塾講師のアルバイトをしてみてわかったこと

塾講師のアルバイトをしていたのだが、一段落ついてきたので感想をまとめる。

バイトとして

まず塾講師のバイトに応募した理由が、「いろいろと学べそう」だったことと「自分には受験テクニックがある」ことに加えて一番大きかったのが「時給が良い」ことだ。他のバイトに比べて数値上の時給がとてつもなく良い。誰にでも出来るバイトではなく、一定のスキルが必要なのだから、時給が高くなるのは当然だと考えていた。しかし、実際はとても割に合わないバイトだった。


僕は研修期間の3ヶ月で辞めてしまったので、時給は研修期間として1800円だ。もしこれからも続けるのならば時給2100円になる。こう書くととてつもなく良いバイトのように見えるのだが、実際にこの金額がそのまま時給になるわけではない。この金額は「授業をした時間」への時給になるのだ。授業は基本的に50分になるので、それだけしかもらえない。授業の準備や黒板を消したりしていれば50分授業でも一時間働くことになるのだが、50分授業分しか貰えない。オフィスで待機していた時間に仕事が無かったら、拘束時間にもかかわらず時給が発生しないのだ。オフィスにいる時間に事務作業をしたりすると時給が発生するのだが、それは本来の時給の1/3しかもらえない。さらに、授業をやったら終わりというわけではない。質問をしにくる生徒や休んだ生徒達への対応も当然しなければならないし、それにも時給は発生しない。


通塾にも時間がかかる。僕は近くの塾でバイトをできると思い応募したのだが、倍率が高い教科の塾の先生というものはたらい回しにされるみたいで、二駅離れたところが勤務先になってしまった。塾講師はスーツに着替えなければならない。なのでいったん家に帰る必要がある。これらの時間を考慮すると、何の為の高い給料のバイトなのかわからなくなってくる。


当然予習にかかる時間もある。どうやったら生徒に食塩水の問題を理解させられるのかを時間をかけて考えなければならない。慣れないうちは予習に時間をかけなければ授業が崩壊してしまう。


結論を言うと、金を稼ぐ為に塾講師のバイトをするのは間違っている。将来先生になりたい人が自分のスキルを磨く為にやるものだ。バイトではなく、先生になる為の学校なのだ。

楽しい

上記のようにバイトとしては割に合わない。しかし、金を稼ぐことを度外視して、感想をのべてみると、そう悪いばかりではない。


まず非常に楽しい。僕はまだ他のバイトの現場をしらないのだが、自然と笑顔になる職場である。生徒は中学生であるので、まだ先生に敬語を使うことができない。ため口で友達のように接してくる。僕ら講師側も友達のように接しているし、普通のおしゃべりをする。それがとても楽しく、大学の友達のしゃらくさい感じのノリとはまた別の「中学ってこんなかんじだったな」というような新鮮で懐かしい面白さがあり、とても充実した気分になる。


基本的に生徒はアルバイト大学生のことを慕ってくる。歳が近いせいもあるだろうが、とても仲の良い友達のように休み時間の度に講師のまわりに集まって、話しかけてくる。帰り際に駆け寄ってきて飴をくれる生徒や、部活でレギュラーになったことを夢中で嬉しそうに報告してくる生徒もいる。


講師同士の繋がりもとても楽しい。塾というものは基本的に小さなコミュニティーが長く続いているので、塾講師は家族のような関係になる。塾には校長がいるのだが、塾が終わると毎日のように校長とともに飲みにいく。校長のことを「殿」と呼び、みんなも「あだ名」で呼ばれる。出勤していない講師なども夜中に集まってきて、わいわいするのだ。プライベートでもよく校長などにつれられて遊びに行ったりする。


塾の先生達は生徒に対して本気だ。飲みの席でも「どうやったら生徒にあの問題を理解させることができるのか」を議論しているし、夜間に新人講師の特訓をしたりもしている。それらの生徒に対する一体感はとても良い物だ。

しんどい

楽しい面もあれば当然しんどい面もある。一番最初に金を稼げないしんどさを書いたが、他にもしんどいことがあり、一つは精神的に余裕がなくなることだ。時間的には当然余裕がなくなってくる。僕は分刻みに動いていた時期もあったし、睡眠時間が物理的に2時間もとれないスケジュールになったりもした。しかし、これらはバイトをしているのだから当然と言えば当然になる。


本当に精神的に余裕がなくなる原因は、家でやる仕事がある点だ。授業の予習を家でやると一口に言っても、生徒に理解させる為にどこまでやれば良いのかがわからない。やろうと思えば無限にやることができる。僕はYouTubeでその単元の授業ビデオを探し、解説方法を学んだ後にどこを質問されても良いようにテキストの範囲の問題を全て解いておいた。この作業をするだけでも1時間以上はかかる。さらにそれを50分の授業としてまとめる作業をイメージトレーニングする。常に自分の生活に授業がつきまとってくる。これは本当に精神を削られるし、余裕がなくなってくる。


僕は大学の授業にもきちんと出たかったし、大部分のアルバイト塾講師と違い教師になることが目標ではないため、このような自分にとって無駄な作業によって精神的余裕がなくなるのはとてもストレスだった。

学べる

僕の当初の狙い通り塾講師は学べることが多かった。まず、「話すスキル」が一通り身に付く。


生徒は小学校から上がったばかりの中学生である。ただ淡々と授業をしていたのであれば全く聞いてはくれない。生徒の興味を引く話を混ぜたり、例え話にしたり、私語をしている生徒に話しかけたり、黒板を叩いて注目を集めたりなど,ありとあらゆる手を使って生徒に自分の話を聞かせる。こういう小手先の技術も磨かれていくのだが、僕が塾講師をやって良かったなと思ったのが、「プレゼン力」のような話術が磨かれていったことだ。「大事なことは速度を変えて二回言う」「生徒の記憶に残りやすいように10分ごとに公式を繰り返す」など、人に以下に自分の話を聞かせるかの技術が身に付いたと思った。人前で話すことにも慣れた。大学の授業で代表してプレゼンをする機会があったのだけれど、塾講師の威力をかなり実感した。


人に何かを伝える際に「情報をそぎ落とす」ことも覚える。大抵の人は余計なことまで教えようとして相手を返ってこんらんさせる。人に伝える情報には「時価」があるので、その時価の高い情報のみを教えることができるようになる。


教える立場を知ることができたことも大きい。授業がどういう構成で成り立っているのか、先生はどういう意図でここを説明しているのかなどが見えてきた。大学の授業を聴いていても、「ここは大事なのだな」とか「ここは先生の説明不足だから質問しに行った方が良いな」とかがわかってくる。大学の教授は教えるのが専門というわけではないので、結構曖昧なことをいったりする。その曖昧さにどのようなニュアンスが含まれているのかがわかるようになった。

まとめ

塾講師のアルバイトのまとめとしては

  • 金は稼げない
  • かなり楽しい
  • 話す能力がアップする
  • 先生になりたい人には天国

大体こんな感じ