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2013-05-10 まだつづく。

[]少女怪盗ストレイキャット『千種センセの怪盗指南』#5

 おかしいな。ちょっとだけ書いて設定披露、くらいのつもりだったのに。気がついたらもう100枚ゆうに超えてる。

 おかしいな。まだ終わらない。二月くらいに書き始めたはずなのに。ナンデ?(;>Д<)

 ということでもうちょっとだけ続くんじゃ。ヨソの方にはすまないことをする! とある島国のド真ん中で繰り広げられる、ねこみみ怪盗ストーリー!


 場所は再び、十草とくさ公園の土管遊具。

 遊具の中の七匹のネコは、しばらくじーっと千種を見つめていました。

「まあほーじゃにゃーか思っとったわ。いっくら何でもよぉ、ひったくりだけ多すぎるんだわ。向こうさんもたーけたことしやぁたなぁ」

 にゃっはっは。得意げに笑う千種。

「ならよぉおやびん、そいつをブッ潰せば!」

 びしっとキセルでシロを差し、千種は言います。

「その通り! これでひったくりは壊滅、ってわけだわ」

 おおお〜。六匹のネコが、感嘆の声を上げます。

 ……六匹?

「確かに……敵の正体はわかりました。が」

 と、残る一匹、インテリジェンスに満ちた濃い灰色のネコ、マーシャが言います。

「その敵はどこにいるのですか?」

「そりゃおみゃー、敵の偉ゃーさんが言っとる場所に」

「敵だってバカじゃないでしょう。幹部が捕まり、情報が漏れたことはわかったはず。場所が割れたとわかってそこに居座り続けるでしょうか。その情報はもう無意味と考えて良いでしょう」

「うっ」

 と、千種は渋い顔。

 さらにマーシャは続けます。

「それに、ひったくりが壊滅、とはいかないでしょう。後ろ盾はなくなるかも知れませんが、それだけですでに暴れているひったくりども全てが、その活動をやめるでしょうか。これだけひったくりが溢れれば、後ろ盾が無くとも活動する輩も相当数のはず」

「うっうっ」

 確かにその通り。確かに敵の正体はわかったのですが、情報はそこまで。しかもそれを潰したところで、彼らがひったくり連中に与えた「技術」は無くなりません。その気になればその技術のみでひったくりを続けていく連中が出てもなにもおかしくはないのです。現にその「技術」さえあれば、「ストレイキャットさえいなければ」十分ひったくりとしてやっていけるのですから。

「確かに……困った……どうしよみゃーか……」

 うーーーーーーーーーん。考える人のポーズで考える千種とネコたち。

 ……しかし、妙案は思いつきません。

 と。

「頭領、ちぃとよろしいか?」

 貫禄ある茶色ブチのネコ、あがり爺さんが、のそっと千種の目の前に。

「んむ、くるしゅーない」

「おありがとうござりますわ。では」

 一呼吸置いて、あがり爺は語り始めました。

「むかしいくさでのう、こんな状況がござりましたわ」

 全員の目が、あがり爺に注がれます。

「ウチらぁの部隊がよ、逃げてく敵を追い詰めて、敵を完全に包囲しましてなも。でも、肝心の敵の陣地がどこにあるか全くわかれせんだわからなかった。この近うにあるのはわかっとったが、敵も必死なもんでうかつに探しにも行けせんでしたわ。

 さあどうしよみゃーか。そんときになも、ワシらぁの部隊長殿は、わざと目立つように手榴弾を投げやぁした。それはもうどんどんどんどん」

 そこであがり爺は聴衆を見回します。すこしして、また話し始めました。

「そしたらなも、敵は相当参っとったもんで、反撃せずに守りを固める方に動いたんだわ」

 そこで一拍おき、あがり爺は言いました。

「自分たらぁの陣地をな」

「……! 爺さま、それは」

 気づいたのはマーシャ。

「そう、それで敵の陣地がわかったもんだで、総攻撃。ワシらぁの大勝利でござったわ」

 ニヤリ。千種の口に、笑みが浮かびました。

「つまりだ」

 千種は続けます。

「その手榴弾みてゃーなもんを放り込んだりゃええってわけだ」

 あがり爺は、我が意を得たりとばかりにうなずきました。

「流石頭領。ご理解が早ようござるわ」

 さらにあがり爺は続けます。

「でも、今ではちぃと確実じゃにゃあ。今の戦況は、こちらが圧倒的有利とは言えせんもんでなも。数で潰されたらひとたまりもあれせん」

「ん〜」

「ワシらぁが優位に立つためには、もう一押しせんならん」

「もう一押し……」

 うーーーーーーーーーん。考える人のポーズで考える千種とネコたち。

 ……しかし、妙案は思いつきません。

 と。

「やっぱ、ひったくりをどうかしないとダメなんじゃねーの?」

 濃いめの茶色の、キケンな雰囲気のネコ、カフィがつぶやきます。

「ヤツら、どうせひったくり共からアガリをもらってるんじゃねぇの? それがなくなりゃ、ヤツらだって」

 なるほど。うなずく一人+六匹。

「で、どうやってそのひったくりをどうかする?」

「そりゃもうアネキが」

「御館様一人ではどうにもならんのはわかっているだろう」

「ん……そ、そういうの考えるのはオメェの仕事だろ?」

「口を動かすヒマがあったら考えろ」

「うぐぐ……あーもう、おめぇらみんなさっさと考えろ!」

 うーーーーーーーーーん。考える人のポーズで考える千種とネコたち。

 ……しかし、妙案は思いつきません。

 と。

「あ、あのう……」

 白ネコのシロくんの陰からの細い声。それはシロより一回り小さな黒いネコ、ノワールちゃん。

 その声に気づいたシロくん。大きな声ではっきりと言います。

「ん? どうしたノワール?」

 その声で、他のネコたちと千種が、一斉にノワールちゃんの方を向きます。

「あ、あ、あの……」

 その視線に気圧されたのか、ノワールちゃんは急に黙り込んでしまいます。

 そんなノワールちゃんの背中を、シロがポン、と叩きました。そして言いました。

「ノワールが話があるってよ! みんなちゃんと聞くんだぞ!」

 直後。この場の全員が微動だにせず聞く姿勢に。

「ほら、言ってみ」

 不安げに顔を見つめるノワールに、シロはにっ、とほほえんで言いました。ノワールはうなずいて千種の方を向き、おそるおそる話し出します。

「あ、あの……おねえちゃんが、一人しかいないから……大変なんだよね……」

 千種はうなずきました。

「それじゃ……あの………………おねえちゃんが、いっぱいいたら……いいんじゃないかなって……」

 ネコたちは、目を瞬かせました。そしてお互い、気まずそうに顔を見合わせます。あまりに突飛な、そして単純な、子供っぽいアイデア。

「そ、それゎたしかにそぉだけどぉ……」

「流石に、千種さんみたいな方、何人もいるわけが……」

「そ、そう……だよね……」

 今にも消え入りそうな声。ノワールはシロの陰に隠れてしまいます……

 が!

「それだわ!」

 千種の声が、この微妙な雰囲気を吹き飛ばしました。彼女はノワールの顔をのぞき込みます。きょとん、と目を丸くするノワールに、千種はうれしそうに言います。

「いやあ〜、ええこと言ってくれやぁたわ! ワシが一人しかおらんもんでいかんちゅーなら増やしゃええんだわ!」

 千種はノワールを抱き上げ、わしゃわしゃと頭をなで回します。なにをそんなに喜んでるのか? 他の六匹は困惑のまっただ中。

 すると千種、戸惑う六匹に目をやりました。

「おみゃーら、ちぃと協力したってちょうせ。特に女の子」

 六匹の中の女の子、カフィ、ゆずこたん、さくらが、返事をしたあとににゅ? と首をかしげました。もう一匹の女の子、千種の腕の中のノワールちゃんも。

「あがり爺はむつかしいなぁ……シロとマーシャはいけるんじゃにゃーか……」

 ブツブツと独り言を言う千種。それに、シロとマーシャは得も言われぬ寒気を感じるのでした。


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 そして、次の日の夜。

「ヒャッハァ!」

「キャアーッ!」

 今晩も、風屋市内ではひったくりが暴れ回っていました。警察も奮闘してはいますが、捕まえられるのはひったくりの流行に便乗した連中ばかり。「ハイウェイマンアカデミー」に鍛えられたひったくりは、巧みに警察の追跡を逃れていました。そしてここにも、そんなひったくりが駆るスクーターが。

「おい、これでいくら稼いだんだっけ?」

「忘れた! とにかくたくさんだ! あー、もうあんなふざけた生活やってらんねぇな!」

「そうだなぁ! シューカツだのザンギョーだのやってられっかぁ!」

「ヒャーッハッハッハ!」

 などとどうしようもないことをしゃべりながら走るスクーター上の二人。と、その前に立ちはだかる黒い影!

「うおあ!」

 あわててブレーキをかけるひったくり。「ターゲット以外は傷つけるな。そこから足がつく」という教えです。

「気ぃつけろ!」

 一声吠えた後体勢を立て直し、その場を走り去ろうとしますが……ヘッドライトが照らしたその姿を見た瞬間。

「あ……ああ……」

 彼らは凍り付きます。

 その姿は、彼らがもっとも恐れるもの。クローム鋲のついた黒いレザーのジャケットとショートパンツの少女。クロームバックルのついた軍帽からは、黒いストレートヘア。そして……黒いネコの耳と尻尾!

 そう、かの大怪盗ストレイキャット!

「よーぅひったくりのみなさん。さぁて、どぅしよみゃぁか?」

 恐怖に引きつるひったくりの顔! 彼女のウワサはもはや市内で知らない者は無し。当然、彼らも!

「に、逃げるぞ!」

 ひったくりはパニックに! その場でスクーターをターンさせ、アクセル全開で元来た道を走っていきます。

 それをストレイキャットは追いかけ……ません。ただニヤニヤ笑みを浮かべるのみ。

 どうしたことか? 彼女はひったくりを撲滅すると宣言したはずでは?


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 一方。場所はここからずっと離れたところ。

「ヒィーッ!」

 ひったくり女の金切り声が、夜空を切り裂きました。

「ストレイキャット、参上です。今宵、貴方の運命は破滅と決まりましたわ」

 目の前に立つその姿は、彼女らがもっとも恐れるもの。クローム鋲のついた黒いレザーのジャケットとショートパンツの少女。クロームバックルのついた軍帽からは、黒いストレートヘア。そして……黒いネコの耳と尻尾!

 そう、かの大怪盗ストレイキャット!

「ひ、ひ、ひ、ひあぁーっ!」

 正気を失ったような声を上げ、破れかぶれに「ストレイキャット」へスクーターを走らせる女。それをストレイキャットはひらりとかわします。そのまま、女は後ろを振り返ることなく走り去っていきます。

「ストレイキャット」は、それを追うこともせず、優雅に微笑みました。


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 一方。場所はここからずっと離れたところ。

「な、ななな……」

 ガシャン! 初老の男は、目の前の恐怖に取り乱し、乗っているバイクごと地面に倒れ込みました。

「ストレイキャット参上。テメェのようなクソッタレ、アタシがシメてやる」

 目の前に立つその姿は、彼らがもっとも恐れるもの。クローム鋲のついた黒いレザーのジャケットとショートパンツの少女。クロームバックルのついた軍帽からは、黒いストレートヘア。そして……黒いネコの耳と尻尾!

 そう、かの大怪盗ストレイキャット!

「ああぁああ!」

 ゴキゴキと腕を鳴らしながら近づく「ストレイキャット」。と、初老の男は悲鳴を上げ、バイクを捨てて一目散に逃げていきます。

「……チッ、情けねぇなぁ」

 現場に残されたバイクを「ストレイキャット」は、おもいっきり蹴りつけました。


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 一方。場所はここからずっと離れたところ。

「……」

 その少年は、ブレーキを握ったまま恐怖に固まってしまいました。

「……ストレイキャット、さ、参上だぜ! お、おみゃー、ぜ、ぜったいにゆるさんぞ!」

 目の前に立つその姿は、彼らがもっとも恐れるもの。クローム鋲のついた黒いレザーのジャケットとショートパンツの小さな姿。クロームバックルのついた軍帽からは、黒いストレートヘア。そして……黒いネコの耳と尻尾!

 そう、かの大怪盗ストレイキャット……!

「す、すすすすいません! もうこんなことしません! 見逃してください!」

 少年たちはスクーターから飛び降り、勢いよく土下座。涙声で目の前の「ストレイキャット」に許しを請います。

「う……」

「ストレイキャット」は困惑。少しためらったあと、「彼女」は不自然に吐き捨てました。

「は、はやくどっか行け! ワシはー……ココロがー広いからぁ、みのがしてやるぎゃあ」

 少年たちは意外な、そして不自然な言葉に顔を見合わせた後、

「あ、ありがとうございます!」

「俺たち、もうこんなこと絶対しません!」

 ヘルメットをアスファルトの地面にガンガン叩きつけつつ少年たちが言うと、そのままスクーターに乗って去っていきました。

「……くっそ! ……なんでこんな……」

 街灯に照らされるその「ストレイキャット」は、真っ赤な顔で歯をギリギリ鳴らしていました。


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 一方。場所はここからずっと離れたところ。

「て、てめぇ……!」

 大型のチョッパーに乗った屈強な男は、顔を引きつらせて目の前の人影をにらみます。

「す、ストレイキャット……さ、さ参上……」

 目の前に立つその姿は、彼らがもっとも恐れるもの。クローム鋲のついた黒いレザーのジャケットとショートパンツの少女。クロームバックルのついた軍帽からは、黒いストレートヘア。そして……黒いネコの耳と尻尾!

 そう、かの大怪盗ストレイキャット!

 ……なのですが、どうも様子が変です。

「お前が……あのストレイキャットだと!?」

「ひゃっ!」

 どうしたことでしょう。男の声に、「ストレイキャット」はひるみ、顔を伏せてしまいます。これがあの、風屋中を暴れ回り、ひったくり共に恐れられた「あの」大怪盗なのでしょうか?

 その態度は、男に余裕を与えました。

「へぇ……てめぇ、今までは相手に恵まれたな」

 男はバイクから降り、「ストレイキャット」に近づきます。震えながら後ずさる「ストレイキャット」。その顔には……明確な恐怖が。

「や、やめ……」

「俺が恐いか? 恐いか!」

「ふわあ!」

 男の怒号に腰を抜かし、地面にしゃがみ込んでしまう「ストレイキャット」。なんということか!

「はっはっはっは! これがあのストレイキャットかよ! どいつもこいつも情けねぇ! こんなガキに!」

 男は「ストレイキャット」の腕をつかみ、引っ張り上げます。

「こんなヒョロッちいガキにオドオドしやがってよ」

「ひ……ひう……」

 男ににらみつけられた「ストレイキャット」。目に涙を溜めおびえきった彼女。それはまるで、捨てられた子ネコのよう。なんということ! これが、あのストレイキャット! 圧倒的な力を持つ風屋の大怪盗と言われた、あのストレイキャットが!

 しかし……彼女は恐怖をかみ殺し、その目で、男をぐっとにらみつけました。

 その瞬間、男は逆上!

「何だぁその目はぁ!!」

 男が腕を振り上げる! 目をそらす「ストレイキャット」! しかし!

「ぐっ……」

 なにが起こったのか!? その腕は、急にピクリとも動かなくなってしまったのです!

「よーやった! 後はワシに任せやぁせ!」

 不意に男の後ろから聞こえた声。そちらを向く二人!

「な……なに!?」

「おねぇちゃん!」

 漏れたのは驚きと、喜びの声。

 目の前に立つその姿は、クローム鋲のついた黒いレザーのジャケットとショートパンツの少女。クロームバックルのついた軍帽からは、黒いストレートヘア。そして……黒いネコの耳と尻尾!

 そう、かの大怪盗ストレイキャット! の、二人目!?

「ふ、二人だと!?」

 男は困惑を隠せません。あのストレイキャットが、二人!?

「ぶっぶー」

 今現れたストレイキャットが、ヘンな顔で言うと、つかんだ男の腕をおもいっきり引っ張ります。

「うおぉっ!」

 何たる力! 男はまるで人形のように後ろへ放り出されます。もう一方の手につかまれた、おびえた顔の「ストレイキャット」を器用にキャッチするストレイキャット。

「お、おねぇちゃあん……」

 ストレイキャットにしがみつき、必死に涙をこらえる「ストレイキャット」。

「こぉのガキャアアア!」

 そこに男が立ち上がり、恐ろしい咆哮を上げながら突進! と、ストレイキャットは、ニヤリと微笑みました。

 獲物を見つけた、ケモノのように。

「はぁッ!」

 一閃! 目にも止まらぬ槍のような蹴りが、男の腹に突き刺さる!

「ガ……」

 ストレイキャットがその足を引くと、男は白目をむいて、ゆっくりと前に倒れます。足を曲げたまま、彼女は男の様子をうかがいます。泡を吹いて倒れた男、起き上がる気配がないと悟ると、彼女は息を吐き、足を下ろしました。

「大丈夫《でゃーじょうぶ》か?」

 ストレイキャットが、胸の中で震える「ストレイキャット」に尋ねると、「ストレイキャット」は、うれしそうに微笑み、うなずきました。

「わーりぃことしたなぁ……ワシが間にあって良かったわぁ。でも、ようやった」

 ストレイキャットは「ストレイキャット」の帽子を取り、頭をなでます。安心しきった顔で笑う、ストレイキャットより一回り小さな「ストレイキャット」。

 ストレイキャットは、足下の男を見下ろします。

「二人、っちゅーとったな。ぶっぶーだわ」

 そして、得意げな顔で言い放ちました。

「ワシは『分身法』を使うんだわ。少なくとも六人はおるでよ。まっとまっと増やしたってもえーぞぉ」


 夜も深まった頃。

 十草公園の土管遊具。そう、千種たちのたまり場です。そこで今、目を疑うようなことが起こっていました。

 風屋を騒がす大怪盗ストレイキャット。

 その彼女が……なんと六人! 六人の「ストレイキャット」が、そこにいたのです! これはどうしたことか? いったい何の冗談でしょうか!?

「ほほう、何度見てもよー似てござるの」

「この暗闇の中、人間ならこれで十分でしょうね」

 遊具の中には二匹の猫。茶色ブチのあがり爺と、灰色のインテリジェンス溢れるマーシャ。そして、六人の「ストレイキャット」。

 その中の一人が、得意げな笑い声を上げました。

「にゃっはっは! ワシの力、思い知りゃあたか!」

 言うと、その「ストレイキャット」は土管の縁に登り、他の「ストレイキャット」たちを見下ろします。

「おみゃーらもよーやってくれやぁたわ。これで『ストレイキャットは一人しかおらんで』なんてド甘い考えは|のーなった《無くなった》わけだわ」

「お役に立てて光栄ですわ」

 と、一人の「ストレイキャット」が前に出て優雅におじぎしました。

「ったく、なっさけねぇ連中ばっかだぜ。この姿見た瞬間にみんな尻尾巻いて逃げちまいやがるんだもんな」

「それだけちーたんがぉそろしぃしょぉこなのでぁーる!」

「……おねえちゃん、やっぱりすごい」

「…………」

 と、他の「ストレイキャット」たち。

 ここで賢明な方はお気づきでしょう。この「ストレイキャット」たち。服装こそ同じですが、よく見ると顔立ちや雰囲気、果ては背丈まで異なっているではありませんか。

「頭領の御業、とくと見せていただきましたわ。ワシらぁが人間になれるとは思いもせなんだ」

 と言うのはマーシャ。

 そう。これはネコの王、千種の術の一つ「変身法」の応用。彼女自身が人の姿を取るのと同じように、彼女はネコたちを人の姿に変えることができるのです。この五人の「ストレイキャット」は、七匹の遊撃隊の残り五匹。ストレイキャット、千種はこの術を使い、遊撃隊のネコたちを「ストレイキャット」に仕立て上げたのです!

 とはいえ、姿を自由に変えられるわけではなく、元のネコたちの性別や年に左右されてしまうのが難点。故に、オスのあがり爺やマーシャは、変身法を使っても体格や年齢でニセ者とバレてしまう危険が大きいと判断。やむなく今回は残りの五匹でこの「ストレイキャット分身作戦」を実行したのです。

 え、なんですって。遊撃隊の女の子は四匹のはずじゃないかって?

 それはですね……

「お、おやびん……早く元に戻してくれよぉ!」

 一人の「ストレイキャット」が、真っ赤な顔で情けない声を上げます。

「え〜〜? ワシのカッコがそんなに気に入らんきゃーも?」

「いーじゃんシロ、カワイイぞ」

 バサリ、と黒いロングヘアのウィッグを取る一人の「ストレイキャット」。赤に近い茶色いショートヘアの少女。この子はちょっと危険な茶色ネコのカフィです。元から黒のロングヘアのノワールをのぞいた他の三人も、ウィッグを外します。

「うっせぇ! なにがカワイイだよ!」

 残る一人の「ストレイキャット」が、帽子と一緒にウィッグを叩きつけました。その正体は子供っぽさが残る少年。そう、シロくん! 哀れな彼は、昼間の作戦会議で人間の姿になったときに、「これなら……人間にはわからないのでは?」というマーシャの無慈悲な一言で、「ストレイキャット」の格好をする羽目になってしまったのです! 男の子だというのに!

「もうやんねぇからなこんなの!」

「ぇ〜! かぁぃぃのにぃ〜」

「ゆずこさんの意見に賛成です」

「おにいちゃんが……おねえちゃんに……」

 ノワールにまで言われてしまったシロくん、がくりとひざをついてしまいます。もう言い返す気力もない模様。

「マーシャ……あとで覚えてろよ……」

 ものすごい形相で、灰色のネコをにらみつけるシロくん。

その視線を、マーシャは鼻で笑い飛ばすのでした。

「適材適所。駒は多い方が良いだろう?」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 翌朝。

「我は東の丘の猫の王、大怪盗ストレイキャット。風屋かざやのひったくり諸君に告ぐ」

 突如現れたニュース速報テロップに、風屋市内、そして周辺の市民は一斉に注目。

「昨晩、愚かな君たちにネコの王の力を見せてやった。ストレイキャットは、いつどこにでも現れ、愚かな者どもを一人たりとも逃さない。烏合の衆がいくら増えようが無意味だ」

 テレビだけではありません。風屋都市圏のラジオや街頭ニューステロップが、一斉に同じ内容を流し始めました。

「今後一切愚かな犯罪に手を染めぬのが身のためだ。少しでも考える力のある者ならわかるはずだ」

 それだけにとどまりません。同じ内容の文書が、新聞折り込みチラシ、主要ニュースサイト、SNSサービス、ネット掲示板……とにかく、ありとあらゆる手段で、風屋都市圏全土にばらまかれたのです。

「改心して今まで奪い取った物を返し、二度と罪を犯さぬと誓えば、ストレイキャットはこれを許そう。だが拒否するのならばもはや慈悲はない。諸君らの全てを奪い尽くす。隠れてもムダだ。ストレイキャットは、ネズミを一匹たりとも逃がしはしない」

 おそらく風屋市民、風屋都市圏の住民全てが、このメッセージを読んだことでしょう。

 全て……そう、風屋を我が物顔で暴れ回るひったくりたちも。

「悔い改めて今までの生活を取り戻すか、破滅か、考えるが良い」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「なんだこれ!?」

 仲畑なかばた公園前交番。そこに、見たことも聞いたこともない光景がありました。交番の前に、ずらりと行列ができているのです。

 出勤してきた小村くん、前代未聞の状況に目を白黒させています。

「ちょ、ちょっとすいません、通してください!」

 その列をかき分けて、交番の中に入ろうとしますが、

「おまわりさん、助けてくれよ!」

「あんな化けネコにかなうわけがねぇんだ! 自首するから助けてくれ!」

 行列を作る人々が、次々に小村くんにすがりついてくるのです。

 やっとの思いで交番に入った小村くんですが、交番の中もすでに人だらけ。その全てが、机の向こうの大村所長にすがるように懺悔の言葉を口にしています。

「なんなんですかこれ!?」

「あ、ああ……」

 二人の中年にすがられていた中村くんが、困惑に顔を引きつらせながら答えます。

「アレだよ、お前も見ただろ? ったく、教会じゃねえんだぞ警察は!」

「アレって……朝の?」

 答える代わりに、中村くんは何度もうなずきます。もはや小村くんの相手をしていられる状況ではありません。

 そう、殺到した人々は、みな昨日まで市内で暴れ回っていたひったくりたち。それが、今朝のストレイキャットのメッセージに恐れを成し、自首しようと殺到したのです。ここだけではありません。風屋市内の交番や警察署は皆この状況。それどころか、市外の警察署にまであぶれたひったくり連中が押し寄せていたのです。

 市内各地では、ひったくりの被害にあった人の家に訪れ、土下座して盗んだ者を返す人がそれこそ無数に現われる始末。寺や神社、教会、施設などにも、今までひったくりで稼いだ全てを寄付する人々が殺到していました。その数、四ケタ、いや五ケタに達するでしょうか。

 そしてその夜。風屋の街から、あれほど無数に暴れ回っていたひったくりが、ほぼ完全に消え失せました。

 昨日まで無数にわいて出てくるひったくりたちに対応しきれなかった警察ですが、この夜はひったくりの情報はなんと二件。前日のおよそ五百分の一という、間違いではないかという数字でした。

「ヒマだな」

「そうっスねー」

 静かなパトカーの中で、小村くんは昼間のあの人の波を思い、震えていました。

 あれだけの人間が、昨日まで市内を荒らし回っていたことに。

 あれだけの人間をひったくりに変えた、「ハイウェイマンアカデミー」という組織に。

 そして、あれだけの人間をメッセージ一つで恐怖に陥れ、改心させたストレイキャットに。

「……バケモノだ」

 自分たちの戦っていた相手が、どれほど恐ろしいものか。小村くんは身をもって思い知ったのです。

 そして、ここにももう一人。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「我は東の丘の猫の王、大怪盗ストレイキャット。『ハイウェイマンアカデミー』総裁に次ぐ」

 翌朝。最後の戦いを告げるストレイキャットのメッセージが、風屋中に流されました。

「風屋を荒らしたひったくり共の頭領、その罪は重大である。よって、ストレイキャットは汝の身柄を頂戴する。せいぜい無駄な抵抗をするが良い」


 風屋市内某所。そこに、テレビの朝ワイドを見ながら、恐怖に震える男が。

「あ……あああ……」

 カタカタカタ。まるで北極や南極にでもいるかのように、歯を鳴らして震える男。

 風屋市内を我が物顔で暴れ回り、恐怖に陥れた自慢の軍隊。それがたった数百文字のメッセージで完全に崩壊したのは、わずか二十四時間前。

 数ヶ月、いや数年の準備と、莫大な金と労力。そうして築き上げた力が、わずか数百文字のメッセージと、わずか一日で、完全に、あとかたもなく消滅!

「く、来る……ヤツが……ヤツらが……」

 残ったのは彼と、運命を共有した数名。そして勇敢、いや無謀にもストレイキャットを恐れぬ一部の「兵隊」のみ。

 恐怖に震える手で、彼は電話をかけます。震える手が番号を押し間違えること四回。ようやく相手につながります。

「今すぐ集合をかけろ! 化けネコを迎え討つぞ!」

 電話に叫び、すぐに回線を切断。この通話も、あの悪魔に盗聴されているかもしれないのです。

「あああああああ!!」

 狂ったように叫びながら、部屋の中をうろつく彼。部屋の者を手当たりしだいになぎ倒し、壁に投げつけ、叩き壊し……もはや正気とは思えません。

「ハァーッ……ハァーッ……」

 彼はうつろな目でどこかを見つめます。すでに部屋の中はメチャクチャ。それほどまでに、彼は恐怖に捕らわれていたのです。

 と、そこに一人の少年が現れました。

「穏やかじゃああれせんなぁ」

「ひ、ヒィーッ!」

 突然の声に、彼は思い出したかのように懐を探り、拳銃を取り出しました。

「おいおい、そんなへっぴり腰で弾が当たらすか」

 古めかしい軍服の少年は薄ら笑いを浮かべつつ、軽く両手を上げます。その姿に気づいた彼の、顔に張り付いた恐怖が、一気にうれしそうな笑顔に変わりました。

「ああああ、あありがたい! あんたが最後の頼みの綱だ!」

 彼は拳銃を放り、少年にすがりつきます。

「助け、助けてくれ! 礼はなんでもする! 金か? 金ならある! 全部くれてやるから、私を……私を助けろ!」

 ひざまずき、ボロボロ涙をこぼし、グシャグシャの顔ですがりつく中年男を見下ろす少年。

「どうした! まだ足りんか!? ああ、私にできることならなんでもやる! だから、だから!」

 少年は無言で、そのブザマな中年を見下ろし続けます。まるで、その光景を楽しんでいるかのように。

「お、お願いします! 哀れなこの私を、お助けください! どうか、どうか!」

「誰が助けん、と言った?」

 少年のその一言。それは今や全てを失いつつある男には、神の言葉にも等しいものでした。

「ああ、ああああありがとうございます!」

 平伏し、土下座する男。それを見下ろした少年は、すぐに目を窓の外へと動かしました。

やっとかめ久しぶりだなバケネコ……何百年ぶりだぁ?)

 少年は笑みを浮かべました。先ほどの薄ら笑いとは違う、ケモノが舌なめずりするような笑みを。


(千種センセの怪盗指南#5 おわり #6に続く)

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