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街や森で思うことがある。心に残ることがある。訴えたいことがある。
日本各地の樹木や自然、風景を見て回りつつ、この記録をつけている。

2016-03-07 連載・亜熱帯の森から 4

[]沖縄の香りが漂う葉 〜ゲットウ

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公園に生えた開花中のゲットウ。沖縄ではごく普通に見られる光景(那覇市


「この葉っぱ、いい匂いがするよ。」

 沖縄市の公園で出会った二人の少年に僕が葉を差し出すと、少年たちは、

「ムーチーの匂い!」

「ムーチーの葉っぱ!」

と声をそろえて言いました。

 ムーチー? そんな植物あったかな? 一瞬戸惑いましたが、すぐにそれが沖縄の餅(ムーチー)を指していると気づきました。餅を包む葉と言っているのです。僕がゲットウ(月桃)という名前を教えると、二人は「知らない」と言います。どうやら沖縄の子どもたちの間では、ゲットウの和名よりお餅を包む葉として知られているようです。

 ゲットウは、草丈1〜3mになるショウガ科ハナミョウガ属の多年草で、アジアの亜熱帯〜熱帯域に分布し、日本では鹿児島県南部〜沖縄県全域に普通に見られます。葉は幅10㎝、長さ50㎝前後に達し、ミントにも似た香りと殺菌効果があるため、沖縄では餅やまんじゅうをはじめ、魚や肉を包む葉としても利用されています。園芸用には、葉に黄色い斑〈ふ〉が入った園芸品種のキフゲットウも時に植えられます。

 少年たちの言っていたムーチーは、沖縄で旧暦12月8日頃(新暦の1月下旬〜2月上旬)に健康や長寿を願って食べる鬼餅のことで、その時期はゲットウの葉で包んで蒸した餅があちこちの店頭に並びます。我が息子も保育園でムーチー作りを体験し、独特の香りがしみついた黒糖味や紅イモ味の餅を美味しそうに食べていました。

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ゲットウの葉で包んだムーチー。沖縄伝統のおやつ


 ゲットウが花をつけるのは4〜6月頃です。「月桃」の名は台湾での呼び名に由来するといわれますが、先端がピンクを帯びるつぼみが桃の果実に似ており、それを三日月形にぶら下げるためともいわれ、美しい花にメルヘンチックな想像をかき立てられます。

 沖縄では「サンニン」「サニン」などの方言名もよく使われており、これはタネを植えてから約「3年」経たないと花が咲かないためという説と、同じショウガ科で中国原産の生薬「砂仁〈しゃにん〉」に似ているためという説があります。ゲットウの乾燥させた種子も生薬として胃薬に利用され、お茶にして飲んだりもします。

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ゲットウの花。花序の基部の花から少しずつ咲き、花弁は黄色地に赤い模様が入る


 近年では、ゲットウの独特の香りを活かしたアロマオイル、石けん、化粧水、防虫剤、防カビ剤などの商品が増えているほか、月桃茶、月桃そば、月桃ちんすこう(私は好みではなかった)なるものも見かけます。また、茎の繊維は収穫したサトウキビをしばる縄に利用されるほど丈夫で、月桃紙と呼ばれる和紙も作られています。

 このように多様な用途のあるゲットウは、沖縄を代表する植物の一つといえ、庭や公園、畑の脇などによく植えられるほか、人里周辺の草むらや林縁〈りんえん〉(林のへり)にたくさん野生状に生えています。けれども、ゲットウが沖縄本来の在来種なのか、古くに台湾やインドなどから持ち込まれたのかは、意外にもはっきりわかっていません。

 近年の研究では、沖縄の大東島や東京の小笠原、八丈島に産する花の大きな個体(通称タイリンゲットウ)を、ゲットウの変種ハナソウカ(花束荷)として区別する見解もあります。ハナソウカは植物体に含まれる精油成分も多く、アロマ産業ではゲットウよりむしろ多く利用されており、今後も注目が集まります。

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赤橙色の果実の中に白い種子が入っている。葉は台風で裂けている


(参考文献:船越英伸「月桃の和名・学名・地方名の解説と精油成分の地理的変異」)

※この文章は、いけばな小原流の会員誌『挿花』で2015年1〜12月に掲載した連載記事「亜熱帯の森から」を一部修正したものです。