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街や森で思うことがある。心に残ることがある。訴えたいことがある。
日本各地の樹木や自然、風景を見て回りつつ、この記録をつけている。

2016-01-01 連載・亜熱帯の森から 1

[]1本の木でジャングル! 〜ガジュマル、アコウ

新年おめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。

沖縄移住2年目となった昨年2015年、生け花小原流の『挿花』という月刊誌で、花材に使われる沖縄の野生植物を紹介する連載記事「亜熱帯の森から」を書きました。沖縄に来ていろんな植物を見て驚いたり、感心したり、沖縄文化を勉強したり、そんな新鮮な気持ちを伝えつつ、楽しく書くことができました。せっかくですので、その内容に一部手を加えてこのブログで順次紹介したいと思います。

  * * *

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崖から根を下ろしたアコウと息子。根に巻きついているのは野生化した観葉植物のポトス(沖縄本島南城市


「あぁ、亜熱帯に来た!」

大きなガジュマルやアコウの木と対面したとき、私はいつもそう思います。

 艶やかな葉をつけた力強い横枝から、大小の根〈気根:きこん〉をのれんのように垂らし、大木ではどれが幹でどれが根か分からなくなるほど。しばしばタニワタリ類などの着生植物を樹上に従える様子は、まさにジャングル。たった1本でジャングルを演出してしまう、強烈な存在感があります。

 ガジュマルとアコウは、いずれもクワ科イチジク属の常緑高木で、沖縄から中国南部、東南アジアにかけて分布する熱帯性の木です。イチジクに似た小さな果実をつけ、気根を伸ばす姿がよく似ていますが、ガジュマルの葉はモチノキ程度の大きさなのに対し、アコウの葉は2倍以上大きいので見分けられます。

 私が沖縄に引っ越す時のこと。家探しのために集落に入り込むと、生活道の分岐点でガジュマルの古木が目印になっていたり、児童公園の頭上をガジュマルの大木が屋根のように覆っていたり、息子を預ける保育園の庭に傘を広げたようなガジュマルが生えていたり。海岸の森を散歩すると、今度は巨大なアコウがタコ足のように根を這わせていました。子どもたちはこの木の下を毎日歩き、ブランコ遊びをし、木登りをして育つのです。なんと素敵な環境だろう、とワクワクしたものです。

 実際に沖縄では、公園や御嶽〈うたき:神を拝む神社のような場所〉、学校など、至る所で立派なガジュマルやアコウが見られ、沖縄人にとって最も馴染み深い木の一つになっています。特にガジュマルの古木には、キジムナーと呼ばれる子どもの精霊が住むといわれ、樹皮は赤茶色系の染料に使い、枝葉は本土のサカキと同じように地鎮祭で使うこともあるようです。

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公園の滑り台やブランコの頭上を覆うガジュマルの大木(沖縄本島読谷村


 ガジュマルを特徴づける気根は、はじめ細いヒモ状で枝から垂れ下がり、やがてその先端が地面に達すると、枝を支える支柱のように太くなるので、時にジャングルジムのような壮大な樹形になります。

 一方のアコウは、幹から根の下方に気根を這わせる傾向が強いので、岩に張りつくような樹形が多く、時に他の木の上に着生し、気根で締め付けてその木を枯らすこともあります。そのため、「絞め殺しの木」と呼ばれることもありますが、樹上に生えるのはむしろ稀で、多くは海に近い岩場に生えています。沖縄では別名「ウスクガジュマル」ともいい、これは「石垣に生えるガジュマル」という意味です。鬱蒼と茂るガジュマルとはひと味違い、根の力強さを感じさせる木です。 

 沖縄では最も寒い1月でも気温が15〜20℃前後あり、日本本土とは動植物の種類がガラリと変わるのが魅力です。東南アジアに見られる熱帯雨林と、温帯の日本本土で見られる照葉樹林〈しょうようじゅりん≒常緑広葉樹林〉の中間的な林が見られるため、一般に亜熱帯と呼ばれます。

 ガジュマルは最近こそ観葉植物として鉢物が東京でも売られていますが、野生の個体は屋久島が北限で、野外に植えて育つのは九州南部あたりまでと思われます。対するアコウは、鹿児島県でも野生の個体がかなり多く見られ、局地的には紀伊半島南部や山口県の離島まで分布しています。いずれにしても、ガジュマルとアコウは亜熱帯の風景を象徴する木といえます。

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住宅街の三叉路にたたずむ古い井戸とガジュマル(読谷村)


※この文章は、いけばな小原流の会員誌『挿花』で2015年1〜12月に掲載した連載記事「亜熱帯の森から」を一部修正したものです。

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