本日のおすすめ001 【1985年】 LL Cool JのRadioというアルバム

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LL Cool JのRadio(Amazon)

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このアルバムをオススメな理由は、かっこ良く、荒々しい質感(=歪み)のマシンビートが聞けるからだ。

紹介したいと思って、色々調べたりして書いているうちに、うまくまとまらなくて、何度か書きなおした。でも書いているうちにこの「本日のおすすめ」シリーズは、様々な時代のマシンビートの質感すなわち「音の歪み具合」について伝えたいのだと気づいた・・・。そういうシリーズになると思います(笑)。


さて、このアルバムの話に戻します。

当時のローテク機材、低予算で音数も本当に少ないのに、ものすごくかっこいいサウンドを実現している。

サンプラーすら使ってなくて、リズムマシンとスクラッチとラップだけから成る「最も原始的なマシンビート」と言える。逆に言えば、その3要素の一つでも欠けたならこの音楽は成り立たない。

ラッパーとしてのLL Cool Jの才能はもちろんだが、リック・ルービンという本来ならロック畑の白人プロデューサーの仕業でもある。


↓左からLL Cool Jとリック・ルービン

リック・ルービンは高校生の頃には既に音楽をやっていたが、ろくにコード進行も知らず音楽の知識を欠いていたため音楽仲間からは不評だったという。高校卒業前に学校にあった4トラックレコーダーを利用してデモテープを作りDef Jam Recordingsを1983年に設立。ニューヨーク大学に入ったルービンは哲学科で学びつつヒップホップシーンに関わり、アートパンクのバンドもやっていた。ヴィンセント·ギャロ(俳優・ミュージシャン)の紹介により、ラッセル・シモンズ(RUN DMCのメンバーの兄であり、敏腕経営者)が参加、世界一のヒップホップレーベルとしてのサクセスへ至る。
↓左からリック・ルービン 、ラッセル・シモンズ

LL COOL Jらの売り込みを受け、リック・ルービンは彼らのデモテープを元にトラックを作り直した。

ルービンは単にリズムマシンを打ち込んだだけともいえるが、そのハードなマシンビートの効果は絶大であり、それまでの「甘いトラックの上におしゃべりが乗っているパーティーミュージック」という快楽的で軽薄なヒップホップのイメージから、「硬派な音楽」へと文脈を変えてしまったのだ。

同時に、ヒップホップの中に元々ある、社会への不満や怒り、反骨精神といったロックの本質とも共通する部分を音楽の表現としてきちんと形にしたということでもあったと思う。

I need a beat(アルバムの8曲目)が先に作られてシングルとして完全なインディー流通で発売、見事10万枚を売り上げそれを資金にして大手のコロンビアと有利な契約(制作には口を出させず流通だけをメジャーに任せる)に成功した。

↓ヒップホップの初期(1979 - 1986)のサウンドの変遷がよく分かる動画(パソコンからしか再生できないようです)
http://www.youtube.com/watch?v=XXhE_6koCtU

このアルバムが発売されたのは1985年であり、既にアメリカではヒップホップは10年近い歴史があり、ポピュラーな音楽の地位を得ていて、更にブームとなっていた。

しかし、当時のhiphopのスタイルはディスコなどのバッキングにラップをのっけた甘口テイストなものが多かった。70年代ディスコサウンドに大勢のラッパーが代わりばんこにラップしていくようなスタイルをイメージしてもらえばいいと思う。


↓このアルバムのリリース当時のLL Cool Jのステージ。相棒のDJ Cut Creatorがアルバムの音源をターンテーブルで鳴らし、スクラッチ。
LL Cool Jは17歳!天才。こういうレア映像からはものすごく刺激を受けるなあ。
http://www.youtube.com/watch?v=1TqQ

↓アルバムのマシンビートには「DMX」というリック・ルービン所有のリズムマシンがメインに使われている。

このリズムマシンはオーバーハイムというシンセサイザーメーカーの製品で、当時は2,895ドルの定価でアメリカで売られていた。

おいそれと買えるような金額ではなく、ルービンが当時これを所有していたというのはアドバンテージだったはず。

ちなみにAbleton Live9 StandardのDrum RackにはこのOberheim DMXのサウンドが付属しています。かなりいい音で使えます。

ヒップホップは人の歴史やビジネス面など触れるべきことが多いので難しい。今回の記事はちょっと焦点が絞れてなかった。次回からはサウンドにもっと焦点を絞って書きたい。

↓ちなみに現在のリック・ルービン(笑)