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2013-05-29 かんけつ。

[]少女怪盗ストレイキャット「千種センセの怪盗指南」#6

 この話はこれで完結です! 長ぇよ! 数千文字でちょこっと設定披露しようと思った話だったのにKONOZAMAだ! 三ヶ月って何だ!

 ああ、全部仕事が悪い! 何だよ毎日9時〜22時って! 明日は7時〜22時だド畜生!ヽ(`Д´)ノ

 ……社畜のグチはこれくらいにしてもうさっさと本編に入りましょうか。


 で、このあとですが、夏コミの原稿に専念すると思います。

 一応「児童書の解説、紹介本(イラストもあるよ!)」というのを書くつもりです。まあ誰もやってないし需要もあるだろうからそこそこ成果はあるんじゃねーの? っていう魂胆です。

 んでは本編行きましょかー!ヽ(´▽`)ノ


 中区栄町。風屋かざや開府から四百年続く、歴史ある街。むごい戦争で焼き尽くされながらも、まさに不死鳥のごとく蘇り、さらなる発展を遂げた、風屋の中心地。

 その一角に、彼女、ストレイキャットは立っていました。

 かつての碁盤割りの東の果て、久彌大通ひさやおおどおりに面するビル。一階に全国チェーンの牛丼屋がある、ごくごくありふれたビル。

 ここが、風屋をふるえあがらせた、あのひったくりどもの総元締めのアジトだというのです。


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「あんたが東の王様ぁ?」

「んまぁ〜もーちょいこわい人か思ったけど、まぁ〜ほんとかわいいメイドさんだがねぇ〜」

「ウチの子もここで働かせてもらえんかしらん?」

 千種がラルカンジェレでのバイト中にやってきたおばちゃんネコたち。それらが、決定的な情報を千種に伝えたのです。

「敵に守りを固めさせ、その本拠を突き止めた」。そのあがり爺の言葉から思いついた作戦。それは、完璧な成功を収めました。

 自らが育てたひったくり連中という「戦力」を完全に失った「ハイウェイマンアカデミー」。流れは圧倒的に千種、ストレイキャットの側に傾いていました。

 そこに投げ込んだ手榴弾、それは朝のニュース速報テロップ。

 それが流れると同時に、千種は風屋のネコたちに怪しい動きを探らせました。その結果、早くも午前中、ラルカンジェレに先のおばちゃんネコたちが核心の情報と共に訪れたのです。

「あのねぇ、栄町のほら、あそこ、あのビル」

「あそこじゃわからんがね」

「ほら、テレビ塔のあそこ、あそこだわぁ」

「だからあそこってどこぉ?」

「あそこ、ほら、さくら家だて。しゃれたメガネ屋の向かい」

「おーおーおー、あそこかぁ! あそこウチの子がよぉ、たまに余りもんもらう言っとったわ」

「まーなーにぃ、人間さまはよう残すでかんわぁ。アタシらぁが子供の頃は……」

「あー、あのよぉ、大事なとこだけ言ってもらやぁえーんだけどよぉ……」


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「いくらなんでも、ちぃとうまく行きすぎじゃにゃーか?」

 あれだけ手に入らなかった情報が、ここまであっさり手に入ったことに、千種……いやストレイキャットは、この情報を少々いぶかしんでいました。

「罠じゃにゃーわな」

 下らないダジャレを呟き、彼女はビルを見上げます。栄町の大して高くないビル。それこそ、栄町だけでなくどこにでもあるような雑居ビル。

 こんなところに、風屋を大混乱に陥れた諸悪の根源が?

「……まあええわ。動かな始まらん……」

 おもむろにしゃがみ込むストレイキャット。彼女はなにを……?

「わ!」

 と、彼女は全身のバネを使い跳躍! なんと、その体はビルの高さを大きく超えて飛び上がったではありませんか! なんという脚力!

 否! それは脚力だけではありません。彼女の中に流れる生命の力、内力、気、オーラ、いろいろな名で呼ばれるそれを操り、身体の力を引き出す絶技。それを、彼女は身につけているのです。そこに、人智を越えたネコの王の力が加われば、これくらい朝飯前、赤子の手をひねるようなもの!

 ガシャン! 彼女はビルのガラス窓を突き破り、そのまま中へ。

 しかし……中はもぬけの殻!

「な……!?」

 驚いたのもつかの間、突然、真っ暗だった部屋の明かりが灯りました。

 その直後!

 ダダダダダダダダ! けたたましい銃声が室内に響き渡る!

 なんということでしょう! 彼女が押し入ったのを見計らい、そこに何人もの男が乱入、有無を言わさず、銃を乱射したのです! 哀れ彼女は、まるでチーズのごとく穴だらけ……

 いや、上!

「おいおい、そんなおそぎゃーもん……」

 声を聞いて見上げる男たち。視線が集中した瞬間に、彼女は天井を蹴り、その姿が消失!

 直後、その姿は顔を上げた男たちのすぐ前に!

「なぶっとりゃーすなよ《いじってるんじゃないよ》!」

「ぐわぁ!」

 ストレイキャットの鋭い蹴りがスーツ姿の男に突き刺さる! 男は後ろに立っていた連中もろとも、廊下に吹き飛びます。すかさず他の男たちが銃を構えますが彼女の方が圧倒的に速い! 一人の銃を回し蹴りで蹴り飛ばしもう一回りでその男自体を壁まで吹っ飛ばす! 軽く跳んでその後ろの男を蹴飛ばし、その勢いで反対側に跳んだ彼女は着地間際に一人に跳び蹴りを食らわせます。

 振り返って銃を構える男たち、しかし彼女はそれを待つお人好しではない! 着地のしゃがんだ姿勢から男にバック転で飛び込み顔面を踏みつけノックアウト、最後の一人が銃を乱射しますが当たらない! またも天井を蹴った彼女の姿が消失! 天井を見回す男。しかし!

「どこ見とりゃぁす」

 男の胸に、金属のイヤな感触。そう、ストレイキャットが銃を拾い、男に突きつけたのです。なんという早業! この間わずか十数秒!

 圧倒的な力を見せつけられた男は戦意を喪失、銃を捨て膝をつきホールドアップ。ストレイキャットの、完全勝利です。

「これはどー見てもなんかあるとしか思えんわなぁ。怪しいもんは殺してまえ、って、そこまでするたぁよぉ」

 銃口を男の額に押しつけるストレイキャット。男はもはや、恐怖のあまり口もきけないようでした。

「さーて、教えたってちょ。あんたの親分さんの居場所とか」

 無邪気な笑顔を浮かべつつ、ストレイキャットはガタガタ震える男に尋ねました。

 その時。

「その必要はあれせん」

 殺気! はじかれるように入り口に銃を向けるストレイキャット!

 しかし、その銃が突然はじかれる! とっさに手を離すストレイキャット。銃は彼女の後方にとんでいき、爆発! 弾倉を何かが撃ち抜き、銃弾の火薬に引火したのです。

「鉄砲でワシに勝てすか」

 扉の向こう、そこにいたのは……古めかしいリボルバー式拳銃を持った一人の少年。まるで幕末や維新の官軍のような、歴史がかった軍服姿。その背には、先端に銃剣をつけた、これも古めかしいライフル銃。

やっとかめひさしぶりだなバケネコ」

 その姿にストレイキャットは驚きます。しかし、平静を装い言いました。

「……やっとかめだなぁ。判田はんだのキツネ」


「お前ら、死にたないだら? ジャマだもんで早よう出て行きん」

「判田のキツネ」と呼ばれた少年が言うと、倒れていた男たちは、動ける者は自力で、動けない者は、まだ動ける男に抱えられ、みな部屋を出て行きます。それを黙って見逃すストレイキャット。

 少年が拳銃を構えたまま、歩を進めます。ストレイキャットはそれに合わせ後退、間合いを保ちます。

 部屋は二人だけになりました。ストレイキャットと謎の少年。向き合う二人。

 と、少年は銃を下ろし、おもむろに弾丸の再装填を始めました。ストレイキャットは腕を組み、口を開きました。

「まーくたばったかしらん思っとったわ。ワシがあんだけ暴れとるのになーんもせんもんでよぉ」

「忙しいんだわ。お前にかまっとるヒマはあれせん」

 と、少年。

「ヘッ!」

 その一言で、ストレイキャットは露骨にイヤな顔をしました。

「またとろくせぁーこと企んどるんだろぉ」

「何がとろくせぇだ。ワシらが生きるためじゃんね。ヒトはワシらを簡単に殺す。だからワシらはヒトを殺す。何がいかんだ」

 再装填を終え、少年は再び銃を突きつけます。

「ヒトに媚びる家ネコにはわからんか」

「相変わらずくそたーけだなぁおみゃーはよ」

 腕を下ろすストレイキャット。瞬間彼女の姿が消え失せます。現れたのは少年の後ろ! しかし!

「タワケはどっちだ。そういうのを、『バカの一つ覚え』言うんだわ」

 背後からの彼女の蹴りを、少年は片腕で受け止めたのです。その手の先には……ストレイキャットの顔面を狙う銃口!

「唐人医者の『縮地法』。まあ見飽きたわ」

 「縮地法」、それが、ストレイキャットの瞬間移動の正体。内功を込めて地を蹴ることで、地面を縮めたかのように驚異的な速さで動く技。海の向こうの国から伝えられた絶技を、彼女は己の物としていたのです。ですが、それを知っている者からすれば対策は意外にも容易。動きが直線的なため、挙動を見破りやすいのです。

「まーそうなるわなぁ」

 笑みをこぼすストレイキャット。

「ほうでにゃーとよ、面白ないでかんわな」

「余裕こいとるな、本気で殺すぞバケネコ」

「それはこっちのセリフだわ!」

 ストレイキャットは左手で、少年の首に手刀を浴びせる! だが少年はしゃがみ込み、彼女の足を払いにかかる。飛び上がってそれをかわした彼女、だが体勢が不安定! そこに、少年の銃弾が襲いかかる!

 キン! キン! 甲高い音が部屋に響きます。ストレイキャットがとっさに取り出した、鋼鉄のキセル、それで銃弾をはじいたのです。ですが、彼女はまだ警戒をします。

 彼女は体をひねり、叩きつけるようキセルを振りました。キキン! また甲高い音。するととっさに、少年がそこから飛び退きます。少年がいたところに、たちまち二つの穴が開きました。

 何が起こったか? 人間の目には、何が起こったかわからなかったでしょう。ですが、四百年を生きるネコの王にはかろうじて見えていました。

 いったん弾いた銃弾が、また襲いかかってくるのが。

 着地したストレイキャット、銃を構える少年。二人はまたにらみ合います。

「それも『バカの一つ覚え』っちゅーんだわ。最近じゃよ、『ワンパターン』とも言うらしいわ」

 キセルで肩を叩きながら、ストレイキャットは得意げな顔。

「ほう、二百年黙っとったとは思えんな」

 少年の方も、冷静な口ぶり。まるで腕試しでもしているかのよう。

「ということだでよぉ」

 と、いきなりストレイキャットは上目遣い。

「ちぃーと通してくれんきゃーも?」

 そしてかわいらしい声でねだるように言います。が、

「いかん」

 少年はあっさりと拒否。そのまま一歩一歩、彼女に近づきます。

「えぇ〜、なんでぇ〜?」

「お前を生かしといたらロクなことにならん。ワシのジャマになるAだらぁ」

「まあそーだわな。ならちょうどええわ」

 説得が効かないとわかるや否や、ストレイキャットゆるんだ顔をキッと引き締めました。そして彼女は、鋼鉄のキセルを構えます。

「おみゃーさんをここで叩きのめして、二度とたーけたこと考えられんようにしたるわ」

「そーうまいこといかすか」

 少年が発砲! 二発! それを合図にストレイキャットの姿が消え失せます。縮地法!

 彼女がいたところを通り過ぎる銃弾。しかし、先ほどの二発と同じように、ありえない鋭角的な挙動で、再び現れた彼女の背後に襲いかかる!

 コマのように回転し、背後の銃弾をキセルではじき飛ばそうとするストレイキャット。しかしそれをかわすように銃弾は上空へ! そのがら空きの背中に少年が接近、至近距離からストレイキャットを撃ち抜きにかかる!

 ですがストレイキャットはそのまま一回転、勢いで少年にキセルを浴びせます。速い! だが少年もさるもの。ストレイキャットの腕をいなし、キセルはそのまま頭上を通り過ぎます。その無防備な脇腹に銃を突きつける少年。ですが発砲の直前、ストレイキャットは肘で銃をそらしました。銃弾はムダに、床に穴を開けるのみ。

 ストレイキャットは間合いを取り直します。そこに少年が発砲。ですが縮地法を使うまでもなく、ストレイキャットは首をそらすのみ。銃弾はそれ以上追っては来ず、壁に小さな穴を開けました。

「まー弾切れだろぉ。背中の長モンの出番だな」

「ド親切だな!」

 少年は背中のライフル銃を構え、ストレイキャットに突進。

「はぁっ!」

 気合いを入れ、槍のように銃剣をストレイキャットに突き出します。その速さはまるで銃弾!

 しかし彼女にはそれが見えている! きらめく一閃を、ほんのわずかな動きでかわします。近距離に入った少年は体を返しストレイキャットに銃床で殴りかかりますがそれを彼女はガード。お返しに少年のこめかみを狙う右足、しかし彼はライフルの銃身でガード。しゃがみ込んで足を払おうとしますが、ストレイキャットは跳び上がりそれを許しません。少年を飛び越え、再び襲いかかるストレイキャット。

「ハァーッ!」

 迎え討つ少年は銃剣の刺突! それをキセルで受け流すストレイキャット。ですが少年はその先には行かせない。少年が自在に操るライフルが縦横無尽、縦横斜め全ての方向、長短あらゆる距離から襲いかかる! その少年の神業のごとき銃剣術に、一歩も引けを取らないストレイキャットのキセルさばき! もはや人間では及びもつかない、激しく、そして美しい戦いが、この部屋の中で繰り広げられているのです! この戦いには神仏すらも見とれ、人々を救うことを忘れるに違いないでしょう!

 キセルと銃身が激しくぶつかり合い、火花を散らします。長いライフルの間合いを保とうとする少年、それをかいくぐり、少年に致命的な打撃を与えんとするストレイキャット。ガァン! ガァン! ガァン! 何合もの激しい打ち合いが続きます。

「撃ちゃせんのか? 鉄砲がかわいそうだがね!」

「ワシが撃つときはお前がくたばるときだわ!」

 一進一退の攻防、次第に両者に疲れの色が見え始めます。

 と、ストレイキャットが少年の斬撃を受けとめ、大きくバランスを崩しました。

「見えた!」

 そのスキを見逃さず速やかに銃を構える少年。わずかコンマゼロ数秒の後!

 ドォン! 激しい炎と煙がライフルから放たれました!

「!?」

 しかし少年は顔をゆがめます。狙いを定めたその先に忌まわしいバケネコの姿は無し! どこへ!? 上? 否、後ろ? 否! では……

「ここだわここ」

 真下から聞こえる声。少年が下を向くと、そこに……

「にゃあー」

 黒髪に黒ネコ耳の少女の姿!

「おみゃーの負けだわ」

 ぽこ。立ち上がったストレイキャットは、少年の頭を軽くキセルで叩きました。

「くっ」

 怒り、悔しさ、恥ずかしさ、それらが入り交じった表情で、少年はストレイキャットをにらみつけます。

「おそぎゃー顔しやぁすな。てゃーしてやる気なかっただろぉ」

 ……少年は目をそらし、弾薬入れから弾丸を取り出します。紙で銃弾と火薬を包んだ、骨董品とも言うべき弾丸です。

「何だろうが、負けるのは悔しいだらぁ」

 紙包みを食いちぎり、勢いよく吐き出す少年。ライフルの薬室を開き、そこに弾を込めます。

「まだやるんか?」

 薬室をバン、と閉じた少年は、首を横に振りました。

「まあえーわ」

 少年はそのまま、ライフルを背負います。

「お前の探しとるやつ、下の部屋でガタガタ震えとるわ。さっさと捕まえに行きん」

「な、なんだぁ?」

 ストレイキャットは困惑。あれほど殺意をむき出しにしていた相手にしては、おかしな態度です。

「強く叩きすぎて頭おかしなってまったか?」

「そうじゃねぇわ」

 続いて拳銃に弾を込めつつ、少年は言います。

「まぁあいつは使えんで、お前に処分してもらおか思ってな」

「てぇと、おみゃーが……」

 再びキセルを構えたストレイキャットに、少年はまた首を振りました。

「ワシは関係あれせんぞ。只の用心棒だて」

 拳銃をしまい、彼は言いました。

「これ以上は言えん。はよ行かな逃げてまうぞ」

 目の前の「キツネ」の態度にさらに困惑するストレイキャット。ですが、今はそれどころではありません。

「納得いけせんが……それもそうだなぁ。んじゃ、ご無礼さしてもらうわ」

 言うとストレイキャットは、部屋の出口へ歩き出します。少年は手を出そうとせず、黙って見ているだけ。

「次会ったら、おぼえときゃーよ、キツネ」

「まあ忘れたわ」

「ボケたか?」

「黙りん、早よ行きん」

「へいへーい」

 納得がいかん。キツネの考えることはわからん。そう思いつつ、ストレイキャットは部屋を出ていくのでした。


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「大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ……」

 別室。その部屋の隅でガタガタと震える中年男性。

「大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ……」

 念仏のように、彼の口から出てくる「大丈夫」の言葉。

「あのお方」が、御狐さまが、きっとなんとかしてくれる。バケネコから、きっと守ってくださる。逃げるなんてとんでもない。ここにいれば、御狐様が守ってくれる。

 そんな、細い細い、クモの糸のような希望にすがりつき、彼は逃げもせずに震えていたのです。

 嗚呼、これが何もかもを失い、罪にまみれた人間の哀れな姿! ですが同情はできません。

 彼こそが、風屋市に混乱と恐怖を撒き散らした張本人なのですから。

 そして今、その代価の取り立て人が、ドアを蹴破り現れたのです。

「ああ狐様! バケネコは」

「どーも、バケネコですわ。『ハイウェイマンアカデミー』総帥の身柄、いただきに参りましたでよ」

 部屋の隅の哀れな大罪人は、その姿を見て石のように固まりました。

 そして。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 ネコミミの怪盗が耳をふさぐほどの絶叫をあげ、そのまま意識を失ったのでした。


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「ひったくりの頭目ついに御用」

「身柄は中警察署へ、抵抗は一切無し」

「県警は一連のひったくり事件について追求」

「意味不明な供述、精神に異常か」

 風屋を騒がせたひったくり事件の黒幕の拘束は、翌日の地域ニュースだけでなく、全国ニュースでも重大ニュースとして報道されました。

 この国の三本の指に入る都市全体を恐怖に陥れた「ひったくり事件」、その終幕は非常にあっけないものでした。

 しかし、この事件の全てが明らかになることはおそらく無いでしょう。当事者は「黒いネコミミの怪盗」の恐怖で完全に精神が崩壊、何をしていたかもわからない状態となってしまったのです。

 彼がいかにしてこの恐るべきひったくり軍団を作り上げたのか。その裏に何が隠されていたのか。それらの真実は、全て闇の中へ消えていくのです。


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 それから数週間が過ぎました。

 ここは大洲おおすのヘンな信号交差点の角。そこにあるメイドカフェ「ラルカンジェレ」。

「おきゃーりなしゃーませ、ご主人さま☆……」

 そこで働く、黒ネコミミの小さな女の子。言わずと知れた千種ちゃん。しかし……

「ちーちゃん、大丈夫かな?」

 一緒に働くわかばちゃんが元気よくたずねますが、

「大丈夫……なワケあらすかぁ……」

 かわいらしい笑顔の目の下には誰が見てもわかるくらいのくま。誰が見てもオーバーワークは明白でした。

 それもそのはず。彼女は今日で十連勤。そしてこの先、あと二十日続けてシフトが入っているのです。ですがそれでも、千種ちゃんは働き続けなければならないのです。

 一体、どうしてこうなった?

 話はひったくり事件終了後にさかのぼります。

 一仕事終えて良い気になっていた千種の元に、一本の電話が。相手は風屋はおろか、この国でも有数の規模を持つ企業グループ「キャッスルグループ」次期総帥の少女。


「なんだぁ、亜梨須ありすか」

『そう、キャッスルグループ次期総帥の松平亜梨須さまよ』

「その亜梨須さまが何の用だ?」

『代金の支払いについてのご相談よ』

「代金?」

『そ。朝のニュース速報、折り込みチラシ、ラジオの緊急ニュースなどなど、我々キャッスルグループの偉大なる力で市内全部に流したアレ。まさかタダだと思ってないでしょうね?』

「……は?」

『総額一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億……』

「な、何を言っとるかわっかれせん……」

『ま、我がキャッスルグループにとっちゃはした金ですけど、払うモノは払っていただかないとね』

「な、何言っとりゃあす? 知らん! ワシは何も」

『その部屋、誰が家賃払ってるか忘れた?』

「!……」

『まあ、アタシは心が七つの海より広いことで有名だから、大まけにまけてあげるわよ。アタシがオーナーのあの店の売り上げに、しっかり貢献してちょうだいね』

 

 ということで、亜梨須がオーナーの店、ここ「ラルカンジェレ」で一ヶ月タダ働きという「寛大な」支払い契約が成立したのです。契約不履行の場合即刻部屋から立ち退き、部屋の中の物(つまり千種の全財産)は全て差し押さえ、バイトもクビ、そして先の速報などなどにキャッスルグループが費やした総額(ン十億円!)の支払い義務が生じます、という補足事項付き。踏み倒す? 否。そんな事できようはずがありません。キャッスルグループの手はどこまでも千種を追いかけることでしょう。またノラネコの暮らしに戻ればいい? それこそ無理な話。「部屋の中でごろ寝してテレビを見る怠惰な生活」にどっぷりとハマリ込んだ彼女が、いまさらその生活を捨てられるでしょうか!? 答えは「絶対にNo」!

「な、なぁねぇさまぁ、ちぃと休ませて」

「ダメです」

 店のチーフ、美園さんにお願いするも速攻で拒否。

「オーナーから言われてるんですよぉ。『しっかりこき使ってちょうだいね。でなきゃあんたもクビよ!』って。すみません、わたしもクビはいやなので……」

「ボクだってこんなことはイヤなんだけど……涙をのんで鬼になるんだ……」

「のわりにでらうれしそうな顔しとるなぁ……」

「あ、ご主人さまだよ☆」

「ほら千種さん、ご主人さまには笑顔で接しましょうね」

「……おみゃーら、あとで覚えときゃあよ……」

 顔を引きつらせ、限界まで酷使した体にさらにムチを打ち、千種ちゃんはとびっきりの笑顔でご主人さまをお迎えするのでした。働け! 千種ちゃん! 働け! 働く君は美しい!

「お、おきゃーりなしゃーませ、ご主人さまっ☆」


(「千種センセの怪盗指南」おわり)