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街や森で思うことがある。心に残ることがある。訴えたいことがある。
日本各地の樹木や自然、風景を見て回りつつ、この記録をつけている。

2016-01-11 連載・亜熱帯の森から 2

[]太古の森へタイムトリップ!? 〜ヘゴの仲間

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見ると人を圧倒するヒカゲヘゴの林(沖縄本島大国林道)


 ここは太古の恐竜が棲む森か。そんな連想をかき立ててくれるのは、樹木のように背が高くなる木生〈もくせい〉シダの「へご」です。恐竜は出てきませんが、ヘゴ類が茂る沖縄の山地では、全身緑色のキノボリトカゲがよく姿を現します。

 ヘゴ類は、ヘゴ科ヘゴ属の常緑性シダで、日本にはヘゴ、ヒカゲヘゴ、クロヘゴ、マルハチなど数種が亜熱帯に分布します。中でも幹の高さが5〜15mと最大になり、沖縄で最もよく目につくのはヒカゲヘゴです。北は奄美大島、南は台湾、フィリピンまで分布し、日当たりのよい湿った場所にしばしば群生します。長さ3mにもなる大きな葉を広げ、爽快な日陰を作ってくれます。一般に「へご」「へごぜんまい」と呼ばれているのは、このヒカゲヘゴである場合が多いようです。

 これに対して植物学でいうヘゴは、高さ5m以下と低く、主に九州南部〜沖縄に分布しますが、暗く湿った林内に生えるので、目につきにくい存在です。クロヘゴ(別名オニヘゴ)は沖縄の林内によく群生しますが、高さ1.5m以下と小さく、迫力に欠けます。小笠原に特産するマルハチは、ヒカゲヘゴによく似て高さ10m以上にもなります。

 沖縄本島の南部にある那覇から、北へ向かってドライブすると、中部の沖縄市読谷村から広い森や山が現れ始めます。ヒカゲヘゴが現れるのもこのあたりからで、山原〈やんばる〉と呼ばれる自然豊かな北部に行くと、さらに増えます。沖縄本島南部は、石灰岩地でガジュマルやアカギが多く生えるのに対し、北部はいわゆる赤土の酸性土壌で、シイやマツの林が広がっており、ヒカゲヘゴが好むのもこちらの土質です。

 ヒカゲヘゴはシダ植物ですから、花や果実はつけず、葉の裏に胞子をつけて増えます。幹の頂点から生える新芽を見れば納得。グルグルと巻いた幼い葉は、直径10cm前後の巨大なゼンマイ形で、圧巻です。毛むくじゃらの皮をむくと食べることもでき、山芋に似た食感で、生はネバネバと糸を引き、天ぷらや酢の物にしてもクセがありません。しかし、山菜文化のない沖縄では、摘み取る人が少ないのは意外です(※一部地域では採取禁止されているようです)。

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ヒカゲヘゴの新芽や葉柄は金色の毛で覆われる。ヘゴやクロヘゴの葉柄は黒っぽく毛は少ない


 ヒカゲヘゴのもう一つの個性は幹です。円の中に「八」の字が逆さまになったハンコのようなマークがたくさんあります。これは葉が落ちた痕の葉痕〈ようこん〉で、水分や養分が通る維管束〈いかんそく〉の断面が八の字形に並んでいるのです。この葉痕はヒカゲヘゴとマルハチの特徴で、「丸八」の名の由来にもなっています。一方、ヘゴやクロヘゴの幹には丸八マークはなく、葉柄基部が突起状に残ります。

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ヒカゲヘゴの幹には逆八の字形の葉痕が並び、黒いヒゲ状の不定根がはえる


 通常の樹木は、幹が年々太くなる(肥大成長)のに対し、ヒカゲヘゴの幹は肥大成長をせず、代わりに表面から細い根〈不定根:ふていこん〉を多数出し、これが年々幹を覆って太くなります。古い幹では丸八マークも覆われて見えなくなり、幹の基部が扁平に広がって幅1mに達することもあります。根に覆われた幹は、ゴツゴツした多孔質で植物が付着しやすいため、「ヘゴ板」などの名で園芸資材に利用されています。

 このように野趣あふれるヒカゲヘゴは、内地(北海道〜九州)でも稀に丈1m前後のものが観葉植物にされるようですが、沖縄ではヤシ類やソテツより少ないものの、民家の庭先に時折植えられており、園芸店では小鉢が2千円前後で売られています。内地からの移住者の私としては、将来自宅の庭にヒカゲヘゴを植えるのが一つの夢です。


※この文章は、いけばな小原流の会員誌『挿花』で2015年1〜12月に掲載した連載記事「亜熱帯の森から」を一部修正したものです。