「タブコン」の地位を確立できるか―iPadの挑戦

10日ばかりiPadを使って思ったのは、Appleはついに「まったく新しい製品カテゴリ」に挑戦するのだなあ、ということだ。これはApple II以来のことではないだろうか。

もちろん、これまでにもAppleは全く新しい製品を数多く出してきた。
しかし多くの場合、製品よりも前に製品カテゴリが存在していた。

Macintoshはパーソナルコンピュータだった。
iPodは携帯音楽プレーヤーだった。
iPhoneは、iPod+ブラウザ+携帯電話だった。
ジョブズiPhoneの発表のとき、「携帯電話を再発明する」と宣言した。
そして実際に、携帯電話のポジションを占めることができた。
つまり、Appleの製品が登場する前に、製品カテゴリが存在し、Appleはそのカテゴリの製品を「再発明」してきた。

しかし、iPadとは何か?

iPadは、携帯電話ではない。
テレビでもない。
ノートPCにはやや近いが、WindowsのPC を置き換えるには汎用性が低い。
電子ブックには近いが、そもそも電子ブックは製品カテゴリとしてはまだまだ確立されていない。

つまり、iPadは「カテゴライズできない」デバイスだ。
この大きさで、こういう使い方ができるコンピューター、という、まだ確立していないカテゴリの製品なのだ。
そこが、MacintoshiPodiPhoneとは違う。

これまでにも「ウォークマン」「パーソナルコンピュータ」「ゲーム機」「携帯電話」といった、それまで無かったカテゴリが出現した例はあった。
それぞれ、70年代、80年代、90年代、2000年代を代表する製品カテゴリだ。
新しい製品カテゴリが生まれ、大きく育つのは5年、10年に一度のことなのだ。
パーソナルコンピュータという製品カテゴリを作り出したのは、Apple IIだったが、iPadはそれに近いエポックメイキングな、野心的な製品だと言えるだろう。

OSやユーザーインターフェースiPhoneと共通だということは重要ではない。
ただ、新しいカテゴリの製品としてはやや有利な点は、店では、iPadiPodの隣に置かれて販売されるだろうということだ。
売り場が確保されていることは重要だ。カテゴライズできない製品は、どの売り場で売るべきかすらよく分からないものだが、iPadはその心配は無さそうだ。

しかし本質的には、iPadは明らかにiPod/iPhoneと異なるカテゴリの製品だ。
そのカテゴリを名づけるなら「タブレットコンピュータ」ということになるだろう。
このカテゴリには、電子ブックやフォトフレームなどの製品も吸収されていくことになるかもしれない。

今後、「タブレット」という新しいカテゴリが今後定着するかどうかは分からない。iPadは「大きいiPod Touch」として、ちょっと売れたニッチな商品で終わるかもしれない。

iPadiPadではなく、より一般的な「製品カテゴリ」へと脱皮できたとしたら。
ヨドバシカメラヤマダ電機に「タブレットコンピュータ売り場」ができ、略して「タブコン」と普通に呼ばれるようになり、そして「タブコンは家の中でこういう場所にあって、こういう使い方をするもの」という共通認識ができあがってくる。

タブコン市場という新しい市場の誕生だ。
一方で、タブコンと近い用途に用いられていたPCや携帯、テレビや雑誌等、他のカテゴリの製品/サービスは、自らの用途や役割を再定義しなければならなくなるだろう。
しかし、それは新しい市場の出現に比べれば、瑣末なことだ。
新しい市場を立ち上げていくために、自分も何かやってみたい…と思う今日この頃である。