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街や森で思うことがある。心に残ることがある。訴えたいことがある。
日本各地の樹木や自然、風景を見て回りつつ、この記録をつけている。

2016-10-19 連載・亜熱帯の森から 6

[森]沖縄のビーチの名脇役・アダン

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海辺に生えたアダン。葉が傷んでいるが台風にも強く、大きな葉は長さ1mに達する


 海岸の道端に車を停め、木陰を抜けたら、目の前に白いビーチが広がる……。南の島に訪れた人の多くが経験する感激の瞬間です。このシーンで、南国らしさを演出してくれる名脇役の「木陰」が、タコノキ科のアダン(阿檀)です。

 アダンは奄美大島や沖縄から東南アジアにかけての亜熱帯〜熱帯に分布する代表的な海岸植物で、波しぶきがかかる海岸最前線の砂地や岩場によく群生します。自然のビーチに行けば必ずといっていいほど見られ、台風の時は潮風を受け止める天然の防風林の役目も果たしています。

 外観はヤシに似ていますが、幹がやや地をはうように曲がり、所々から径10cm弱の気根を出し、いびつな樹形で樹高3〜5mになります。同じ仲間で小笠原に分布するタコノキは、幹が直立し、根元近くに気根を出すので、いかにもタコ足のように見えてユニークです。


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果実はオレンジ色に熟し、いかにもパイナップルに似る


 アダンといえば、パイナップルに似た果実をぶら下げることで知られます。観光客がパイナップルの木と勘違いするのはよくある話ですが、本物のパイナップルは畑で栽培される高さ1m以下の草で、上向きに果実がつく別の植物です。

 そんなアダンの木に近づこうとすると、葉のふちや裏側、幹にたくさんの鋭いトゲがあることに気づくでしょう。こんなにトゲだらけの木が群生している訳ですから、アダンの林を人が通り抜けることはほぼ不可能です。

 ところが、アダンの林内を盛んに行き来する生き物がいます。ヤドカリです。アダンの木の下で耳を澄ませると、ガサ、ゴソ、と小さな音が聞こえてきます。ヤドカリ類はアダンの果実が大好物。熟して落ちた果実に、オカヤドカリをはじめ大小のヤドカリがよく集まり、夜には体長30cm前後にもなるヤシガニ(といってもヤドカリの仲間)もアダンの木に登って果実を食べます。


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落下してばらけた果実をヤドカリが食べに来る


 発酵したアダンの果実は、フルーティーな甘い香りを漂わせ、ハナムグリやクワガタなどの昆虫も寄せ集めます。人間にとっても美味しそうに感じますが、かじっても堅い繊維ばかりで、残念ながらまともには食べられません。ただ、昔はその汁をおやつ代わりに吸ったといいますし、繊維の中にある種子を食用にする文化もあります。


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葉はふちと裏に鋭いトゲがあるが、新芽の基部を食べる文化もある


 人間生活と関わりが深いのは、果実よりもむしろ丈夫な葉や繊維でしょう。沖縄でも古くから葉を乾燥させて、ゴザ、カゴ、草履、座布団などが作られたほか、気根の繊維からは縄や筆も作られました。昭和初期には、アダンの葉で作ったパナマ帽(本来はパナマソウで作る)がブームになり、海外に輸出するほどの一大産業に発展し、当時は沖縄県内のアダンがかなり減ったといわれます。しかし、化学繊維など代替品の登場により、現在はアダン製品を見る機会はすっかり減り、帽子作りの職人さんもごくわずかになってしまったそうです。

 そんな中、今も昔も親しまれているのは、アダンの葉で作った風車でしょうか。葉のトゲをナイフなどで取り、半分に裂いたものを組み合わせて作ります。沖縄では風車を「カジマヤー」と呼び、昔ながらのおもちゃとして今も子どもたちに伝承されています。また、97歳を迎えると童心に戻るといわれ、風車を持たせてパレードし、長寿を祝う風習もあります。

 時代は変わっても、アダンは沖縄の原風景であることには変わりないようです


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アダンの葉で作ったカジマヤー(風車)。沖縄の昔遊びでよく見かける



※この文章は、いけばな小原流の会員誌『挿花』で2015年1〜12月に掲載した連載記事「亜熱帯の森から」を一部修正したものです。

2016-05-18 連載・亜熱帯の森から 5

[]ソテツ列島・沖縄

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 ここは海を見下ろす断崖絶壁の岩場。夏は台風の暴風がたたきつけ、冬は強い北風が吹き続ける、そんな岩壁に力強く育つのが、野生のソテツ(蘇鉄)です。他の木が生育しにくい場所で、岩の隙間に根を伸ばすソテツは、樹高2〜5mほどになり、ほとんど枝分かれすることなく、幹の先に針状の葉を広げる姿が特徴です。このような場所は、時にソテツばかりの壮観な群生地となります。

 なぜソテツは、この厳しい環境で育つことができるのでしょう。それは、他の木々と違って、太く丈夫な幹をゆっくり伸ばすこと、葉も硬くて丈夫で、潮風の被害を受けにくいこと、そして、根に根粒(こんりゅう)と呼ばれる突起があり、藻類(そうるい)や細菌類が共生し、栄養となる窒素を吸収できることなどが考えられます。

 ソテツといえば、日本本土では品格の高い庭木や、学校や公園の記念樹としてよく植えられていますが、野生のソテツが見られるのは、九州南部〜沖縄、台湾、中国南部にかけての亜熱帯地方です。ある研究者は、琉球列島を「ソテツ列島」と名づけたほど沖縄にはソテツが多く、岩場のある海岸に行けば普通に出会えます。

 庭木としては本土ほど見かけませんが、世界遺産の首里城今帰仁(なきじん)城跡、勝連(かつれん)城跡、中城(なかぐすく)城跡などには多く植えられており、城の石垣にへばりついたソテツが見られるのも、沖縄ならではの光景です。


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 ソテツは一見ヤシに似ていますが、まったく分類の異なるソテツ科の裸子植物で、針葉樹にも広葉樹にも含まれない特殊な樹木です。雄株と雌株があり、雌株は秋に朱色の果実をつけます。この種子は有毒ですが、デンプンが含まれるため、戦時中など食糧不足の時代には、水に浸して発酵させてアクを抜き、救荒用によく食べられたようです。しかし、決して美味しいものではなく、中にはアク抜きが不十分で中毒死する人もいたといわれ、当時の苦境は「ソテツ地獄」と称されたといいます。逆にいえば、ソテツは南国の人々を救った貴重な存在ということですね。

 今となっては一般の人が食べる機会はなくなりましたが、奄美大島(あまみおおしま)や粟国島(あぐにじま)などでは、ソテツの種子を原料にした「蘇鉄味噌」が現在も製造・販売されています。


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 ちなみに、私はまだソテツを食べていないのですが、移住後の一年間の沖縄生活で、ソテツを目にする機会が3度ありました。

 一つは、地域文化を伝える体験イベントや、保育園で先生たちが作ってくれたソテツの葉の虫かごです。ソテツの葉先は鋭く痛いので注意が必要ですが、ひと昔前までは子ども達が日常的に遊んでいたといわれ、プラスチック製に勝る格好良さがあります。

 二つ目は、旧盆に行われるエイサー祭りでのことです。旗頭(はたがしら)と呼ばれる背の高いのぼりが振られるのですが、その先端によく飾られていたのがソテツの葉でした。旗頭は地域のシンボルや守り神ともいわれ、ソテツが文化に根ざしていることがわかります。

 三つ目は、海岸を歩いていた時に拾ったソテツの種子です。沖縄では漂着物として多く打ち上げられ、時には関東地方まで流れ着くこともあるようです。こうして島々に分布を広げていったソテツは、気づかない所であなたの町にも流れ着いているかもしれません。


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※この文章は、いけばな小原流の会員誌『挿花』で2015年1〜12月に掲載した連載記事「亜熱帯の森から」を一部修正したものです

2016-03-07 連載・亜熱帯の森から 4

[]沖縄の香りが漂う葉 〜ゲットウ

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公園に生えた開花中のゲットウ。沖縄ではごく普通に見られる光景(那覇市


「この葉っぱ、いい匂いがするよ。」

 沖縄市の公園で出会った二人の少年に僕が葉を差し出すと、少年たちは、

「ムーチーの匂い!」

「ムーチーの葉っぱ!」

と声をそろえて言いました。

 ムーチー? そんな植物あったかな? 一瞬戸惑いましたが、すぐにそれが沖縄の餅(ムーチー)を指していると気づきました。餅を包む葉と言っているのです。僕がゲットウ(月桃)という名前を教えると、二人は「知らない」と言います。どうやら沖縄の子どもたちの間では、ゲットウの和名よりお餅を包む葉として知られているようです。

 ゲットウは、草丈1〜3mになるショウガ科ハナミョウガ属の多年草で、アジアの亜熱帯〜熱帯域に分布し、日本では鹿児島県南部〜沖縄県全域に普通に見られます。葉は幅10㎝、長さ50㎝前後に達し、ミントにも似た香りと殺菌効果があるため、沖縄では餅やまんじゅうをはじめ、魚や肉を包む葉としても利用されています。園芸用には、葉に黄色い斑〈ふ〉が入った園芸品種のキフゲットウも時に植えられます。

 少年たちの言っていたムーチーは、沖縄で旧暦12月8日頃(新暦の1月下旬〜2月上旬)に健康や長寿を願って食べる鬼餅のことで、その時期はゲットウの葉で包んで蒸した餅があちこちの店頭に並びます。我が息子も保育園でムーチー作りを体験し、独特の香りがしみついた黒糖味や紅イモ味の餅を美味しそうに食べていました。

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ゲットウの葉で包んだムーチー。沖縄伝統のおやつ


 ゲットウが花をつけるのは4〜6月頃です。「月桃」の名は台湾での呼び名に由来するといわれますが、先端がピンクを帯びるつぼみが桃の果実に似ており、それを三日月形にぶら下げるためともいわれ、美しい花にメルヘンチックな想像をかき立てられます。

 沖縄では「サンニン」「サニン」などの方言名もよく使われており、これはタネを植えてから約「3年」経たないと花が咲かないためという説と、同じショウガ科で中国原産の生薬「砂仁〈しゃにん〉」に似ているためという説があります。ゲットウの乾燥させた種子も生薬として胃薬に利用され、お茶にして飲んだりもします。

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ゲットウの花。花序の基部の花から少しずつ咲き、花弁は黄色地に赤い模様が入る


 近年では、ゲットウの独特の香りを活かしたアロマオイル、石けん、化粧水、防虫剤、防カビ剤などの商品が増えているほか、月桃茶、月桃そば、月桃ちんすこう(私は好みではなかった)なるものも見かけます。また、茎の繊維は収穫したサトウキビをしばる縄に利用されるほど丈夫で、月桃紙と呼ばれる和紙も作られています。

 このように多様な用途のあるゲットウは、沖縄を代表する植物の一つといえ、庭や公園、畑の脇などによく植えられるほか、人里周辺の草むらや林縁〈りんえん〉(林のへり)にたくさん野生状に生えています。けれども、ゲットウが沖縄本来の在来種なのか、古くに台湾やインドなどから持ち込まれたのかは、意外にもはっきりわかっていません。

 近年の研究では、沖縄の大東島や東京の小笠原、八丈島に産する花の大きな個体(通称タイリンゲットウ)を、ゲットウの変種ハナソウカ(花束荷)として区別する見解もあります。ハナソウカは植物体に含まれる精油成分も多く、アロマ産業ではゲットウよりむしろ多く利用されており、今後も注目が集まります。

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赤橙色の果実の中に白い種子が入っている。葉は台風で裂けている


(参考文献:船越英伸「月桃の和名・学名・地方名の解説と精油成分の地理的変異」)

※この文章は、いけばな小原流の会員誌『挿花』で2015年1〜12月に掲載した連載記事「亜熱帯の森から」を一部修正したものです。

2016-01-24 連載・亜熱帯の森から 3

[]奇妙な根が守る生態系 マングローブのヒルギ類

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沖縄本島最大の慶佐次〈げさし〉のマングローブ林に見られるヤエヤマヒルギ


 南国の海は、白い砂とエメラルドグリーンのサンゴ礁ばかりではありません。川から土砂が流れ込み、茶色く濁った水と、べとべとの干潟が広がる海もあります。そんな海と川の境目に見られる林が、熱帯特有のマングローブです。

 初めてマングローブを見た人は、水中に根を下ろす木々の姿に驚くことでしょう。満潮時に水没し、干潮時に干潟になる場所(潮間帯〈ちょうかんたい〉)に育つので、水中でも酸素不足にならない仕組みや、ぬかるんだ湿地でも木が倒れない構造が必要になります。そのため、マングローブの木々は、独特の形をした根が発達するのです。

 ここで要注意ですが、「マングローブ」とは、特定の植物の名前ではなく、前述のような場所に成立した林や植物の総称です。東南アジアをはじめ、世界の熱帯地方に見られ、日本では沖縄から鹿児島の一部に点在します。マングローブを構成する植物は日本に10種弱あり、数的にはヒルギ科のヤエヤマヒルギ、オヒルギ、メヒルギの3種が大半です。種子は樹上で発根して海面に落ち、漂〈ただよ〉い着いた場所に根を下ろすため、漂木〈ひるぎ〉の名があります。

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メヒルギの幼木。棒状の根を出した胎生種子は長さ約20cmあり、地面に突き刺さる(奄美大島)


 これら3種は、根でも見分けることもできます。ヤエヤマヒルギはタコ足のような支柱根〈しちゅうこん〉を多数出し、オヒルギは膝を曲げたような膝根〈しっこん〉と呼ばれる呼吸根〈こきゅうこん〉を出し、メヒルギは根元に小さな板状の板根〈ばんこん〉ができます。

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オヒルギの根。幹の根元に短い支柱根が出て、周囲の根が膝のように立ち上がる(沖縄本島金武町)


 板根といえば、同じくマングローブ植物のサキシマスオウノキアオイ科)が有名です。高さ1mにもなるカーテンのような板根が発達し、先島〈さきしま〉諸島の西表島〈いりおもてじま〉では観光名所にもなっています。これも、干潟で巨体を支えるための工夫なのです。

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サキシマスオウノキの板根。硬いゴム質で湿地に生えるものほど発達する(西表島)


 マングローブでもう一つ驚かされるのは、そこに棲む個性的な生き物たちです。私の息子は「トントンミー見たい! マングローブ行こう」と言います。トントンミーとは沖縄の方言でトビハゼ(ミナミトビハゼ)のことで、カエルのように水際をトントン飛び跳ねるので、沖縄ではちょっとしたアイドル的存在です。他にも、大群でハサミを振るカニのシオマネキ、誰がこの山作ったの?と思うような高さ1mもの塚をつくるオキナワアナジャコ、幅10cmもある巨大シジミのシレナシジミなど、見慣れない生物が多数生息しています。

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泥の上をはうミナミトビハゼ


 また、複雑に入り組んだヒルギ類の根は、稚魚のゆりかごとしての役割があり、これらの生き物を狙って大型魚や水鳥も集まり、豊かな生態系が成り立っています。2004年のスマトラ沖地震では、マングローブの林が津波の被害を軽減したことで、天然の防波堤としても注目されるようになりました。

 このようなマングローブも、開発や伐採によって世界的に消失が進んできました。そこには、私たち日本人の生活も関係しています。冷凍エビやバーベキュー用の炭を買う時、多くは熱帯のインドネシアやマレーシア、タイ産であることにお気づきでしょう。それは、マングローブを伐採して造られたエビ養殖場で育ち、マングローブの木から作られた木炭である場合が多く、それを最も多く輸入しているのが日本です。

 一方、近年はマングローブの植林も盛んになり、那覇市漫湖公園では、植林したマングローブが広がりすぎて、一部伐採するほど旺盛に育っています。自然のたくましさを教えてくれるのも、またマングローブの一面です。


※この文章は、いけばな小原流の会員誌『挿花』で2015年1〜12月に掲載した連載記事「亜熱帯の森から」を一部修正したものです。

2016-01-11 連載・亜熱帯の森から 2

[]太古の森へタイムトリップ!? 〜ヘゴの仲間

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見ると人を圧倒するヒカゲヘゴの林(沖縄本島大国林道)


 ここは太古の恐竜が棲む森か。そんな連想をかき立ててくれるのは、樹木のように背が高くなる木生〈もくせい〉シダの「へご」です。恐竜は出てきませんが、ヘゴ類が茂る沖縄の山地では、全身緑色のキノボリトカゲがよく姿を現します。

 ヘゴ類は、ヘゴ科ヘゴ属の常緑性シダで、日本にはヘゴ、ヒカゲヘゴ、クロヘゴ、マルハチなど数種が亜熱帯に分布します。中でも幹の高さが5〜15mと最大になり、沖縄で最もよく目につくのはヒカゲヘゴです。北は奄美大島、南は台湾、フィリピンまで分布し、日当たりのよい湿った場所にしばしば群生します。長さ3mにもなる大きな葉を広げ、爽快な日陰を作ってくれます。一般に「へご」「へごぜんまい」と呼ばれているのは、このヒカゲヘゴである場合が多いようです。

 これに対して植物学でいうヘゴは、高さ5m以下と低く、主に九州南部〜沖縄に分布しますが、暗く湿った林内に生えるので、目につきにくい存在です。クロヘゴ(別名オニヘゴ)は沖縄の林内によく群生しますが、高さ1.5m以下と小さく、迫力に欠けます。小笠原に特産するマルハチは、ヒカゲヘゴによく似て高さ10m以上にもなります。

 沖縄本島の南部にある那覇から、北へ向かってドライブすると、中部の沖縄市読谷村から広い森や山が現れ始めます。ヒカゲヘゴが現れるのもこのあたりからで、山原〈やんばる〉と呼ばれる自然豊かな北部に行くと、さらに増えます。沖縄本島南部は、石灰岩地でガジュマルやアカギが多く生えるのに対し、北部はいわゆる赤土の酸性土壌で、シイやマツの林が広がっており、ヒカゲヘゴが好むのもこちらの土質です。

 ヒカゲヘゴはシダ植物ですから、花や果実はつけず、葉の裏に胞子をつけて増えます。幹の頂点から生える新芽を見れば納得。グルグルと巻いた幼い葉は、直径10cm前後の巨大なゼンマイ形で、圧巻です。毛むくじゃらの皮をむくと食べることもでき、山芋に似た食感で、生はネバネバと糸を引き、天ぷらや酢の物にしてもクセがありません。しかし、山菜文化のない沖縄では、摘み取る人が少ないのは意外です(※一部地域では採取禁止されているようです)。

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ヒカゲヘゴの新芽や葉柄は金色の毛で覆われる。ヘゴやクロヘゴの葉柄は黒っぽく毛は少ない


 ヒカゲヘゴのもう一つの個性は幹です。円の中に「八」の字が逆さまになったハンコのようなマークがたくさんあります。これは葉が落ちた痕の葉痕〈ようこん〉で、水分や養分が通る維管束〈いかんそく〉の断面が八の字形に並んでいるのです。この葉痕はヒカゲヘゴとマルハチの特徴で、「丸八」の名の由来にもなっています。一方、ヘゴやクロヘゴの幹には丸八マークはなく、葉柄基部が突起状に残ります。

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ヒカゲヘゴの幹には逆八の字形の葉痕が並び、黒いヒゲ状の不定根がはえる


 通常の樹木は、幹が年々太くなる(肥大成長)のに対し、ヒカゲヘゴの幹は肥大成長をせず、代わりに表面から細い根〈不定根:ふていこん〉を多数出し、これが年々幹を覆って太くなります。古い幹では丸八マークも覆われて見えなくなり、幹の基部が扁平に広がって幅1mに達することもあります。根に覆われた幹は、ゴツゴツした多孔質で植物が付着しやすいため、「ヘゴ板」などの名で園芸資材に利用されています。

 このように野趣あふれるヒカゲヘゴは、内地(北海道〜九州)でも稀に丈1m前後のものが観葉植物にされるようですが、沖縄ではヤシ類やソテツより少ないものの、民家の庭先に時折植えられており、園芸店では小鉢が2千円前後で売られています。内地からの移住者の私としては、将来自宅の庭にヒカゲヘゴを植えるのが一つの夢です。


※この文章は、いけばな小原流の会員誌『挿花』で2015年1〜12月に掲載した連載記事「亜熱帯の森から」を一部修正したものです。