花巻
客 「おう、そば屋。何ができるんだい?」 そば屋 「できますものは、花巻に卓袱で。」 客 「それじゃあ、卓袱を熱くしてくんな。」
これは落語の演目では(たぶん)最も有名な、「時そば」でのやりとり。
卓袱(しっぽく)というのは、もともと野菜や芋類の煮物を意味していて、卓袱うどん/そばというのは煮物類がのったうどん/そばということになる。
卓袱うどんは今でも比較的見かけるが、卓袱そばはあまり見かけない。
ちなみに時そばで出てくる具は「ちくわ」のみ。
それも「他ではちくわぶを使っているところもある」と客が嘆いているところを見ると、屋台の蕎麦では申し訳程度にちくわやちくわぶがのっていたんだろう。
花巻(はなまき)というのは、海苔がのったそばのこと。もともとは浅草海苔の焼き海苔をのせたものらしい。
そういえばざる蕎麦には上に海苔がのったものもあるけれど、蕎麦の香りと海苔の香りは相性がいいと昔から認識されていたということか。
今では岩海苔をのせたものや、浅草海苔の細かくしたものをのせたものといったいろいろなバリエーションの花巻そばがある。
私自身は本格蕎麦屋にはあまり縁が無いからか、花巻そばというメニューを店で見かけた記憶は無い。
ということで自宅で作ってみることになるのだが、岩海苔を使った花巻そばが手軽に作れてなかなか美味しい。美味しさというのは味覚だけでなく、香りの影響を大きく受けるのだなということがよくわかる。
作り方はかけそばの上にドンブリの表面一杯になるように岩海苔を敷き詰めるだけ。
目を瞑り、訪れたことのない江戸時代の浅草で、海辺の香りを感じながら屋台蕎麦を手繰る想像に浸ってみる。
使った岩海苔は瀬戸内産だった。
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