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トーチカ

2017-02-17

ばら園

16時に仕事が終わってそれから友だちの家に行った。私の家の最寄駅から3駅離れたところにあるのだが、自転車で行った。友だちの家は駅からかなり離れた、ばら園の近くにある。

高校3年の時、友だちと同じクラスになった。ダウンタウンの話で仲良くなった気がする。『古賀』というビジュアルバムに入っているコントと、ガキの使い松っちゃんが受験してない大学の合格発表を見に行く回を教えた。友だちからは辻武司というごっつええ感じのコントを教えてもらった。
友だちは陸上部の選手で、学校で年1回行われるマラソン大会でいつも上位に入賞していた。友だちと廊下にいると陸上部の後輩が現れて、からかったりからかわれたりするのを見ることがあった。部活に入っていない自分には、まぶしいようなうざったいような感じがした。友だちと後輩との会話を観察してポイント化し、会話が終わってから「先輩風を〜回吹かせてたな、ポイントが累積してきてるで」などと勝手に言っていた。
私は昼休みに弁当を食べた後、図書室へ本を読みに行っていた。部活を引退すると友だちも一緒に来るようになった。Fというテニス部の幽霊部員とMという野球部の補欠の友人を連れて来、赤本を出してしゃべっていた。図書室でひとり本を読んでいるというのに憧れのあった私は、それを邪魔されているように感じていた。何回か「俺は一人で図書室に行きたい」と主張したが通らなかった。半年くらい行ったが、『間宮兄弟』と『変身』の2冊しか本を読み切らなかった。

技術の授業で、パワーポイントのスライドショーを使って発表をするという課題が出された。友だちと、クラスの人を笑わせるような面白いスライドを作ろうと言う話になった。私は宮本武蔵が実は卑怯者だったという話をもとにスライドを作ることにした。友だちは沖田総司が実は不細工でヒラメみたいな顔だったという説がテーマ。二人して放課後、ウィキペディアとか本とかで歴史上の人物の裏話を調べた。宮本武蔵が後ろから木刀で殴って勝ち星を稼いでいたことを記した資料が出てきてこれはいけそう、と思った。
当日は自分の発表が先だった。面白いと思ってるところで笑いが起こったが、思った量の半分ほどだった。人気のある生徒はAV女優とかクラスのからかいやすい生徒とかをスライドショーで使って笑いを取っていた。笑ったけど面白いってそういうことなのかなあ、と思った。
友だちの番が来た。発表が始まって1枚目のスライドで概要を説明している最中に、スライドが2枚目に行ってしまった。パワーポイントのスライドショーは一定時間が経過すると次のスライドに進む。自分のタイミングで次のスライドにいきたい場合は、マウスをクリックするかエンターキーを押すかで次に進む設定にしておかないといけない。友だちはそれを忘れていて、どんどんスライドが進んでいく。友だちは早口で説明して、面白い部分である「ヒラメ顔だったんです」のところに間に合った。「ヒラメ顔だったんです」と左からフェードインしてくるスライドに追いついて言ったのだが、そこまでの説明が早すぎて間に合ったこと以外何も分からなかった。帰ってくるときの不服そうな顔を見て面白いなと思った。

なにかの帰りに私と友だちとMとFともうひとり卓球部のFと、近づくとマッドタイプのヘアワックスの匂いがするKと六人で公園へ行った。そこで、クラスでかわいいと思う女子の名前を言い合うことになった。言い出したのはKだ。私は「みんなが言うなら言う」と言った。みんな言わないと踏んだのだと思う。しかし、Kが「〇〇さんかわいいと思う」とあっさり言った。クラスで人気がないくせに、ませていることを忘れていた。そこからみんながかわいいと思う女子の名前が飛び交った。友だちも誰かの名前を言っていた。私だけ言えなくて焦っていたらKが「じゃあギャル系が好きか清楚系が好きかだけでも言って」ときたので「清楚系ってなんやねん」と言って逃げるようにして帰った。Kは高校を卒業した後一浪して東京の大学に行って政治家の秘書のバイトをした。
翌日、好きな人言うのは分からんし無理と言うと、お前は勘違いしている、昨日は好きな人じゃなくてかわいい人の名前を出すだけでよかったのに、と言われた。私はよく分からなかった。かわいい人の名前を言うのは好きな人の名前を言うのと同じじゃないのか。好きな人とかわいい人の違いがよく分からない。加えてその場にいない人、特に異性の名前を出すのがうまくできなかった。聞かれているのに答えられなかったり、聞かれていないのに言ったりを今もする。クラスによく話す女の人がいた。キングクリムゾンの1stが入ったMDを借りてベックのオディレイが入ったMDを貸したことがある。ザ・フーを聴いたら元気になると言ったら笑っていた。その人の名前を出さなかった。その人は友だちと話しているときに多分私の名前を出していなくて、自分のことを話していない人の話をするのは私の中で恥ずかしいことだった。

あまり垢抜けない公立高校に通って楽しかったのだけど、少し垢抜けている人とか不良っぽい人とかが人気のある生徒になっていることが不満だった。不良だったら全校集会を開かせろよと思っていた。自分に人気がなかったから、せめて人気のある生徒より面白いと言われたかった。人気のある生徒に、自分は面白くないのに人気があるのだと引け目を持ってほしかった。高3の時は中学からの同級生が同じクラスで、たまに話した。同級生はクラスで人気があって、話している私にまで注目が集まっていると感じ、その時はつまらないことを言ってはいけないと力が入った。常に人から見られ聞かれている、面白くないと思われてはといけないと意気込んで生活していた。高校のとき書いていた日記には「この人にこう返したのは間違いだった。自分のこのつっこみは良かったと思う」などの書き込みがたくさんしてある。一緒にいる仲間もクラスの人から面白いと言われてほしくて、クラス全体で集まっているときにあまりしゃべないでいるのが歯がゆかった。当時は魔法のiらんどなどで作ったホームページに日記を載せるのが流行っていた。流行には乗らなかったが、その日一緒にいた人のページを見て何を書いているのかよく確認した。自分が面白かったなという日にそのことを書いている人がいないと落ち込んで「面白くない人が面白くない人から支持を得ていておもしろくない」と頭の中で話を締めくくって寝ていた。
何をそこまで執着していたのか。今考えると、自分がなかったことにされるのが怖かった。それで面白い人という印象だけでも記憶に残ろうとした。同じくらい、記憶を悪いものに変えるのが嫌だった。話しかけてくる人がいると、話しかけてきた理由、自分に対する期待みたいなものを考えた。その人が自分に持っている印象を判断したらそれに沿おうとした。これをしたら期待を裏切る、と推察したことは出来なかった。面白いという印象で話しかけられたと判断することが多くて、その場合は何とかして面白いことを言いたかった。笑いづらくなると思ったのでその人に深く干渉することを避けた。たまにそういうのが苦しくて嫌なことを言いたくなるのだが、クラスの人の見ている前ではできなくて、その人にメールで面白くない文を送ってしまうことがあった。よく覚えていないが、送った意図が読み取れなかったり暗い印象を持たれる内容だったと思う。反応は無かったり、有ったとしても否定的なものが多くて、次の日会った時に態度がよそよそしい気がする。後悔して、変なことはもうしないと思う。でも同じことを何回かやった。

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高校を卒業してから大学へ行くまでの間、本屋でアルバイトをしたが1か月もたずに辞めてしまった。5000円の図書カードを、全額使い切る用のカードリーダーに通そうとしたのを直前に手で止められてその日の終わり、遠まわしに辞めてくれと言われた。MAJORという野球漫画が5冊万引きされているのに気づかなかった日もあった。怒られながら隣の携帯電話屋で青山テルマの曲が何回もかかっていた。

大学に入学して数日は中学の同級生と部活やサークルを見学して過ごした。その同級生とは高校は別だったがたまに遊んでいて、好きな音楽を教え合ったりしていた。リンキンパークとかリンプビズキットとかゼブラヘッドとかを教えてもらって、大学へ行ったら音楽やろうと盛り上がった。二人でいくつかあるバンドサークルの1つに入って、新入生のライブに出た。私はギター同級生はベースでバンドを組んでエルレガーデンの曲をやった。同級生はそのあと部活を辞めたが私は辞めなかった。自分と趣味が合いそうな人が数人いたし面白そうと思う先輩がいた。友だちは自分より少し偏差値の低い大学に入って、大学とは別のところがやっている、小学生の課外活動を引率するボランティアサークルに入った。そこでは初めに呼び名を付けるらしかった。変なの、と思った。

大学で友人ができなくて時間があり、よく友だちと映画を観に行った。松っちゃんの『しんぼる』と『さや侍』と三谷幸喜の『ザ・マジックアワー』を観た。『ザ・マジックアワー』の、佐藤浩市がナイフを何回も舐めるシーンで笑った。友だちは松っちゃんがやるみたいに腕を曲げて関節の部分で口を押えて笑う。

友だちはパチンコを始めた。私も一緒に行ったことがある。稲中卓球部の1円パチンコ(1円につき1つ玉を使えるので4円で1つ玉を使う4円パチンコよりも長く遊ぶことができる、ローリスクローリターンのパチンコ)を打っていたら確変大当たりが出て、主題歌である筋肉少女帯の「踊るダメ人間」が流れた。玉がたくさん出て止まらなかった。閉店の少し前に行ったので確変の途中で店員に店を出るよう言われた。その後エヴァンゲリオンの劇場版を観に行った。パチンコで勝っている時は奢ってくれることがあったが、当たりが終わらなくて約束の時間に遅れてくることもあった。私は時間が惜しいという意識があってその後はしなかった。
友だちはよく宝島社のミステリー小説に選ばれる本を読んでいて、貸してもらうことがあった。有名な文学作品を読むようになってからは宝島社のミステリー小説と、それを読む友だちを馬鹿にした。

友だちの家の玄関には浜田省吾のポスターが貼ってある。当時は私の最寄りから一駅のところに友だちの家があった。
2人で「バーチャルプロレスリング2」というニンテンドー64のプロレスゲームにはまって、私は「ニクソンブレイシー」というヒクソングレイシーをモデルにしたキャラを気に入って使った。コントローラーのBボタンを長く押すと出せる強パンチが当たると何回かに一回相手が失神する。そこだけリプレイが流れるのが面白かった。失神した状態で少しするとTKO勝ちになる。友だちは主にミルマスカラスをモデルにした覆面レスラーを使って、Aボタンで組み技をかけてくる。組み技で倒れた相手に近づいた状態でAボタンを押すと出せる絞め技で、ギブアップを狙う。やってるうちに熱くなってきて、組み技を掛けるときの手を掴んで肘をねじる動作を指して
「その、こねるみたいな技やめろおもんないから」と非難した。友だちは友だちで
「お前がやってるのはプロレスじゃない」と言ってきた。
1個白星が先行したら負けてるほうは正座しながらゲームしなければいけない、2個先行なら負けてる方は勝ってる方に敬語を使わないといけない、3個負けてる方は勝ってる方がつまらないこと言っても笑う「接待ゲーム」をしなければいけない、とか勝手にルールを付けたりもした。3個負けているときは「その服新しく買ったんですか、お似合いですね!」と言いながら画面上で相手を殴りまくったりロープで反動をつけた打撃を喰らわしたりしていた。
勝負がつくと、試合終了までにかかった時間と「〇〇、××に辛くも勝利!」みたいにスポーツ新聞の試合後の記事を模したものが表示される。一度、すごい速さで試合が終わったことがあった。試合開始直後私のニクソンブレイシーがタックル攻撃(Cボタンでダッシュ、ダッシュした状態でBボタンを押すとタックル攻撃。一度で相手を失神させることがある)を仕掛けたのに対し友だちがタイミングよくAボタンを押し、ミルマスカラスが掴んでカウンターで引き倒す。そのまま固め技を決め3カウント勝利した。自分たちでやっていながら何が起こったのかわからなかったのだが、試合後の画面で「試合時間4秒ニクソンブレイシー、瞬殺!」と出てやっと状況を理解し、しばらく笑った。

大学に慣れてくると、家で遊ぶというよりは空いた時間に喋るぐらいで済ませることが多くなった。場所は友だちの家と私の家のだいたい中間に位置する公園で、真ん中に池があった。帰りは話を伸ばしたり切り上げたりしてお互い自分の家の近くで解散しようと画策した。友だちは引率する子供たちがいかにかわいいか語った。羨ましいとは思わなかったけれど、楽しくやっているなと思った。自分は軽音の話をよくした。2回生の終わりに部活を選んだきっかけである先輩とバンドをやることになった。先輩と遊んだり知らないバンドを教えてもらったりしていると自分も面白い人になった気がして得意だった。
大学に入って変わったのが、友だちとは女の人の話をするようになったことだ。アルバイト先で知り合った人と心斎橋にバンドのライブを観に行って物販のTシャツをおそろいで買ったとか、マクドナルドヨーグルトシェイクを飲んだとか、楽しかったことを話した。でも、その人が伏見稲荷で狐の煎餅を売っている店に入った時に「これ会社の同期に買おう」と言っていて、ああこの人は違う集団の人なんだと思って落ち込んだこととか、喋りたいからお腹が空いたと嘘を言ってレストランに行ったけど話題がなくてドリアを無理やり食べながら就職活動の相談をしたこととか、その楽しさや面白さを伝えるのに邪魔になるようなことは迷った結果、言わなかった。友だちは、サークルで知り合った女の人とUSJに行った話をした。私は、聞きながら自分の話している人の方が素敵だと思っていた。友だちの方も同じで、聞くというより自分の話すタイミングを窺っていたんじゃないかと思う。女の人の話ができたのは、もう違う集団の人だったからかもしれない。

ぼんやりしていた友だちの嫌な部分が明確になってきて、卓球部のFと三人で会った時に友だちがFからよく金を借りていてその日も5万円借りようとしているのを知った。友だちとFはよくパチンコを一緒にしていて困った時は貸し合っているらしい。二人のお金の貸し借りを見たくなかった。
「俺のいるときには借りないでくれ、それにお前も貸すなよ」
「うーん、はは」
「お前には関係ないやろ」
「人から借りた金でボランティアするな」
「お前には関係ないやろ」
と、3人で居たイオンのゲームコーナーで友だちと言い合いになった。
ついにはメダルゲームの機械のところで
「お前は悪いやつじゃないけど金に汚いな」と言った。
「は?」
Fが笑った。
「悪いやつじゃないって付けてるだけでものすごい否定をしてるやんな」とFは言った。
その時の友だちの顔を思い出すことが出来ない。結局Fはイオン銀行でお金を下ろして友だちに貸した。

大学を卒業してから、週5日で働けるアルバイトを始めた。地元のスーパーの鮮魚部門の塩干という、塩鯖とかいかなごのくぎ煮とか数の子とかを扱うところで、商品をパックに詰めて並べたり客の質問に答えたりするのが仕事だった。アルバイトを始めてから少しして、土曜日にやっている構成作家の養成講座へ行き始めた。お笑いとかお笑い番組をやりたいと思ってネットで検索した。事務所にもよるがお笑い芸人の養成所に通うためには40万円とか60万円を一括で払わないといけない。私の見つけたところは6か月10万円、それも分割で払うことが出来たので、そこならば通うことができた。大喜利を作家の先生に見られながらやったり自主公演をやっているプロレス団体の試合を見学したり新世界でやるキン肉マンのイベントを手伝ったりした。通っていたのは私を入れて三人。
このことを牛丼屋で友だちに言った。
「前からお笑い好きやったもんなあ。でも、自分が一番面白いっていうのは、大阪の人やったら誰でも一回は思うことなんちゃう」
「そうかなあ」
店を出て自転車に乗って互いの家の中間地点まで帰った。友だちは引っ越して家が前より2駅分遠くなったので中間地点をどこにするか迷った。途中友だちが、「あいうえお作文やろか」と言い出した。モノレールとか、大阪大学とか、目に付いたもので延々あいうえお作文をした。

友だちは欠席を繰り返して大学を留年になり、親に休学させられた。

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秋ごろ、友だちに呼ばれて公園へ行った。いつもはふざけたやりとりをしているのにその日は「お疲れ、今日公園来れる?」と用件だけで、変だなと思った。アルバイトが終わって公園に向かった。空が曇っていた。そわそわしていて私にもそれが伝染する。友だちは立ち上がって、「走ってくる」と言った。池の周りはランニングコースになっている。うんと言ってベンチから友だちが走っているのを見た。帰りたいと思いながらも動けなかった。池の周りを一周して帰ってきた友だちはちょっと休憩して、「2万貸してくれ」と頭を下げた。なんとなく分かっていたけどやっぱりそうか、と思った。なんとなく私が分かっていたことに気づいてくれているかな、とも思った。友だちは何を思って走っていたのだろう。私の反応を考えていたのか、金の使いみちのことを考えていたのか。どれとも違うことか。何も考えていなかったのか。貸してやることにした。自転車で移動して金を下ろし友だちに渡した。そのあと近くにあるラーメン屋に入った。私はとんこつラーメン、友だちはとんこつラーメンとライスを頼んだ。ラーメンを食べながら私にも話すタイミングを窺っていることがあった。

夏ごろに付き合う人ができた。私は社員に誘われた飲み会へ行き、そこにいた、別の店舗で働いている女の人と話した。何回かメールをしたり食事をしたりした。このことは既に言っていて、友だちは、3回会って告白しなかったらその次はない、とボランティアサークルの先輩から得たと思われる情報を教えてきた。ばかかとその場では笑っていたが、私は焦り実行に移した。それで夏から秋にかけて自転車や電車でどこかへ行ったり彼女の家に居たりした。
友だちに金を貸す数日前のことだが、彼女が私と付き合っているということを職場で言ったらしい。それが私を飲み会に誘った社員を経由して広まっていた。鮮魚部門の社員には、もともと会社員として雇用されて配属された人と、魚屋で働いていたが何らかの事情でここにきた人がいた。雰囲気や話し方でなんとなくそれが分かった。嬉しそうな人の多くは前者で、きたないと思った。彼女に対しては思い出とか職場の話題とか、付き合ってると言いたいがために付き合っているんじゃないか、という気持ちが生じた。それは自分の中にある考えだった。私は広まるのがいやだと思っていて、ということは自分にはこの人と付き合う気が本当はないのかな、とも思った。彼女にこのことは言えなかった。
これを聞いた友だちは、彼女がおるだけええやんか贅沢やで、と言った。家に帰って友だちがボランティアの人とフォローし合っているツイッターを見たら「友だちがこういう話をしていた、甘えるな彼女がおるだけで幸せやっちゅうねん」と書き込みをしてボランティアの女が共感する旨をリプライしていた。投稿された時間はだいたい自分と一緒にいる時間だった。私は面白くもないのに笑った。後日彼女に会った時「2万円を貸した友だちに説教されてネットに悪口を書かれた」と良いように改変し彼女に不信感を持ったことを伏せて話した。彼女は憤慨してくれた。友だちにツイッターのことは言わなかった。

2万円を返してもらう日、ついでに風呂に行こうかという話になってスーパー銭湯で待ち合わせをした。夜、待ち合わせの時間を過ぎても友だちが現れない。電話すると互いに自分の家に近い銭湯に行っていることが分かった。どこの銭湯に行くかちゃんとは決めていなかったが、メールを見返すと、友だちの待っている銭湯の方が待ち合わせ場所として正しいことに気づいた。ただ私は友だちの方に行くのが嫌で、借りたんだからおまえが来いと言った。友だちは不服な顔で自分のいる銭湯に現れた。金を受け取って風呂に入って帰った。

11月に講座に行くのをやめた。読者モデルのファッションショーの手伝いをする予定があって、どうしても参加したくなかった。12月に修了するまでは土曜日の19時から講座があったのだが、親にやめたと言えなくて普段と同じ18時ぐらいに家を出て22時ぐらいまで時間を潰していた。最後の日も家から歩いて1時間ほど離れたところにある川の堤防に座っていた。作家の先生がメールをくれたが返さなかった。アルバイトもやめることにした。お金が貯まったから職業訓練に行ってパソコンの資格を取る、と親に言った。社員にも同じことを言った。職場の人が今後について質問をしたり食事に誘ったりしてくる。話しかけてこないでくれ嫌な気をしたくないしさせたくないからと思っていると、人と話すのが脅威になった。その人に悪意があるかどうか、会話の最後になってみないとわからない。今後のことを決めていない私が何を答えても嘘になる。それでも気にかけてくれている人がいるかもしれないと思って喋った。

12月に1週間かけて北海道を旅行した。帰ったあと付き合っている人と会い、旅行のお土産を渡した。出発の前日まで旅行に行くことを言っていなかった。その日の晩にメールが来て今後は会わないことになった。1月から職業訓練へ行ってパソコンの資格を取ったあとそこで雇われた。翌日の準備を終えて職場を出ると帰宅が夜10時を過ぎることもあった。その分、私にとって高い給料が毎月振り込まれた。春になって友だちに6000円貸した。貸すことへの葛藤があまりなくなっていた。友だちが池の周りをマラソンをすることもなかった。興味を持っていたハンターハンターを全巻貸してやる。このころiPhoneを買って友だちと話す手段がLINEになった。
友だちから、健康診断で必要だから金を貸してくれとLINEが来た。私は6000円が返っていないことを理由に断った。以来友だちとは会っていない。卓球部のFに聞いても連絡がないという。8月だった。

私は自分のことを裏切られた、金以外に用の無い人間と思いたくなかった。それで友だちに金を貸して逃げられたという冗談として人に話そうとしたのだがうまくできない。友だちは保育園で働いていて6000円は給料の1日分にも満たない金だから、返せないわけではなかったと思う。金のことはただのきっかけで友だちは私とのかかわりを断ちたかった、これが可能性の高い事実だった。金以外にも頼りになるほど私が友だちとの関係を大事にしていたかというと違った。喋っていてなんのために俺はこいつと会っているんだ、時間を引き伸ばすために喋ってるだろという気持ちで話を聞いていることがあった。
それでも自分の価値みたいなものを諦めきれなくて経済的な理由、もしくは友だちのどうしようもない事情とかであればいいなと思った。6000円返せないほど困っていてほしい。友だちが心配という気持ちはあってこれも嘘ではない。友だちの家に行ってみることにした。2月になっていた。

仕事が終わって自宅の最寄り駅から、引っ越して3駅離れたところになった友だちの家に自転車で行った。電車で行かないのは家が駅から離れたところにあって行き方がよく分からなかったから。スマートフォンの地図アプリで見ると20〜30分の距離だが1時間以上かかった。これまで自分の家の近くで待ち合わせてもらっていたから困ることはなかったが、一人で行くと道を覚えていなくて何回も引き返した。途中にあるココスや公園は覚えているので何とかたどり着いた。ばら園が見えて友だちの家に来たという感じがする。
家の前に着いたものの、どうしたらいいか分からない。そういえばチャイムを鳴らしたことがなかった。ドアの前を通ると一回一回防犯の電気が灯く。安心したのは家が無くなっていなかったことだ。けっこう最悪のことを考えていて、家庭の問題で友だちがどこかに消えてしまったんじゃないか、とまで思っていたので家と家の表札を見て安心した。近くの公園の遊具のところに座って再度家の前まで行き、自販機で買った100円のコーヒーを飲んでからチャイムを押そうと思って畑の前に立っていた。
ジョギング中の男が自分の姿を見てUターンして別の方向に走って行った。私は、友だちだ、と思って自転車に乗った。男は歩いていたため追い付くのは容易だった。追い越して「オ」と言いながら顔を見たらマスクで顔の下半分が隠れていたが、多分違う人だった。オイって言わなくてよかった。家の前に戻ったが、決意が揺らいでしまって腕を組んだままウロウロしているとドアが開いて友だちの父親が出てきた。
「すいません、」
「はい」
友だちは元気で今は夜勤に行っているらしい。また連絡するよう言うときますわ、と言っていた。何しに来たのかは言えなかった。

国道に出たら迷わず帰ることが出来た。

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