セルバンテスだから書けたドン・キホーテという小説

 私は大学に入った年にイスパニア語科ということで、スペイン語をろくに勉強もしないのに「ドン・キホーテ」を勇んで原語で辞書を引き引き読み始め、とても手に負えるものでなくその価値もわからないまま途中でギブアップした苦い経験がありますが、小説「ドン・キホーテ」に対する評価は多様で、日本で知られている以上に世界的な評価は高いようです。グローバルには聖書の次に数多く出版されているというのはその証だといえます。いまではごく当たり前のことですが、小説「ドン・キホーテ」の個々の登場人物がそれぞれの視点や目的意識で行動しあるいは成長させているという構成から、世界で最初の近代小説と位置づけられています。作家セルバンテスの同時代人としてイギリスに劇作家シェークスピアという天才が出現していて、ジャンルは異なりますが、衰退していく国スペインと世界制覇に向けて上り始めたイギリスにおいて世紀の巨匠が同時に出現したのは興味深いことです。
 高度な文化や芸術が民族なり国家が飛躍的な政治的、経済的発展を遂げたあとタイムラグを置いて出現することがあるのはよく知られたことです。スペインが主導して現在の西洋文明が東洋文明を凌駕する起点となった1571年のレパント沖海戦に従軍し、そのとき被弾して左腕の自由を失い、その後の虜囚生活、脱出計画の度重なる失敗、開放されてからも不本意な囚人としての監獄生活を経験するというセルバンテスの人生は、1588年のアルマダの海戦で無敵艦隊イングランド艦隊に敗北したことで彼が海軍の食料調達掛を失職したという因縁も含め、スペイン王国の急速な衰退の歴史と見事に重なるものがあります。 過去の栄光や旧態依然とした社会の仕組みから抜け出せず世界の頂点からあまりにも急速に衰退していく祖国を目の当たりにし、また、自らもそれに重なる逆境を経験しつくしたセルバンテスであったからこそ、小説の中に「個」の視点を取り入れるという画期的な創意が生まれ、社会を複眼で見て滑稽さを前面に出しながらも社会に対する痛烈な批判を織り込んだ歴史に残る高度な作品を書くことができたのだと思います。1605年に『才知あふれる郷士(hidalgo、イダルゴ)ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』が出版され、後編として『才知あふれる騎士(caballero、カバジェロドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』が10年後の1615年に出版されますが、ドン・キホーテが風車に向かって突進するという前編での有名なシーンは、スペインを象徴する「妄想の騎士」ドン・キホーテが、1568年よりスペインからの独立の戦争を繰り返し益々士気盛んとなるオランダを象徴する風車に負けるという、将来のオランダ独立を見通したものとの見方があります。オランダは事実上1609年に、正式には30年戦争終結時の1648年ヴェストファーレン条約でスペインから独立しますが、1602年には史上初の株式会社といわれる東インド会社を設立し、衰退していくスペインを尻目にイギリスを相手として世界の海上貿易の主導権争いを演じていた状況にあり、セルバンテスの目にはオランダの独立は必然で、風車との戦いに敗れたドン・キホーテが自分勝手な理屈で敗北をも認めない姿に当時のスペインの衰退を表現していたのかもしれません。

【ココのつぶやき】

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