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栄養成分ブレンドコーヒーの手引き

2018-07-17 第353話 番外編 続・トリゴネリン・パラドックス

シリーズ『くすりになったコーヒー


●トリゴネリンがNrf2経路とNFκB経路を抑制する作用は、一見矛盾しているようだが・・・。

 前者は細胞が抗酸化性を発現して炎症を予防する経路、後者は細菌感染肥満症などで炎症を発症する経路。互いに相反する効果につながるシグナル伝達経路なので、トリゴネリンの作用は「悪玉中の悪玉」のように思えるのです。でも実際には、トリゴネリンの作用は抗炎症性で、決して炎症を引き起こすようなものではありません。出来が良いとは言えませんが、こういうトリゴネリン・パラドックスの逆説的薬理学を絵に描いてみました。まずはご覧ください。

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 疫学研究によれば、コーヒーを飲めば生活習慣病に罹るリスクが下がります。しかし、アルツハイマー病に関しては未だ答えがありません。創薬の世界では、脳のシミが原因との立場から、数多くの治験が行われましたがすべて失敗。「病因論の仮説が間違っている」との苦言が出るほど完敗でした。そこで次なる仮説が現われました。

●脳神経細胞の抗酸化性シグナル伝達経路が破綻する。

それには図のNrf2とNFκBの2つの経路があって、2つの間で、細胞の酸化状態を一定に保つバランス調整がなされています。生命科学用語を使えば、「2つのシグナル伝達経路がクロストークしてバランスを保つ」というのです。

 図で、Nrf2経路とNFκB経路がクロストークをしています。「お前がそうするなら自分はこうする」または「自分はこうするからお前はそうしろ」といった具合です。前者の経路は、ミトコンドリアで生まれる活性酸素が、安定な複合体Nrf2/Keap1を切断し、自由になったNrf2分子が核に入って抗酸化酵素群を増やします。その酵素群が細胞質に出て炎症を抑えているのです。後者の活性化は、細菌毒素LPSや肥大化した内臓脂肪由来の悪玉サイトカインTNFαで起こります。ここでは自由になったNFκB分子が核に移行して、Nrf2とは逆に、炎症性サイトカインを増やすのです。つまり炎症を起こして細菌の侵入を防ぎますし、アルツハイマー病の新仮説では、元は脂肪組織由来のTNFαが脳でもできて更なる追い打ちを掛けるというのです。その結果は神経細胞の死と、認知機能の低下につながるというわけです。

●コーヒーのトリゴネリンとポリフェノールは、図の矢印(活性化/刺激)とハンマー印(不活化/抑制)のように働いて、クロストークをコントロール。

 これら2つの成分はどちらもNFκB経路を(ハンマーで叩くようにして)抑制します。その結果、NFκBが核に入ることはなく、図では大きな矢印が消えています。そして炎症の原因因子が余分に作られることはなくなります。加えてポリフェノールは、Nrf2/Keap1複合体に作用して、両者をハサミでちょん切るように切り離します。すると自由になったNrf2分子が核に入り、種々の抗酸化因子を発現して、神経細胞を護ります。

●トリゴネリンはポリフェノールに拮抗して、Nrf2経路を抑制する。

 トリゴネリンはハサミの切れ味を鈍らせて、Nrf2の切り離しを阻んでいます。つまりコーヒーの場合、浅く煎った豆の共通成分であるトリゴネリンとポリフェノールは、同時に存在することで、Nrf2経路の活性化を最小限に抑えていることになるのです。そのため、浅煎りコーヒーを飲んだ時に確実に表れる抗酸化作用とは、「NFκB経路の抑制による」となるのです。この考えは現在のNrf2中心のコーヒー薬理学とは異なるものです。2大経路のクロストークという新たな薬理学が、コーヒーの実際の病気予防効果とどのように関係するのか、今はまだそこまで考えることはできません。

●アルツハイマー病を予防できるコーヒーとは、一体どんなコーヒーなのか?

 文献によれば、コーヒーポリフェノールはアルツハイマー病モデルマウスの認知力を改善します。一方トリゴネリンは、培養脳神経細胞の増殖速度を早めます。更にコーヒーの疫学研究では、毎日コーヒーを飲む習慣が認知力の低下を遅らせるとのことです。アルツハイマー病と直接関係する論文はほとんどありませんが、両成分への期待感を書いた論文は多々あります。

 では、どんなコーヒーを飲めばアルツハイマー病を予防できるでしょうか?そういう夢のような話を書いた論文はまだありません。トリゴネリンとポリフェノールを同時に摂ることができるのは、生豆エキスかまたは浅く煎った焙煎豆ですが、そういう豆を使ったヒト試験、あるいはモデル動物への投与試験が実施されることを期待したいところです。

(第353話 完)

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