その漢字、どうよむの?――『角川大字源』の「古訓」欄が便利

 『古写本和名類聚抄集成』 - Cask Strengthのエントリ以来、教育的(?)な配慮をもって書いていることが多いと感じる今日この頃。今日もそんな感じ。



 普通なら、「いいこというね」とスルーするところですが、腐儒が空気を読まずにこれを検証するとしたらどうすればいいか。
 ある漢字が伝統的にどのようによまれてきたか(訓読み)ということを調べるには、そういった訓を集成してきた『類聚名義抄』や『字鏡集』や『倭玉篇』といったものにあたることになります。しかし、このような古辞書の類は、そのスジの人なら当然自宅の書斎に備えつけているわけですが、一般家庭にあるような代物ではない。それに、いちいち何冊もの本に目を通すのは面倒ですよね。
 そこで便利なのが『角川大字源』の「古訓」欄です。本書は一家に一冊置いておくといい辞書だよ。
角川大字源

角川大字源

 本書は漢字の古訓を「中古」「中世」「近世」と時代別に分類して掲出するのですが、その典拠となったのがそれぞれの時代の代表的な古辞書の類。
 「中古」は

新撰字鏡 類聚名義抄 本草和名 三巻本色葉字類抄

 「中世」は

倭玉篇 運歩色葉集 節用集 キリシタン版落葉集

 そして「近世」は

節用集 毛利貞斎増続大広益会玉篇

から採録している(凡例8頁)。古訓を通覧するためのツールとしてこれほど役に立つものはありません。
 「「死」の読み方はたった一つ」という主張なので、試しに引いてみると(958頁)、

 まあそんなわけで・・・。
 それでは「最も多くの読みを持つ」とされた「生」はどうか、それより訓が多い字はあるのではないか。自由研究がまだ白紙状態なら駆け込みでやってみてくださいね。
 最後に一つだけ。ここからが実は最重要のことなのですが、古辞書に列挙されている漢字のよみが正しいとは限りません。実際の用例が見当たらない「幽霊訓」があったり、誤字・誤写があったり、ほかの字の訓が紛れ込んでしまったり。そこで、漢字の意味とそれにあてられた日本語のよみの意味がキチンと対応するかどうかを調べる作業が肝要なのです。
 今回の「死」も、一見して明らかに不審なよみが一つありますよね。「中世」で掲げられている「ココロザシ」の訓。
 念のために『倭玉篇』を調べると、たしかに「コヽロザシ」というよみを付している。

京都大学図書館蔵『倭玉篇』http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/i189/image/02/i189l0102.html
 果たして、漢語「死」と日本語「こころざし」は結びつくのか、それとも何かの誤りか。「死」「こころざし」双方の語義を調査しつつ、できれば実際の文脈を押さえたい。なかなか難しいのですけど、実はここからが楽しい。
 これは自由研究ではなくて、大学生がレポートで書けばいいんじゃないかな。