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2010-12-28

[山小説]「単独行者(アラインゲンガー) 新・加藤文太郎伝」(山と溪谷社/谷甲州)

単独行者(アラインゲンガー)新・加藤文太郎伝
単独行者(アラインゲンガー)新・加藤文太郎伝谷 甲州

山と渓谷社 2010-09-16
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加藤文太郎と言えば、新田次郎の『孤高の人』を思い浮かべる人がほとんどだろう。

遺稿集の『単独行』もあるが、なにしろ記録集のようなものなので、読むためにはそれなりの知識と能力を必要とされる。一部、エッセイ風の部分は読みやすく、「単独行者よ強くなれ!」というフレーズは有名である。


孤高の人』は確かにおもしろい。山岳小説の人気投票をすれば、常に上位をキープする不朽の名作だ。

ただ、そこはあくまでも小説。話を盛り上げるために多くの脚色がなされている。文太郎以外のほとんどの登場人物は別名となっており、学校の同級生、会社の同僚など、実在しないと思われる人物も多く登場する。

その際たる者が、宮村健だ。

生涯の単独行を誓った文太郎が、唯一、ザイルを組んだ人物であり、彼を死にいざなう役割を負わされた。


史実では、文太郎と最後の北鎌行をともにしたのは、吉田登美久(富久)である。そして、文太郎と吉田はそれ以前に前穂北尾根の登攀でザイルを組んでおり、お互いに実力を認め合った仲であった。

それは、『単独行』や、関西徒歩会の会報『ペデスツリヤン』に掲載された吉田自身の原稿からも読み取れる。


さて、『単独行者(アラインゲンガー)』である。

結論から言えば、『単独行者』は、可能な限り史実に忠実に加藤文太郎を描きつつ、不足している部分は著者の想像で補ったフィクションとして描かれた。


個人的な話をすると、十数年前、私が山を始めたばかりのころ『白き嶺の男』を手に取った。加藤文太郎をモデルにしつつも、ヒマラヤにまで行ってしまうという、こちらは完全にフィクションの物語。

連作短編集であったが、非常におもしろかった。

そのあとがきに

「いつかは、「加藤文太郎の物語」をかきたいと考えている」

という一文があった。

それをひたすらに待ち続けていた。

ナンダ・コット遠征を描いた『遠き雪嶺』が出たから、そろそろか。

山岳伝奇と銘打った『霊峰の門』が始まったが、文太郎はまだか。

音沙汰がないまま何年も過ぎたころ、『山と溪谷』でついに連載が始まった。

しかし中途半端なところで連載は終了し、大幅に書き下ろしを加えてようやく単行本化されたのが、この『単独行者(アラインゲンガー) 新・加藤文太郎伝』である。


孤高の人』が下界の人間関係中心だったのと比較すると、『単独行者』は潔いほどそこを削っている。一大イベントであるはずの結婚出産もあっさりと書き流す。

その代わりに膨大な量の山岳描写、心理描写がなされている。

著者自身が、昭和初期のあの時代、あの山にいたかのような細密な描写には舌を巻く。

話によると、天気図や地形図、電車の路線図、別パーティの報告書など、当時の資料を集められるだけ集めて、それを積み重ねることであれだけの重厚な描写ができあがったとのこと。

序章は、遭難した文太郎を救助に向かうシーンで始まるのだが、登場人物が靴を履いて宿から外に出るだけで何ページも費やされる。靴が履けない、扉が開かない、吹雪で前が見えない、ひたすらそんな描写が続くのだ。

心理描写も同じく。有名な「一月の思い出」というエピソードがある。1月の剱岳で東大パーティと偶然一緒になった文太郎が、同行を願うがすげなく断わられてしまう、という話。

声をかけたい、でもかけられない。ひとりで行きたい、でもひとりじゃ不安だ。その繰り返しをひたすらひたすら重ねて描いていく。

そんな文太郎の姿はもどかしくもあるが、彼の気持ちには大いに共感できる。

2段組、500ページを越えるこの大作は、こういった緻密で細を穿つ山岳描写と心理描写に満ちている。


圧巻なのは、ラストの北鎌尾根の描写。

これぞ著者の真骨頂。吹雪の北アルプスでの滑落から彷徨、そして終焉へ。

リンゴやチョコレートを囓るというひとつひとつの行為が胸に沁みる。


孤高の人』は小説として確かによくできている。単独行でなかったときが文太郎の最期だった、という筋書きは(物語として)充分に納得できるものだ。

そんな『孤高の人』というあまりにも偉大な先人のトレースに、あえて踏み込んでいく著者は、ほんとうに加藤文太郎のことが好きだったのだろうと思う。


『単独行者』は、加藤文太郎の歴史に新たな1ページを切り拓いた。


『新編 単独行』がヤマケイ文庫として文庫化され、『孤高の人』漫画版がメディア芸術祭優秀賞を受賞し、加藤文太郎を描いた二人芝居『山の声』が上演された2010年に『単独行者』が刊行されたのは、何かを示唆しているのかもしれない。


生まれながらの単独行者・加藤文太郎は、永遠の単独行者として、現代にも生き続けている。


→『単独行者 新・加藤文太郎伝』特設ページ

(序章全文がPDFで読めます)

http://www.yamakei.co.jp/special/densetsu/allein.html


新編 単独行 (ヤマケイ文庫)
加藤文太郎
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孤高の人 13 (ヤングジャンプコミックス)
坂本 眞一 新田 次郎
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2010-09-25

[]「単独行者(アラインゲンガー) 新・加藤文太郎伝」(山と溪谷社/谷甲州)

彼はなぜ、単独行(ひとり)を選んだのか――。

昭和初期、案内人(ガイド)を連れて行なう登山が一般的だった当時、加藤文太

郎は、ひとりで冬の北アルプスを駆け巡り、数々の画期的な記録を残した。

彼が遭難したときには、新聞で「国宝的山の猛者、槍で遭難」と伝えたほどで

あった。

しかし彼は、決して特別な存在ではなく、超人的な力を持っていたわけではな

かった。

ごく普通の人間的な弱さをもった加藤が、あえて単独を選び、苛烈な冬山に挑ん

だ理由とは――。

史実をもとにした真実の加藤文太郎像を、山岳小説の名手・谷甲州が、渾身の力

で描ききる大作。

『山と溪谷』連載に大幅な書き下ろしを加えて、ついに単行本化!

装丁:高柳雅人。

単独行者(アラインゲンガー)新・加藤文太郎伝
単独行者(アラインゲンガー)新・加藤文太郎伝谷 甲州

山と渓谷社 2010-09-16
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2008-12-12

[]「K」(双葉社/谷口ジロー・遠崎史朗)

見逃していましたが、『別冊 乱 昭和』という漫画誌に『K』が再録されています。

隔月刊で、現在Vol.2まで出ています。

「山岳救助物語」と銘打っているあたり、『岳』を意識しているのかもしれません。

内容比較はしていませんが、単行本の作品と変わっていないと思います。

興味がある方はどうぞ。

http://www.leed.com/act/Detail.do?id=13828-11


K(ケイ)

2008-12-11

[]「しずかの山――神の山・マチャプチャレ――」(イブニング/原作:愛英史・漫画:松本剛)

12月9日発売の『イブニング』で連載開始。

http://kc.kodansha.co.jp/content/top.php/KA00000238


 現代ヒマラヤに残った名峰としてはほぼ唯一の未踏峰、マチャプチャレ。ネパール政府からは入山禁止されているこの山を、無許可で登頂した男――ジアン。初登頂の名誉に酔いしれるジアンだったが、その裏に同じくマチャプチャレ登頂を目指しつつも行方知れずになっているモーリスという男がいた。ジアンはモーリスのことは知らないというが、モーリスが残した手帳には、ジアンが登頂した計画とほぼ同じ日程で登るというメモが書かれていた。果たしてモーリスの行方は。

 そこに登場するのがナムチェに住む日本人、タカトウ・シズカ。モーリスの両親の依頼を受け、ジアンとタカトウはマチャプチャレの頂を目指す――。


 物語はこれからなのでまだなんとも言えませんが、導入はおもしろいです。山岳サスペンスになるんでしょうね。すぐにでも、マチャプチャレに登りそうな雰囲気で、この先は登攀シーンと心理戦で引っ張るのでしょうか。

 登頂したら(モーリスの痕跡が見つかったら)終わりだとすると、長くは続けられないような感じもしますが、タカトウにもなにか過去がありそうですし、長期連載を期待します。

 マチャプチャレは確かに目立つし、美しい山なので、そこに目をつけたのはなかなかいいのではないでしょうか。

 新たな山漫画の登場。これからの展開が楽しみです。

2008-12-08

[]「未踏峰」(祥伝社/笹本稜平)

「還るべき場所」で全て出し切った、と思われた笹本稜平ですが、さらなる山岳小説を繰り出してくる模様。

ダ・ヴィンチ」1月号によると、2009年秋頃刊行予定とのこと。

現在(2008年12月号〜)、「小説NON」で連載されているものですね。

これは期待せずにはいられません!

ここで逃げたら、おれたちは死ぬまで人生から逃げ続けることになるーーわけありの過去を背負ったロスジェネ世代の三人は、導かれるようにヒマラヤの未踏峰に挑む。彼らの前に聳えるのは無垢の美峰ビンティ・チュリ(祈りの峰)。彼らは絶望的な登攀を通して、何を得るのか。


還るべき場所