blog/archives/2005/03/post_172.html

*2:参考 http://blog.digi-squad.com/archives/000726.html

*3:んが、長文の割りにまだまだ未消化で稚拙な文章だなぁ(セルフ虐)・・・