ごろにゃ~の手帳(備忘録)

備忘録的ブログ。経営やマネジメント、IT、資産運用、健康管理などについて書き留めてます。

サービスサイエンスとUI

http://www.designit.jp/archives/2008/09/navigation_suwa.html:サービスサイエンスとUI -ITをユーザーや企業の真の道具にするために-

顧客はサービスを買っている―顧客満足向上の鍵を握る事前期待のマネジメント

顧客はサービスを買っている―顧客満足向上の鍵を握る事前期待のマネジメント

UIを価値あるサービスにする事前期待への適合

図1

図1の定義では、システムやアプリケーション、UI は構造物に該当する。この定義によると、UI が価値あるサービスになるためには、ユーザーの事前期待に適合する必要がある。事前期待に適合しないと「余計なお世話」だったり、「迷惑行為」、「無意味行為」とみなされてしまう。




図2

その事前期待は、図2のように「事前期待の内容」と「事前期待の持ち方」、そして「ユーザーの特性」に分解できる。サービスメニューとその品質がユーザーの期待を裏切ると顧客満足度が低いものになるのは当然だ。



図3
次の要素は「事前期待の持ち方」だ。図3にある「静的共通的な事前期待」とは「ホテルの寝具は清潔であって欲しい」という、誰にも共通する事前期待だ。「UIは分りやすくあってほしい」という事前期待は共通的なものであろう。

次の「静的個別的な事前期待」とは、「私は厚手の枕でないと寝にくい」のように個々人で異なる事前期待だ。ホテルの例では、顧客データベースに「そば殻の厚手の枕」や「薄手の羽枕」と登録しておけば、対応は可能だ。

UIの例で考えると、個人の好みに合わせてUIをカスタマイズできるアプリケーションが増えてきている。これは、ユーザーの個別的な事前期待に応えるために考えられた工夫だ。

把握することが難しい「動的な事前期待」は、その日の、その時の、その状況の中での事前期待であり、サービス提供者が共感性を発揮して、観察し会話の中から感じ取らなければならない。いつもは赤ワインを飲むのが慣例になっている馴染みのレストランで、入店してきた筆者の暑そうな様子を見て「諏訪さん、今日は生ビールからいきましょうか」と勧めてくれ、それがドンピシャだと感動する。

UI の例だと「漢字変換の頻度により漢字を選択するUI」は動的な事前期待に応えてくれていると思う。ただし、あまりにあたり前のサービスになりすぎており、それほど感動はしない。その日の、その時の使い方によりUIが便利に設定されていく方式はいろいろと応用ができそうだ。

4番目は潜在的な事前期待だ。これを理解してもらうのは難しいので、筆者の経験を披露する。

筆者は一時期「高杉良」の小説にはまり込んでいた。下手な経営書を読むよりずっと素晴しい生きた知識を与えてもらった。ある日、銀座四丁目辺りの本屋さんで「高杉良」の新刊を探していた。まだ読んでないハードカバーを2 冊見つけて意気揚々とレジに持って行くと、真っ白な割烹前掛け姿の和服の婦人が立っておられた。直感でこの本屋さんの奥さんだと思った。2 冊の本を渡したところ、「お客様、こちらの方は文庫本が出ていますが、いかがされますか」といわれ、びっくりして感動したことがある。これは、サラリーマン小説は一度読めば二度と読まないので、文庫本があれば文庫本を選びたいという筆者の潜在的な事前期待に応えてくれたので感動したと理解するのが、科学的な見方だと思う。

最後に、事前期待と呼びたくないのだが、「間違った事前期待」もある。「こんなサービスは、ただで当然」という間違った事前期待に悩まされている方は多いのではないだろうか。この「間違った事前期待」には応えるのではなく、顧客を啓蒙する努力が必要だ。「無理難題に近いUI への要求」には「間違った事前期待」に相当するものがありそうだ。

これらの「事前期待の持ち方」への対応は、「事前期待の内容」以上に顧客満足度に大きなインパクトを持っている。顧客のサービスに対する評価は「サービスによる成果の評価」と「サービスプロセスの評価」から成り立っており、どちらかというと後者の方がインパクトは大きい。つまり、「感動を呼ぶサービス」を実現したいなら、「事前期待の持ち方」への優れた対応は欠かせない。



図4

図5
事前期待の3 つめの要素が「ユーザーの特性」だ。これは、さらに「ユーザーの属性」と「ユーザーのサービスへの関わり方」に分解される(図4・5参照)。UIでは「ユーザーが初心者なのか熟練者なのか」は考慮すべき重要な要素だ。また「時々利用するライトユーザーなのか頻繁に利用するヘビーユーザーなのか」も考慮すべき要素であろう。

「ユーザーのサービスへの関わり方」は、例えば有料でサービスを依頼する場合と、無料でサービスを依頼する場合などだ。有料と無料でユーザーの事前期待は異なり、一般的には有料の方が評価は厳しくなる。


サービスをモデル化して議論を深める


図6

サービスは目に見えないため、どうしても議論が抽象的になり、建設的な議論が難しいという特徴がある。これをカバーするひとつの方法として、サービスのモデル化がある。図6のサービス事業の成功モデルもサービスのモデル化の一つだ。

このモデルが表しているのは、サービスの中心は顧客であり、その他の要素として、サービス提供者やサービス提供システム、サービス戦略がある。UI はサービス提供システムの重要な構成要素だ。サービス提供システムは顧客にとってフレンドリーでなければならないが、この役割の大半をUI が担うことになる。マニュアルを読まなくても次のオペレーションが推測できるシステムの使い勝手は、気持ちが良いものである。

ここでUI をひとつのサービスと見なすと、顧客はユーザーであり、サービス提供者はUIの設計者。そして、サービス提供システムはアプリケーションやOSということになる。ここで重要なのがUIのサービス戦略だ。UIの提供者が顧客を中心にして、どんなコンセプトやビジョンに基づいて、このUIを構築していくのかを明快なドキュメントにしなければならない。

この戦略ドキュメントはUI の事業シナリオと呼ぶ方が良いのかもしれない。このシナリオには、コンセプトやビジョンの他に、顧客の定義、競合するUIとの差異、到達したいゴールのイメージなども記載すべきだと考える。

筆者は1年ほど前に、あるコールセンターの改革をお手伝いしたことがある。当時、このコールセンターは、電話のアクセプト率が15%まで悪化しており、存在価値を疑われる状況になっていた。これまでタブーになっていた経営や、マネジメントの問題も議論の対象にして、問題を分析し207 個の問題点を抽出した。これらを解決して価値あるサービスを提供するために、コールセンター運営シナリオを作成した。目標を明確にして、効率的な運営体制を構築し、コールセンターメンバーのコミュニケーションを円滑化することになった。すぐにシナリオを実践し、予想通りにいかないところは、議論して運営シナリオを改訂していった。その結果、メンバーの増員なしに4ヶ月間で電話のアクセプト率は85%まで改善された。


はっきりした目標を持たず、自分たちの仕事の意義を忘れて、朝9 時から夕方18 時まで、ひたすら電話を取っていたメンバーがコールセンター運営シナリオを書くことで、短期間で大きな改革を成し遂げたのだ。その後も、この運営シナリオは改訂され続けており、素晴しいコールセンターが運営されている。

多くの企業でUI の事業シナリオが作成され、これが関係者に公開されれば、貴重な情報共有となり、UIの発展に大いに寄与するだろう。



図7

図7のように、サービス品質には成果品質とプロセス品質がある。両者の大きな違いは、プロセス品質は顧客満足に大きな影響を与えるということだ。どんなに美味しい料理を出しても、ウェイターの態度が無礼だとサービスは最低の評価になってしまう。

また、サービス品質は正確性や迅速性、柔軟性、共感性、安心感、好印象の6つでマネジメントしていくのが分かりやすい。

まずは正確性だ。どんなサービスも正確でなければユーザーの支持は得られない。次に迅速性が挙げられる。世の中のビジネススピードはどんどん速くなっており、それにつれて迅速なサービスが期待されている。迅速性は時間という分りやすい物差しで計れるため、評価に大きく関与することになる。

3点目には柔軟性が挙げられる。顧客の要求は千差万別であり、それぞれの要求に応えるためには柔軟性が欠かせない。続いて共感性。顧客が何を望んでいるかを把握するためには欠かせない。そして安心感も大切だ。このコールセンターに連絡すれば、何とかしてくれるという安心感、これが大切だ。最後は好印象。人は皆サービススタッフの温かみのある好印象に救われる。

ハイレベルなUIを目指すならば、共感性を研ぎ澄まし、ユーザーの事前期待をしっかりと把握すべきであり、柔軟性に富んだUIを設計すべきだ。

サービスサイエンスをUIに活用すべし
これまで日本では、製造業が産業を牽引してきたが、現状では日本の国民総生産の70%をサービス産業が占めている。製造業ではJIT(Just In Time)やMRP(資材所要量計画)など、多くの科学的・論理的な取り組みが大きな効果を上げてきた。だが、サービス業は相変わらず伝承と直感、気合で運用されており、このままではサービス産業の発展はない。

また、日本のIT産業の業務量は伸びているが、一方で中国やインドとの競争により、単価が下がり続けており、業界の総売上、総利益ともに低下傾向にある。さらに、中長期で憂慮すべきは大学の情報処理学科の人気の低下だ。情報処理はブルーカラーであり、3K職場だというイメージを早急に払拭しなければならない。このために筆者は、サービスサイエンスとITの融合が重要だと考えている。

まだ、緒に就いたばかりではあるが、サービスを科学的に取り扱えば、サービスの効率を大幅に向上させ、サービス品質も無理なく改善することができることが見え始めている。これまでIT 産業は、コストダウンと品質向上ばかりに力を注いできており、「サービス価値の向上」には取り組んでこなかった。これは創造力を必要とする難しいテーマだが、筆者はサービスサイエンスの大切なテーマとして、「サービス価値の向上」にも取り組んでいきたいと思っている。

UI は、これまで技術者の個人的な直感や感性に頼っており、ある意味ではバランスの悪い仕様になりがちだった。本稿で紹介したサービスの定義や事前期待の分解、サービス品質の分解は、UIの設計にも大いに参考になると思われる。

ぜひともUI設計にサービスサイエンスの論理を持ち込みながら、納得性の高い努力を続けていくべきだと考える。